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滞在時間をずらしたら思いがけず江戸時代に行けた話


*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

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記事:飯塚 真由美(ライティング・ゼミ2月コース)
 
 
いくつものトンネルを抜け、私が名古屋から乗り継いでやってきた列車が山あいの駅に着いた時には既に午後3時近くになっていた。
20年以上憧れていたことをこれから実現しに行こうとしていた。
 
妻籠(つまご)という宿場町を前に訪れたのは、旅行会社で働いていた頃だった。外国人グループを引き連れ、下っ端添乗員としてほんの数時間滞在した。そこはまるで時代劇のセットのような「ザ・日本」。歴史ある町並みをお客様は喜んでくれた。しかしお客様以上に喜んでしまったのは、添乗員だった私のほうだった。いつかここに泊まってゆっくりこの町を見る、と誓って20年が過ぎた。
 
1つだけ気がかりだったのが、妻籠に着く時間が遅いということだった。
日帰りで訪れる人が圧倒的に多い観光地なので、ほぼ全てのお店も観光スポットも4時か5時で閉まってしまう。あまり楽しめないのではないだろうか? という心配に反して、これが予想外に良かったのだ。
 
妻籠のバス停から早足で坂を上ってメインストリートに出ると、思わず「おおっ!」と声を上げた。いきなり目の前が時代劇の世界になった。道の両側に、木造の伝統家屋が見えなくなるほど先まで並んでいた。この町は「売らない、貸さない、壊さない」を合言葉に地域の人が伝統家屋を守り、復元保存してきた。
そんな通りをスマホ片手に現代の人が歩いているのを見ると、なんだか不思議な気分になった。
 
江戸時代も旅人が一休みしたであろう、昔ながらの茶屋でぜんざいを味わう。
山の中の宿場町はとても静かだった。ぜんざいに小皿で付いてきた漬物をポリポリ噛む音が店中に響いて戸惑う。開け放った戸口から、近所の人が遠くで立ち話をする声が入ってくる。
こういう静かさは久しぶりに感じた。静かですね、とお店の人に話すと、静かすぎて眠れない泊まり客もいるんですって、と教えてくれた。
 
お店を出ると、遅くに行ったために体験できた嬉しいことがあった。
お店がのれんをしまう時間になると、通りを歩く人は一気に少なくなった。
町外れの水車小屋のあたりから、反対側の町外れまで、ゆっくりとメインストリートを歩いてみる。雨上がり、夕暮れの蜂蜜色の光が歴史的な町並みを照らし、息を飲むように美しかった。誰もいない通りは、まさに江戸時代だった。
静かで、側溝を流れる水の音しか聞こえない。夢中で何枚も写真を撮った。誰もいないから、あの人をよけて撮ろう、あの人が歩き去るまで待とう、そういうのが一切無かった。自分の前に誰もいない。真っ白な雪原に最初の足跡をつけていくような思いで通りを歩いた。
何より、こんなに美しい妻籠の町を独り占めしているということが嬉しかった。テーマパークを貸切にした、に匹敵するわくわくした気分が味わえた。
 
妻籠は江戸と京都を結ぶ街道、中山道にある宿場町だ。かつては参勤交代の一行や御嶽山にお参りに行く人で賑わった。当時の人に思いを馳せ、江戸時代から続く宿に泊まることにした。
予約の電話をした時に「昔からのスタイルなので部屋の仕切りはふすまです。鍵はかかりません。テレビや時計も置いていません。そういうの大丈夫ですか?」と色々念押しされた。宿のご主人の心配を聞けば聞くほど、楽しみになっている自分がいた。江戸時代の気分を味わえそうだ。
ガラガラと宿の引き戸を開けると、フロントではなく「帳場」がしっくりくる場所からご主人が迎えてくれた。代々宿屋を営み、ご主人でなんと9代目になるそうだ。自分の脱いだスニーカーが、旅人のわらじに見えた気がした。宿帳の住所欄に、東京都じゃなくて江戸と書きたかった。
 
泊まったことで、とんでもなく非日常を味わうことができた。
宿での夕食を終えると、夜のお散歩に行ってみてはいかがですか? とご主人から提案があった。
行きます!! と考える前に答えていた。
夜の妻籠を歩くなんて、宿泊しないとできない。
 
ではこちらをお持ちくださいとご主人が用意し始めたのは、懐中電灯ではなく提灯だった。
棒の先にぶらさがる提灯で足元を照らしながら、通りを歩く。控え目にライトアップされた町並みが、夕方歩いた時とは全く違うモノクロの世界を作り出していた。最高に幻想的だった。
車も通らない、人も歩いていない。現代を思わせるものが無い眺めは、時代劇の1シーンに紛れ込んだみたいだった。私は江戸時代を歩いていた。時代を超えて、旅をしていた。
はるか上空を飛ぶ飛行機の轟音がだんだん大きくなり、やがて小さくなった。そうか、今は現代なんだったと思い出した。
 
妻籠に着いたのは、他の人が帰り始める時間だった。しかし、他の人と違う時間帯に妻籠にいたことで、夕暮れの美しい景色を独占することができた。新たな発見だった。
今回の体験を通して、日中賑わう観光地には敢えて夕方までいるのも良いなと思うようになった。
時間が許せば他の人が帰るまで待って、貸切気分を味わってはいかがだろうか。きっと特別な気持ちになれるはずだ。
また、時には宿泊してじっくり味わってみるのもおすすめだ。泊まることで昼間とは違う町の一面を見ることができ、楽しみはさらに広がるということも知った。思いがけず、江戸時代に旅ができたのだから。
 
 
 
 
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