メディアグランプリ

朱雀モンブランが教えてくれた自分軸のつくり方


*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜

記事:みなみあすか(ライティング・ライブ福岡会場)
 
 
会社帰りのデパ地下で……。
「今、入りました~」と威勢の良い声で店員が到着したばかりの商品を出している。
一人の女性がさっと迷いもなく買い物かごに2つ入れた。
「何だろう?」
ショーケースをのぞき込むと、うあ! まん丸のモンブラン。
そう、長野県の老舗菓子店、小布施堂の朱雀モンブランだった。
ビジュアル的にもインスタ映えがして、どう見ても美味しそう。食べたいな……。
 
次の瞬間……。
えっ、ひとつ1,728円。
かなり高額な高級菓子だった。 二人分買ったらホールケーキが買えてしまうお値段。
あのご婦人は何らためらいもなく購入された品である。
 
実はこの日、別のスイートを買いに来ていた。
バタープレスサンドだ。朝から今日はバタープレスサンドを買ってお茶をしようとワクワクしていた。
それが、この朱雀モンブランを前に……心が揺らぐ。迷うな……。
予定外に出逢った朱雀モンブランに飛び込むか、予定通りのバタープレストサンドに落ち着くか……。
朱雀モンブランを2つ購入したらバタープレスサンドが3箱買える、いや、モンブランの予算があれば、
ひょうたん寿司で2折とデザートにバタープレスサンドが買えてしまう……と、
頭の中で色々な計算が働きだした。
計算の結果、予定通りのバタープレスサンドに軍配が上がった。
 
その後、朱雀モンブラン売り場を見ていると、皆この前で必ず立ち止まる。そして、しばし考える。
モンブランへの熱いまなざしとモンブランからの「買って~」という熱いラブコールのやりとりが
垣間見られる。そして、じーっと見つめた後、売り場を離れていく人々。
私と同じように色々試行錯誤しているんだろうな~ と頭の中を覗き込んでみたい気持ちにかられる。
 
あのご婦人が迷いもなく2つの朱雀モンブランを購入されていたが、
この1つ1,728円というデザートにしては高額な金額のバーが人の行動の制限を作る。
本来はこれが食べたい、こうありたい、こうしてみたいという純粋な想いがあるものの、何かの制限によって叶えてこれなかったことがどれだけあるだろうかとふと考えた。
毎日行っている日常生活の中での小さな選択と決断の結果で人生がつくられていると考えると、
今回の朱雀モンブランを選ぶか、バタープレスサンドを選ぶかといった選択さえも私のその後の人生をつくっているといっても過言ではないかもしれない。その選択が自分の経験となり、何かをとらえる軸をつくっているのだ。
 
その「何かをとらえる軸」とは昨今よく耳にする「自分軸」というワードに近いのかもしれない。
「自分軸を持った生き方をしよう」「これからの時代には自分軸が必要」などといったフレーズを昨今
耳にする。そんな場面において、果て? 自分軸って何? と思われている方もいるかもしれない。
又、早く自分を確立しなければいけないと焦りを感じることもあるかもしれない。
私もその一人である。
 
コロナ禍を経て色々な価値観が変容している現在、今まで叶わなかったことが可能になるかもしれない土壌が生まれてもいる。また、時間も以前よりも持てるようになってきている人が少なくない。
そんな環境下はある意味、チャンスの入り口に立っているともいえる。
しかし、そんな中、「自分はいったい何をしたかったんだろう」という純粋な部分を見つめてみると、
果て? 何がしたいんだっけ? と本当の想いが雲隠れしていることに気付く。
そして、まずは自分探しからのスタートである。
 
何故そうなってしまったのか?
 
子供の時には食べたいものは食べたいと主張し、食べる。泣きたい時には顔を真っ赤にして妥協なく泣いて感情をすっきりさせる。怒る時にはママを困らせる位、不機嫌になり自分の意志とは違うんだとはっきり伝える。そんな心の想いに純粋に従って生きていた子供時代は自分の中にブレはなかったはずだ。その後、学校や会社といった社会生活の中で、その想いが叶わなくなり、蓋をしなければいけない状況の中、自分の中に折り合いをつける術を身に着けてきたのだ。
色々な想いや願望がもぐら叩きのように顔を出しても、すぐにそれらを叩いてしまっているうちに、
もぐらが顔を出さなくなったようなものだろうか。
 
本当は文章を書くのが好きで小説家になりたいが、家族を養っていくには難しいと別の選択を……。
本当はバレエが好きでバレエ団でプロのダンサーとして活躍してみたいが、経済的に安定しない業界なので職業としては諦めよう……など、「本当は……」の部分を何らかの環境要因によって打ち消し、自分の中で納得を仕立てて生きてきた。このように自分の中に折り合いをつけていく中で本当に望むものが分からなくなってしまったのだ。
 
皆さんはそういう経験ないだろうか?
 
また、そんな人生の大きな指針もさることながら、日々積み重ねてきた小さな選択。これも見逃すことができない今の自分を作っている因子である。今回のようにどちらのデザートを食べるのか?
心から食べたいというものを素直に選択できていただろうか? 旅先でこの宿に泊まってみたいと思っていたが、予算の問題で違う選択をしてなかっただろうか? この人に会ってみたいと思いつつも色々理由をつけて伸び伸びにしていないだろうか? 日々目の前に起きる出来事ひとつひとつに純粋に向き合っていただろうか?
 
さて, こんなことを考えていたら、あの時、心の赴くままに朱雀モンブランを選んでいたら面白かっただろうな……と思い、翌日、会社帰りに今度は買う意気込みで朱雀モンブランに会いに行った。
ところが、その日は既に売り切れだった。残念。そう、チャンスの神様は前髪しかなかったのだ。
 
これを受けて私にスイッチが入った。
色々な制約をいったん忘れて、毎日自分の内側から湧き出てくる小さな願望に丁寧に向き合う。
ステーキが食べたいと思っているのに、ハンバークを食べるといったことはもうしない。
そんな心意気で毎日過ごしていると面白いことに、本当にやりたかったことが次々と湧き上がってくるのだ。
 
朱雀モンブランが教えてくれた自分軸のつくり方……。
それは日々の小さな選択を素直に心に添って行っていくこと。
「自分軸をつくる」って、そんな特別なことではないんだ。
 
レンズのピントが合わないぼやけた風景が徐々にピントがあってきた。
そして、景色の輪郭が鮮やかに見えてきた。私の本当の望みが見えてきた瞬間。
 
 
 
 
***
 
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2022-05-03 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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