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この春ウチに配属されたヤツは、○○みたいなヤバいヤツだった


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記事:nonchan(ライティング・ゼミ4月コース)
 
 
2022年4月1日。
ウチの部署にとんでもないヤツが加入した。人の見る目がない私でも、直感的にただものでないとわかってしまう、そんな人が現れた。
 
その人の名を仮にKさんということにしよう。
配属早々、人事部の偉い人がKさんに会いにきた。私は、Kさんって顔が広い人なんだ、程度にしか思わなかったけれども、部署の幹部たちは違った。Kさんが人事の偉い人と会話しているとき、幹部たちの顔が顔芸だった。なんで彼はあの人と面識があるんだ、あり得ない、みたいなギョッとした顔。幹部たちのリアル顔芸が私にとって印象深かった。次の日、広報の方と仕事をした後、Kさんは真っ先に広報の偉い人の元に行って挨拶した。どうやら昔一緒に仕事をしていたらしい。流石に私もKさんが只者じゃないような感じがした。
なぜか?
実はKさんは私と同年代の人。ウチの会社の中では、まだまだ若手に数えられる立場。本来ならば、人事や広報の偉い人たちと一緒に仕事ができる立場ではないはずだ。ウチの会社は小さな会社ではないから、それなりに入社年数を重ねないと、会社の重要なポストの方たちと一緒に仕事することはまずありえない。
Kさんは一体、何者なんだ?
 
「Kさんって昔、何をしていたんですか?」
 
私はKさんに単刀直入に聞いてみた。
 
「昔、経営企画をやっていたんですよ」
 
ケイエイキカク?
まさかKさんが我が社の経営方針を作っていたのか?
それはそれでヤバいぞ。すごいぞ。
 
「経営企画って何の仕事をしているですか?」
 
Kさんに聞いてみると、予想の斜め上の答えが返ってくる。
 
「要するに、会社の偉い人たちのカバン持ちっすよ」
 
カバン持ち? 経営企画っていうからには、経営方針を考えるじゃないのか?
失礼ながら私はカバン持ちのことを、いつも偉い人のそばについてゴマをすって、根も葉もないお世辞を言う人だと思っていた。偉い人の気分を害さないよう、偉い人が乗るタクシーを先回りで予約する、偉い人のパシリに使われる人だと思っていた。けれども、Kさんの話を聞けば聞くほど、私の中にあるカバン持ち像はあっという間に崩れ去る。
 
Kさんは会長のカバン持ちをしていたらしい。会長をはじめとした経営陣と仲良くなる。特に秘書さんと仲良くなる。どのポジションに誰がいて、どのような仕事をしているのか、どのような人間関係なのか、情報収集を怠らない。忙しい会長のスケジュールを秘書と一緒に調整する。会長はKさんの携帯の番号を知っているから、いつ会長からKさんに電話がかかってくるかわからない。電話がきたら最後、会長の懐刀として、自分を捨てて仕事をしなくてはいけない。会長の意向を社長や各部長に伝えるメッセンジャーにならなければ習いない。たとえ相手が自分より格上の部長であってもだ。私だったら身も心も持たなくなる仕事を、Kさんはやっていたのだ。
 
「nonchanさん、××さんってどんな人ですか?」
 
不意にKさんに話題を振られた。
 
「実は私、よく知らなくて……」
 
「そういう情報が大事なんですよ!」
 
怒られてしまった。
 
「人の顔と名前を覚えるのが昔から苦手で……」
 
「いやいや。相手の顔と名前と趣味と、色々覚えておいた方がいいですよ。いつか再会した時にこっちから挨拶できますからね。挨拶されて、おまけに趣味のことを聞かれて、気分を悪くしない人はいないでしょ?」
 
確かにその通りである。
 
「会話で自分と相手との共通点を見つけるんですよ!共通点があれば仲良くなれるし、仲良くなれば仕事がやりやすくなるじゃないですか。そういうことでnonchanさん。一緒に飲みにいきましょうよ!」
 
Kさんの明るい会話に押されて、私は彼とサシで飲みにことになった。いやあ、根掘り葉掘り質問された。サキュバスが精気を吸い取るみたいに、私の個人情報がどんどん吸い出されていった。
出身のこと。
家族のこと。
仕事のこと。
普段の生活のこと。
普段は会社の人に言わない自分の情報をKさんの前でベラベラとしゃべってしまう。多分、このまま飲み会が続けば、Kさんは私の個人情報を全て吸い取ってしまうだろう。反対に、ギブアンドテイクなのか、Kさんは今まで私が知らないような社内の事情を教えてくれた。
取締役の○○さんは本当に頭の回転が早い人だ。
昔××さんは、社内で一番忙しいポジションにいたから、実は本当に仕事ができる人だ。
などなど。
会長の懐刀として、仕事ができる人たちと何人も会ってきてわかったこと、Kさんはそれを私に教えてくれた。本当はもっとヤバい話を色々知っているんだろう。多分、私の前だから言わないだけで。
 
「何でそんなに詳しいんですか?」
 
Kさんに聞いてみる。
 
「人の名前と顔と趣味と覚えているからですよ」
 
同じ答えが返ってきた。しかもKさんはメモを取らず、相手の情報は全て頭の中に入れているらしい。こうして様々な人と仲良くなって、スポンジのように情報を吸収して、事情通になったらしい。Kさんは社内事情がわかっていて、おまけに人当たりもいいから、周りの人はどんな役職の人でもKさんに仕事を頼むわけだ。Kさんは一般社員から会社幹部まで、誰に対しても話しかける。その姿は、ある時は町の商人と噂を話し、ある時は大名の密命を受けて暗躍する、まるで戦国時代の忍者に近い。普段は明るく振る舞って色んな人に挨拶するKさんは、実は社内で暗躍する忍者だった。
 
「nonchanさんもやってみればいいじゃないですか。もったいないですよ!」
 
確かに、私は今まで他人に興味を持たず、自分が好きなことにしか興味を持てない人だった。それじゃ仕事が進まないだろう、とKさんからツッコミが入りそうな気がする。けれども、私も自分から他人に興味を持って話しかける、それだけで仕事が前に進むのなら、Kさんのいう通りやってみる価値はありそうだ。流石に私は、Kさんのように会社で暗躍する忍者になれないと思う。けれども、せめて自分から人の名前と顔を覚えて、自分から相手に挨拶して、年月が経っても相手を忘れない人、そんな素敵な人になりたいものだ。
 
この春、ウチに忍者が配属された。その忍者は社内事情に精通したヤバいヤツであり、コミュニケーションの達人だった。
 
 
 
 
***
 
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2022-04-27 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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