40年間ずっと開けずにいた「興味の扉」を開けてみた
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人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜
記事:深谷百合子(ライティング・ゼミNEO)
凹凸のある濃いグレーのスポンジが壁一面に貼られた小さくて薄暗いブースは、私にとって初めての空間だった。ブースの奥にはミキシング装置や録音装置が所狭しと並んでいる。赤いクロスがのった机の上には、マイクとヘッドフォンが置かれていた。
「奥の席にどうぞ」と案内されて座る。いよいよこれからラジオ番組の収録なのだ。
台本はつくってきた。家で練習もして大体の時間配分もつかんでいる。でも、できるだけマイクに顔を近づけて話さないといけないから、台本をガン見して読むこともできない。
「いくらでも編集できるから、リラックスしてやってもらえばいいですよ」とディレクターは言ってくれるけれど、初めての経験はやはりドキドキする。「噛んだらどうしよう?」、「自然な語り口調にならなかったらどうしよう?」と不安が押し寄せてくる。
ディレクターからひとしきり説明を受けたあと、番組のタイトルコールから録音することになった。ヘッドフォンを装着すると、すぐ横にいるディレクターの声と自分の声がヘッドフォン越しに聞こえてくる。何だか不思議な感じだ。
「僕が、3、2、1と合図を出します。ひと呼吸おいてから、タイトルコールをお願いしますね。じゃあいきますよ。3、2、1」
ディレクターが指で3、2、1と出す合図に、「テレビを見ているみたいだ」と思いながら、私は言われたとおりにひと呼吸してから、タイトルコールを読み上げた。
ラジオ番組のパーソナリティをやることは、はるか昔、私がまだ学生時代の頃、ひそかに抱いていた夢のひとつであった。音楽を選曲して、自分の言葉で紹介する。自分の言葉が音声となって、誰かの心に届く。自分の言葉が、時には誰かを励まし、時には誰かを慰める。そういうのって面白そうだなと思っていた。けれども一方で、そんなのはとうてい自分には実現できないただの夢だとも思っていた。
それから40年以上が経った。今は誰もが気軽に音声配信を楽しめる時代だ。私も「ラジオ風」に仕立てた音声を、SNSで何度か配信したことがあった。それで十分満足していたのだけれど、私の本心はもっと欲深かったようだ。
今年の3月、名古屋のコミュニティFM局でプロデューサー業務を引き受けることになった友人が、パーソナリティをやってみないかと私に声をかけてくれたのだ。
願ってもないチャンスである。「自分が勝手に音声配信するのならともかく、ちゃんとした番組をつくるなんて、私にできるだろうか?」という不安が一瞬頭をよぎった。けれども、やりたくないという気持ちはどこにもなかった。本当はやってみたくて仕方がない自分の気持ちを素直に認めて、「やる!」と宣言した。
番組の構成をつくり、途中でかける曲を決め、台本をつくり、大体の時間配分も確認して臨んだ収録は、意外にも順調に進んだ。もちろん、途中冷や汗をかきながら、アドリブで話を引き延ばしたり、5月下旬の放送なのに「ハナミズキ、今きれいですね」とうっかり発言してしまったりと、色々な失敗もあった。その一方で、今まで好きでやってきたことが、繋がってくるのを感じてもいた。
例えば、滑舌とか発声、間合いの取り方は、「朗読ゼミ」の練習で身につけたことだった。何かになろうとして朗読を学んだわけでなく、ただ音読することが好きだから始めたことが、ここで生きてきた。
「~です、~ましょうっていう時、文末の音がちゃんと下がっていていいですね」とプロデューサーやディレクターから褒めてもらえたのは、中国語の音読レッスンで教わってきたことが生かされていたからだ。
他にも、リスナーへのお知らせの伝え方とか、コンテンツとして提供する話題など、どれも自分が好きで学んできたことや、好きでやってきたことを生かすことができていた。
自分の「好き」や「やりたい」をずっと続けてきたその先が、「ラジオパーソナリティ」に繋がっていたのだ。そして、その「ラジオパーソナリティ」もまた、私にとってのゴールではない。その先につながっていく「興味の扉」のひとつなのだと私は思っている。
40年間ずっと開けずにいた「興味の扉」を私は今開けたのだ。その先はどこに繋がっていくのか、今はまだ分からない。けれども、扉を開けたその先は、まだ見ぬ新しい世界だ。そこでまた、私は好きだと思うことや、やりたいと思うことに出会うだろう。その時は、迷わずにやってみようと思う。そして、やるからにはとことんやる。そんな自分のプロセスを音声で伝えていくことで、誰かの興味の扉を開く「呼び鈴」になれたらいいなと思っている。
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