凸型人間、凹型人間。私たちがひとつになれる日はくるのか?
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人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜
記事:大村隆(ライティング・ゼミ2月コース)
「あの、あなた。ちょっと一人でしゃべりすぎではありませんか?」
そう言いたくなる相手に結構な頻度で出会う。よほど伝えたいことがあって、溢れる想いを言葉にしている人もいるけれど、たいていはそうではない。
ただ、話したいだけ。聞いてくれる相手を必要としているだけだ。
日ごろ、耳を傾けてくれる人がいなかったり、そのために鬱憤が溜りまくっていたり。確かにそういう背景もあるだろう。けれど、それだけが理由ではない。そもそもこの世界には2種類の人間がいるのだ。きっと。
凸(デコ)型人間と、凹(ボコ)型人間。
≪凸型人間≫
常に前へ、前へというタイプ。一人で一方的にしゃべり続ける。相手が聞いているか、興味を持っているかといったことは関係なし。とにかくしゃべりたい衝動を抑えられない。「相手にも言いたいことがあるかも」とは考えず、相槌を打たせる間さえ与えない。仮にお酒でも入っていれば、さらに加速。マシンガントークは、もうだれにも止められない。
≪凹型人間≫
聞き役になることが多いタイプ。大人しく、無口だとみられがち。伝えたいことがないわけではないけれど、人の話を遮ったり、その場を仕切ったりしてまで話そうとは思わない。自分が話している途中で、他の人に話を遮られることもしばしば。といって、もう一度話の主導権を取りもどそうとは考えないため、結局そのまま聞き役になってしまう。
僕個人は、明らかに凹型だと自覚している。9割以上の場では聞き役になる。取材・執筆を仕事としているので、凹型であることは役に立っている。それほど質問を投げかけなくても、お相手がどんどん話してくれるから。
ただ、プライベートではあまり「役に立っている」とは感じられない。
1時間でも2時間でもしゃべり続ける凸型人間と共にいると、時間を奪われているような気分にさえなる。「この人はただ、溜まったゴミを一気に捨てようとしているだけなんじゃないか」とさえ思えてくる。心のなかに抱え込んでいたゴミを、目の前に現われたちょうどいい凹みに無遠慮に投げ入れ、身軽になって気分すっきり。
だけど、投げ入れられた側はたまったものではない。
「私にとっておしゃべりは、しばしば苦しみである。その苦しみを癒やし、回復するために、私には数日間の静かな孤独が必要なのだ」
心理学者のユングはこう言った。おそらく彼は凹型人間だったと思われる。ユングの持っていた凹みには、底知れない深みがあったのだろう。だからこそ、いつ終わるとも知れないクライアントの話を聴き続けることができた。けれど、そのユングでさえ凹みがいっぱいになると、心の回復のために静かな孤独が必要だったのだ。
ユングの気持ちは、なんとなく分かる気がする。僕も凸型の人と長時間一緒にいた後などは、何もせずにヘッドホンで耳を塞いで、しばらく歌のない音楽を聞いて過ごしたくなる。そうしないと、何かが決壊してしまいそうになる。
こう書くと凸型人間を非難しているように受け取られるかもしれない。でも、決してそういうことを言いたいわけではない。凸型と、凹型。どうすれば互いに気持ち良く付き合っていけるのか。そのヒントを探りたいのだ。
そこでまず、身近な凸型人間たちにストレートに尋ねてみることにした。「自分が一方的に話していることを、自覚してる?」と。
ある男性は少し困惑した表情で、こう答えた。
「いやいや、一方的に話してるんじゃなくて、君たちが黙ったままだから、仕方なく沈黙や間を埋めて場を繋いでるんだよ」
ミーティングでもプライベートでも、いつも独演会状態で仕切っているある女性は、明らかに不愉快そうにこう返してきた。
「それって、ちょっとした責任転嫁だよね。私だって好きで話しているんじゃない。みんなが何もしないから、仕方なくそういう役を演じてるだけだよ。そっちこそ、いつも私に任せて楽してるよね。違う?」
そして、こちらの返事を待つことなく、こう付け加えた。
「いつも私一人がなにもかも背負い込んでいる気がする。こないだ私が、毎週一人でカラオケに行ってるって話したら、あなた笑ったよね。でもね、そうしないと持たないのよ。抱えきれなくなるわけ。何時間も一人で歌いまくって、なんとか次の一週間を生きていける。そんな感じ。あなたには分かんないかも知れないけどね」
……これには驚いた。一方的に見える凸型の人たちも、同じように溜めて、耐えて、苦しんでいたのか。しかも、その原因は凹型の態度や姿勢にあるとは。
もちろん、この2人が凸型人間の代表というわけではない。なにも感じず、考えず、一方的にしゃべり倒すだけの人も少なくないと思う。
それでも、彼らの意見(特に女性のほう)が僕に与えたインパクトは大きかった。
数日後、これからのより良い関係性のために改めて女性と話す機会を得た。僕は凹型人間の世界を理解してもらうチャンスだと捉え、伝えたい内容を事前に整理してみることにした。
まず、前段では凸型と凹型について簡単に説明し、「楽をしているわけではなく、そういうタイプ。こちら(凹型人間)も同じように苦しんでいる」ことを分かってもらう。そして後段では、以下の提案をすることとした。
「沈黙や間が空いたなら、それを埋めようとせずに敢えて時間をおいてみてほしい。凹型人間は何も意見がないわけじゃなく、自分が言おうとしている内容の価値を見極めたり、発するタイミングを見計らっていたりする場合が多いから」
そして、当日。僕が話し始めると、彼女は思いのほか真剣な表情でじっと耳を傾けてくれた。
「黙って座っているだけの人たちが辛い気持ちを我慢しているなんて、思ってもみなかった。それに、そういう態度で逃げているんじゃなくて、元々の質(たち)でそうなってしまうって……? まあ、確かにそういうのはあるかもね」
反応は上々だ。加えて、僕よりも先に、彼女の方からひとつの改善案を出してきた。
「もし私が一方的に話していると感じたら、ちょっと手を挙げるとか、テーブルをコツコツ叩くとかして知らせてみて。そっちが言いたいことがある場合も、同じようにしてみて。あなたの言う凹型人間は、そういうことも難しいのかもしれないけれど、どう?」
「もちろん、それくらいはできる」と僕は答えた。
次は僕の番だ。「できるなら、沈黙や間が……」。そう言いかけたところで、バッサリと彼女に遮られた。
「いや、でもさ、実際そこまでしないといけない? こどもじゃないんだからさ。言いたいことあるなら、ただ言えばいいじゃん。違う? なにその凸型とか、凹型とか。タイプ分けしたらなんだか分かったふうな気になるけど、単なる都合のいい解釈じゃないの? それにさあ……」
その日はついに、こちらの提案を切り出す間も、テーブルをコツコツするタイミングも見いだせないまま終わった。まるで一方的にボコられた気分だ。凸型人間と凹型人間が理解しあってピタリとひとつになれる日は、まだまだ遠い。
***
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