メディアグランプリ

人に頼るのが苦手だけど、「誰かを頼ってもいいんだ」と思えたキッカケ

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*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜

記事:香月祐美(ライティング・ゼミ2月コース)
 
 
痛いところを突かれた。
ごもっとも過ぎて言い返せず、マスクの下でムッとした。
 
「人に頼るのが、ホント下手!」
上司に怒られたのだ。
昔、見た映像が頭に浮かぶ。
「自分一人でなんとかしなきゃって頑張って空回っていたけど、人に頼ることができるようになって仕事が上手くいくようになりました!」
これから社会人になる人に向けて語る、20代の女性の笑顔だった。
 
かたや……。
20代なんて微かに見える星の輝きくらい遠いどころか、目前に迫る40代。
「だって自分でやった方が早いし、誰かに相談したところで、結局は自分で何とかしないといけないじゃん?」
自分でなんとかしなきゃ
自分が頑張らなきゃ
そんな風に、ベクトルが外ではなく自分に向いてしまい、人に頼れない自分。
あまつさえ上司に指摘されて、不貞腐れている。
 
……頼り下手な抱え込みグセを書きながら、思わず自分に突っ込んだ。
全部自分って考え過ぎないで、もうちょっと楽に生きたらどう?
 
なんて。
言うのは簡単だし、抱え込まずに頼った方がいいって、頭では分かってる。
なのに、理想と現実は噛み合わないもので。
塾講師になって頼られることが増え、それに比例するかのごとく頼り下手は加速し続けている。
困りごとがあっても、本を読んだりネットで調べたりして、直接誰かに頼らなくても自分で解決できることも多い。
これまでだって、そうやって乗り切ってきた。
 
そしてこの日、やってきた靴屋で悶々とすることになる。
いつも行く店に合う靴がなくて、3軒目のハシゴだった。
初めて来たこのお店で靴が見つからなかったら……普通の靴で数日雨の中を歩くことになってしまう。
小さい頃、雨の中を歩いて水をたっぷり含んだ靴が、歩くたびにキュッキュとなるのを思い出した。
そんな状態で長いこと歩き続けるのはちょっと……いや、だいぶ困る。
売り場についた私は、とにかく靴が欲しくて前のめりで靴を探す。
 
「何か運動してるんですか?」
お目当てを見つけ、早速試させてもらおうとしたら、その前にという様に店員さんに話しかけられた。
「ウォーキングするんです、30キロくらい」
へぇ、すごいですね、と店員さんは言いつつ、あれよあれよという間に私の足を測定し、合いそうな靴を持ってきた。
これまで、もう3,000キロ近く四国を歩き回ったっけ……なんて思い返しているうちに、店員さんは靴ひもを全てほどいていった。
あれ、全部ほどくの? と思いながら、言われるがまま靴に足を入れる。
そして目の前で跪く店員さんの膝に、靴のつま先をのせる格好になった。
「靴ひもってこうやって締めるんですよ」と言いながら、靴ひもを締めていく店員さん。
 
その様子を、正直、大丈夫かな……と思いながら見ていた。
モヤモヤを感じながら靴ひもが締まる様子を見る私は、頼るどころか不安が増している。
だって、靴ひもを締めるのが好きじゃない。
30キロ歩くと足がむくむから、靴ひもを締めすぎると足が痛くなって歩けなくなるのだ。
だから、足首に近い部分以外、そもそも靴ひもを通さない方がいいと思っている。
店員さんも知識はあると思うけど、私だって、3,000キロ歩く間、いろんな靴を履いて試してきた。
だから、「私の方が」どんな靴が合うかなんて分かってるハズ。
 
シュッシュッとひもを締める指先を見ながら、そんな思いが次々に頭に浮かんでいた。
店員さんと話しながら、悶々と頭に浮かんだ言葉を拾い上げる。
その時ふと、ああ……「ココ」だよなと思った。
人を頼るのが下手で、抱え込むクセの根っこにある気持ちは。
 
「自分の方が知ってる、経験がある」そんな思いが、誰かを頼れなくさせているんだと思った。
勝手に、自分を相手よりも上だと考えてしまう。
だから、助けてくれようと差し出された手を、これまでもうざったく思っていたのではないか。
「人に頼るのが、ホント下手!」と言った上司の言葉を思い出した。
そうだ、仕事だってそうだった。
自分の方が経験も知識もある、だから人を頼らないのか?
そんなこと分かった上で、もっと人を頼ったほうがいい。
そう言われていたのに。
 
上司の言葉に、現実ではムッとするだけだったけど、心の中で反論した。
頼ることで何かいいことがあるの?
だって、自分の方がうまくやれるハズなのに?
 
グルグル考えていると、店員さんが仕上げにリボン結びをした。
あれ?
意識が現実に引き戻されて頭に浮かんだのは、シンデレラのガラスの靴だった。
思わずそう思ってしまうくらい、なんだか履き心地が良い。
長い時間歩いたら、結局いつもみたいに靴ひもを外さないといけなくなるかもしれないけれど。
でも。
 
自分の方が分かってるとか、もっとうまくやれると思うとか、必ずしもそれが全てじゃないこともあるのかな。
ガラスの靴のようにピッタリの靴を見下ろしながら、ふと思った。
確かに、歩いた距離は自分の方が長いかもしれないし、履き潰してきた靴も多いかもしれない。
それで自分の方が分かっている気になって、人に頼らず、自分だけで何とかしようとしなくても……いいのかな。
 
こういう結び方もいいなと思いながら、履かせてもらった靴で試しに歩いてみる。
歩き心地も良くて、ガラスの靴を履かせてくれた店員さんが王子様に見えてきた。
振り返ると「どうですか?」と言いたそうにこちらを見ている。
思えば王子様は、足の測定から始め、靴底と足の形が合うのか確認し、お勧めをしてくれた。
自分だけで何とかしようと抱え込む前に、誰かを頼って相談してみるたら、何か変わることもあるのかもしれない。
「とってもいいです。いつも、靴が迷子だったから」
口を開いたら、そんな言葉が出ていた。
「そうですよね」
言いながら私が履いてきた靴を見て、王子様はたくさんアドバイスをくれた。
そっか、誰かを頼って見てもいいんだと、なんだかホッとした。
 
自分が知っている一番いい状態、だけを正解にしなくていい。
それ以外は全てダメだなんて、最初から勝手に決めつけなくてもいい。
だから、誰かに頼ることはもっと気軽に考えてもいいのかもしれない。
 
シンデレラの魔法は12時に解けてしまったけれど、魔法なんかで頼り下手が元に戻ってしまわないように、少しずつ行動を変えてみよう。
無事手に入れた靴を手に、お店を後にしながらそう思うのだった。
 
 
 
 
***
 
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2022-05-03 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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