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最後のラブレター


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人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜

記事:手塚惠子(ライティング・ゼミ集中コース)
 
 
「仕事を辞めて空気の綺麗な、のどかなところで暮らさない?  」と旦那に聞いた。
「俺は仕事が好きだ」
「俺から仕事をとったら何にもないんだ」
やっぱりそう言ったか。
部下を可愛がるあなただもの、わかるわ。
家庭よりも仕事よね。
でも今はこんな状態なのに。
それでもそういうのね。
私は怒りが込み上がった。
 
 
2年前医者から「癌です。余命2年です」
と宣告された。
癌になってから体力は徐々に弱くなり家から駅までの10分の道のりも今は20分かかる。
 
 
食事に気を使い生クリームやバターを使ってカロリーが高くなるものを作ってる。
一口でも多く食べて欲しくて一緒に食べる。
おかげで私は太った。
 
 
命のある限り一緒に過ごしたくて、私のために思い出を作りたかったのに、あなたは仕事を選んだ。
 
 
「ねえ、俳句好きでしょう。この日記帳に俳句を書いてよ。日付は印刷されてるからね。いいでしょう」
「うん」と旦那は興味なさそうに頷いた。
日記を書いてほしいのだ。思い出を作りたいのに、わかってくれない。
 
 
1週間経って日記帳を覗いてみた。
3日間だけ書いてあった。
 
 
後は白紙なのだ。
 
 
旦那と職場ではじめて会った時
私がお付き合いをしている人がいた。
 
 
仕事がわからず困っている時に丁寧に教えてくれた。そして恋に落ちた。
 
 
私のお付き合いしている人とあなたは話し合いあなたは殴られて頬が腫れていたっけ。
 
 
そして結婚
 
 
あなたは人望があって沢山の仲間や部下たちが祝福してくれたわね。私はとても嬉しかったし幸せだった。
 
 
家に仲間が大勢遊びに来て、食べ物や飲み物を出すのが大変だった。足の踏み場もないくらいだった。それでも楽しかった。
 
 
子供はできなかったけど、それはそれでいいと思った。
 
 
だんだん帰りが遅くなる日が多くなったわね。
いつもお酒の匂いがした。
 
 
そして10年の月日が経ち。私から別れ話を持ちかけたっけ。
 
 
1人で家の中にいることに意味を感じなくなった。
もう若くない私は最後の恋をしていた。
その人と人生を過ごしていくことを選ぶために
旦那に別れを切り出したくて最後の旅行をしたんだっけ。
 
 
泣いて叫んでありったけの思いを吐き出したら元の鞘に戻った。
 
 
あなたは一生懸命に話を聞いてくれた。
最初に会った時の。仕事を丁寧に教えてくれたあの時の優しさや暖かさを感じた。
 
 
愛情は変わってなかった。
 
 
恋人とは一悶着あったけど話し合って最後の恋は終わりを告げ、また元の生活に戻った。
 
 
相変わらず、帰りは遅い。でも
月日が経ちまた10年経ち
いつのまにか蘭の植木を育て始めたわね。
俳句も習い始め、本をよく読み窓際にいつも座って。
 
 
どんな俳句を作ってるのか教えてくれなかった。
 
 
そしてとうとうその日がきた。
 
 
朝出勤しようとする旦那に声をかけた「今日は休んでもいいんじゃない」
「今日は朝からやることがあるから行きたいんだ。まだ働ける体力はあるよ」
「ふらついてるじゃない。タクシーで行ってもいいじゃない」
「もったいないよ」
いつ倒れるかわからない不安からいつも一緒に通勤している。
 
 
職場に着いてホッとする間も無く、連絡が入った。
旦那が倒れたと。
 
 
救急で搬送されしばらくして亡くなった。
 
 
 
葬儀を済ませた。力が抜けてしまい。
あっという間に1週間が過ぎた。
遺品の整理をしなくてはと思うものの気持ちが落ち着かない。
 
 
狭いと思っていた家は意外と広い。
片付けて、あっ!
いつもここに旦那は座ってた。
そこに座ってみる。
日記帳が目に入いる。
何も書いてくれなかった日記帳。
なんの思い出も残らなかった。
涙が出てきた。
ページをめくる。
どうせ書いてないのに。
ページをめくる。
 
 
あっ!
書いてある。
日付を見ると亡くなった日だった。
 
 
「生きることをもうすでに諦めていた。ただ命が消える日を待っている。
そう思っていた。
今日、君を思うと心の奥から熱いものが湧いてくる。
まだ生きたいと。
君と共に生きたいと、旅立つ日に」
 
 
あの人は毎日ページをめくっていた。
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書こうとしても書けなかった。
 
 
ちゃんと思い出を作ってくれた。
ありったけの思いを残してくれた。
 
 
照れ屋で頑固なあなたは優しさを教えてくれた。
深い愛情を教えてくれた。
 
 
ありがとうあなた
 
 
 
 
***
 
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2022-05-05 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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