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私の警報器を鳴らすアイツの存在

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*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜

記事:西元英恵(ライティング・ゼミNEO)
 
 
ピコン ピコン ピコン ピコン……
私の警報器が鳴りだした。
 
や、やめろ。それ以上続けられたら、こっちの理性がふっ飛ぶ。
なんとか冷静を保とうと、目を閉じ呼吸を整える。私は大きく息を吐きだした。
ふーっ……。まだ大丈夫だ。
 
そう思った次の瞬間、私の期待は簡単に裏切られた。
 
「モォ、タベナーイ!!」
さっきから不機嫌そうな顔でぶつぶつ文句を言っていた次男は、そう叫ぶと同時に皿を勢いよくぶちまけた。ブロッコリー、トマト、卵焼き、ソーセージ……色とりどりの具材たちが宙を舞って、リビングの床にそれぞれ着地する。顔を真っ赤にして泣き叫ぶ赤鬼に対して、私は能面のような顔で着地したおかずたちを見つめていた。怒りを通してもはや無の境地だ。
 
3才の次男が絶賛いやいやキャンペーン中であるらしい。
さっきまで笑っていたかと思うと、急にわめきだしたりして本当に気が抜けない。この次男の爆発のあとに私がやらねばならないTODOリストを頭に思い浮かべると、ため息が出る。
床に散らばったおかずを拾い集めて、拭き掃除をし、最後になるべく冷静を保った状態で次男に「そういうことは、してはいけない」と諭すのだ。しかも、まだ食べたいと言えば朝食を作り直すはめになるかもしれない。
このわけのわからん赤鬼に? なんでそこまでこっちがへりくだらなきゃならんのだ。アホらしい。
 
しかし、母親というものはどうやらそうやって子供を育てなければならないらしい。はっきり言って苦行でしかない。
 
「あのね、○○、ごはんをひっくり返したらいけないよ」
「ウルチャイ!」
食事のテーブルから離れ、リビングのソファにつっぷした彼に話しかけるが、全身に力を入れて大声で返してくる。顔をあげさせようと抱っこを試みるも、自転車を漕ぐみたいにめちゃくちゃに蹴り出してくるキックの一つが胸のあたりにドンっとヒットした。
 
プツン。
自分の気持ちが切れる音が聞こえた。
 
 
あー、もうだめだ。お母さん限界でーす。
 
この沸々と湧き上がる怒りのままに、次男に手をあげるわけにもいかず、私は急いで誰もいない寝室に駆け込んだ。
(あーっ! もう!!!!! 少しは言うこと聞けっつんだよ! チクショー!)
心の中でできる限りの悪態をつきながらマットレスをボコボコに殴る。もう世話焼かんぞ!
 
日々のなかで繰り返されるイヤイヤの数々は、私の心を急速に疲弊させる。あんなに可愛かった天使はどこに行ってしまったんだ。
 
次男はもともと人見知りも少なく、口角がいつも上がっているようなニコニコしたタイプで、その愛想の良さから外出先でご婦人方に声を掛けられることも少なくなかった。いつもニコニコしてくれているとこちらも嬉しく、心の平安を保ちやすい。そんな次男に感謝の念さえ芽生えた。
 
それが、今はどうだろう。
ご飯、着替え、お風呂、歯磨き、トイレ……日常のさまざまな場面で何かちょっとしたきっかけで激昂する。そうなってしまうと手がつけられない時も多く、本人が落ち着くまでただひたすら待つのだ。なんと生産性の低い話だろう。結局、事あるごとにワーワー言う次男を相手にする時間が多く、家事もままならない。
 
あまりに癇癪がひどいので、私は幼稚園の先生に相談した。幼稚園の先生は子供対応のプロだ。それに私が普段見ることのできない幼稚園生活の中での次男の様子も丁寧に教えてくれる。家庭の様子、幼稚園での様子、本人の元々の性格などから彼が今どういう心理状況なのかプロファイリングしてもらうことにしたのだ。
 
すると、ひとつの真実が見えてきた。
それは、毎日お母さんが恋しくて泣き叫ぶ子供たちの間で次男が幼稚園生活を送っているということだ。
 
次男は昨年の四月に2才という幼さで幼稚園にデビューした。この園では4年保育が可能だったからだ。
本人は2年目ということもあり、すっかり幼稚園生活に慣れ親しんでいるのだが、同じ教室には今年四月に新たに入園してきた子供たちがたくさんいる。その子たちが何かにつけ泣く姿をみるうちに心が負荷がかかっているのかもしれない、という先生の推測だった。
しかも、まだ3才と小さいながらに「先輩」に昇格してしまった次男よりも、まだ手のかかる新入生のフォローに先生方が忙しく、もしかしたら寂しさを感じているのかもしれないということだった。
しかも、幼稚園ではほぼ一日おりこうさんにして過ごしているというではないか!
 
あぁ、3才なりに外で気を張っていたんだね。それなのにただの癇癪で処理しようとしていた。わかってあげられなくてごめんよ……。
先生に泣きごとを言わず一生懸命に頑張っている姿を想像すると、目の奥が急にカッと熱を持った。ごめん、お母さんが未熟でした。
 
「新入生が落ち着いてくれば、○○ちゃんも少し落ち着きを取り戻してくれると思いますよ」
先生の笑顔に大丈夫かもという希望が湧いた。
 
その日、園庭で立ち話になった一人っ子のママさんは、私に子供が二人いることについて
「じゃあ、もう色々わかってらっしゃって。ベテランですね」と言った。
 
いやー、とんでもない。子育ての手さぐり感が消えることって一生無いのかもと思ったりしてしまう私がベテランを名乗る日はいつかくるのだろうか。下手したらずっとペーペーみたいな気分かもしれない。
子育ては一度始まってしまえば、それはもうずっと続く耐久レースだ。ヒーヒー言いながらでも、それでも愛情を確かに持って育てていくのがきっと母親の使命なのだろう。
 
翌朝。
トイレの後、パンツを履かないと言って次男が廊下に寝転んでいる。もちろんお尻は丸出しだ。
「そろそろパンツ履こうよ。お腹冷えちゃうよ」
「イヤなの!」
綺麗事だけで語れない子育て。しばらく私たち二人のバトルは続きそうである。
 
 
 
 
***
 
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2022-04-27 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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