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チェコ人の彼氏とオノマトペの思い出。

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人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜

記事:草間咲穂(ライティング・ゼミNEO)
 
 
ハタチに成り立ての頃から3年半、チェコ人の彼氏がいた。
 
 
彼とは同じ学生寮に住んでいた。
その学生寮は小田急線の成城学園前と京王線の仙川駅の中間地点、
高級住宅街の中にどーんと建つ古い建物だった。
 
 
世界各国から集まった海外留学生が300人ほど住んでいて、
常に色々な言語や匂いで溢れていて、日本にいながらとても刺激的な環境だった。
 
 
日本人が5人だけ、留学生の日本語の手助けを目的に激安で住むことができ、
「私の代わりに入らない?」
と女子大の先輩からたまたま誘われて入寮することになった。
 
 
もう少し難航するかと思いきや、その誘いをもらった日に
「2週間後に家を出ます!!」
と両親に伝えると、拍子抜けするぐらいあっさりと
「わかった」
と言われ、入寮した3日後にチェコ人の彼と出会い、
一目で惹かれて、ラッキーな事にすぐお付き合いすることになった。
 
 
彼は留学前にチェコの大学院を卒業し、
日本では一橋大学の大学院で経済学を学びにきたスーパーエリートだった。
「経済歴史的観点におけるバブル期のなんちゃら」、みたいな難しい研究をしていた。
 
 
明らかに私よりも難しい日本語を知っていた。
そして顔は、偏見なくトムクルーズみたいで、正直めちゃくちゃにかっこよかった。
 
 
それまで女子大通いで、恋愛経験が多いとは言えなかった私は、
 
「あぁ、、大好きってこういう気持ちなのねっ!!!!!」
「私は今、大好きという気持ちにまとわれて生きているーーー!!」
 
みたいな事をかなり真面目思い、
勉強もほとんど手につかず、彼の事をずーっと考える日々を過ごしていた。
 
とてつもなく、とてつもなく浮かれていた。
 
 
 
ある日、付き合って半年ぐらいだったか、しばらくたった頃。
 
 
「今時間ある?ちょっと部屋にきてくれないかな?」
 
というメールが入った。
  
 
好きな人からの呼び出し!!!!
嬉しすぎてめちゃくちゃドキドキした。
 
同じ寮なのでダッシュで行けば15秒でいけたけれど、
興奮がバレるのは恥ずかしいから、あえてちょっとだけ時間をおいて向かった。
 
 
部屋に入るなり、PCに向かって座ったまま顔をこちらに向けて、
 
「これってどういう意味か教えてくれない?」
 
そう言って、彼は机の上に広げた本を指さした。
 
覗き込むと、そこには全然見覚えのない漫画があった。
タイトルも思い出せないぐらい無名の、コミック系っぽい漫画だったと思う。
そして漫画には付箋がいっぱい貼ってあった。
 
「どういう意味ってどういうこと?_」
 
と指の先を見ると、吹き出しの中にこう書いてあった。
 
 
”ズババババババババババーーーーッッ!!!”
  
 
戦士みたいなキャラクターが
怪獣のような生き物に向かって銃のような武器を撃ち放っているシーンだった。
 
 
「チェコの出版社から頼まれて、日本の漫画をチェコ語に訳してるんだ。
でも意味がわからないから教えてほしくて」
 
 
彼のPCを見ると、吹き出し中が空欄になっている漫画のデータがあって、
すでにいくつかのチェコ語が打ち込まれていた。
 
 
ほぅ……。
 
”ズババババババババババーーーーッッ!!!”
の意味なんて考えたことがない。
 
日常ではよく似たような事を言っているけれど、
「考えるな、感じろ!」
みたいな方がどっちかというと得意だし、
生まれてこのかた「意味」なんて考えてたことがなかった……
 
でもその時、ここで日本人として答えない訳にはいかないだろ、
というプライドがちょっと働いたように思う。
そして、大好きな彼の役に立ちたかった。
 
なので、めちゃくちゃ考えた。
 
「これはこの戦士みたいな人が、怪獣に向かってテッポウを打つときに、
当たれーー!!倒したいんだーー!みたいな気持ちだと思うんだけど、
それを日本語で言語化するとこうなるんだよ……!」
 
多分、そんな感じに言った様な気がする。笑
 
あってるのかこれ!と思いながら、
せっかく頼ってくれているのに答えられないのは悔しいので、とりあえず答えた。
すると、
 
「あー、なるほどね!」
 
本当かいっ!
と思ったが、彼はPCに向かって長々としたチェコ語を打ち始めた。
なんて書いてあるかはわからないけど、でもなんだか伝わったようだった。
 
「じゃさ、これはどういう意味?」
 
ペラペラめくった指の先を見ると今度は
 
「ゔっ……!!」
 
と書いてあった。
 
ほぅ……。
 
さっきの怪獣が横たわっているシーンだった。
 
”ゔっ……!!”
の意味も考えたことなんてない。
 
絵を見たら一目瞭然なんじゃないか?と思ったけれど、
そうではないみたいだった。
何回か床を実際にのたうち待ったりしながら、必死に伝えた。
 
もう何て答えたか正直覚えていないけれど、
しばらく試行錯誤しているうちに、
「本当に大丈夫?」
と思うほど、長文のチェコ語になって打ち込まれていった。
 
結局1時間以上、「この意味は?」を繰り返し、ようやく1冊の最後まできた。
結構な疲労!!
でも大好きな人の役に立てたかもしれないと思うと、そんなことどうでもよくて、
達成感を感じていた。
 
 
「いやー、ありがとう。
日本語ってほんとオノマトペがむずかしいんだよね。」
 
 
そこでわたしは初めて「オノマトペ」という言葉を知った。
 
”オノマトペ”
擬音語、擬態語の意味。
自然界の音、声、物事の状態や動きなどを象徴した語。
現実の音や声を人間の言語でそれらしく表した言葉や、現実には音の聞こえない状態をあたかもそのように聞こえるかのように表現した言葉。
 
 
よく「チャプチャプ」、とか、「ワナワナ」、とか、「ドキドキ」とかよく使うが、
海外にはないということを初めて知った。
 
その後、未だにタイトルも覚えていない漫画を3巻ぐらい一緒に訳した。
 
訳した、というか、独断と偏見によって、無理矢理に言語化したことを、
さらに彼がチェコ語に独断と偏見によって変換した。
 
その時間は最高に面白かった。
ロシア人の寮生からオノマトペを研究していると聞いたら、
彼女の研究には全く興味がなかったけれど、彼の役に立つならと、
 
「時間をくれ!!」
 
と言って教えてもらった。
その彼女が、村上春樹の作品オノマトペの宝庫だと聞いたので、
必死になって作品を読み漁った。
 
大好きな人の役に立ちたい、という動機は間違いなく、
一番エンジンがかかった。
今でも思う。
あの時は、めちゃくちゃ努力した。
 
何を努力したか。
「うっ」とか「ぴちゃぴちゃ」の意味を言語化して伝えることを頑張った。笑
 
そのうち、彼からお呼びが掛からなくなった。
自然と日々のやり取りで、雨が道路に落ちたら、
 
「ぴちゃぴちゃ」
 
と彼は言うようになり、
 
私が竹槍で突くふりをすると、
 
「ぎゃ!!!うっ!!」
 
と言うようになった。
 
今でもふと思う。
私が独断と偏見で訳したものを
彼が独断と偏見で訳したものが
チェコのどこかでよまれていると思うと、ちょっとだけ不思議な気持ちになる。
 
 
間違いなく、あの時、私は努力したと自負している。
オノマトペの意味を言語化しようと鍛錬した。
 
でも今、その鍛錬は役にやっているのかなぁ。
 
そういえば、天狼院に転職して店頭に立って本をお勧めする時にちょっとは使えているかもしれない……。
 
「この本、読み終わった後、うわぁぁぁぁ!!!!ってなるんです!!」
「なんか、心の中から、ぶわーーーって湧き上がる感じです!!!」
 
今のところ、恐らく打率0.5割……
20人に一人は「じゃ買おうかな」と言って下さる。
 
最近同僚に「草間さんは自覚ないかもしれませんが、圧が強いです」
と言われたけれど、
 
「うわぁぁぁぁ!!!」
っとか
「ぶわーーー」
という時、単純に圧を感じるから、変わらずを得ないのかもしれない……
 
あの時、チェコ語に興味を持って勉強していたらもっと違う人生があったかもしれないなぁ、
など思ったりもするけれど、今が楽しいからいいか!
 
 
 
 
***
 
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2022-04-20 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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