大嫌いな豆ごはんがおいしいと感じるとき
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記事:九條心華(ライティング・ゼミNEO)
子どものころ、小学校の給食が大嫌いだった。
ボルシチ、レーズンの入ったさつま芋をつぶしたものやマーガリンといった、私にとってわけのわからないものばかりだった。
ボルシチって何?
小学校に上がるまで、こんな食べ物はこの世には存在していなかった。私の家は農家で、大正生まれの祖母と一緒に暮らしていたので、当然昔ながらのものしか食べていなかった。ご飯に味噌汁、ほうれん草のお浸し、お芋の炊いたものやイワシと生姜の煮物とか、そういうなんの変哲もない料理が食卓に並んでいるのがふつうだったのに、学校に行くと、まずご飯よりもパンのことが多く、おかずも私にとって得体の知れないものばかりで、食べてもおいしくない。恐る恐る食べるのだから、無理もない。マーガリンなんていうものも見たことも聞いたこともなかったし、シチューでさえ、我が家の食卓には出されたことがなかった。ご飯のときでも牛乳は必ずついてくる。そんな組み合わせでおいしいはずがない。
とりわけ、グリンピースが大嫌いだった。それなのに、ありとあらゆるおかずにグリンピースが入っていた。完全なるいじめだ。
給食は残してはいけないのが鉄則だった。子どもたちは素直に従っていた。パンは持って帰ってもよしとされた。食パンというものも、きっと私は給食で初めて食べたと思う。得体のしれないマーガリンはいつも持って帰って、いちごジャムのときはラッキーな日で、マーマレードも食べられなかった私は、ほとんどの日は何もつけずに食パンを食べた。
でも、残念なことに、おかずは持って帰れない。食べないといけない。きっと最初のうちは、我慢して食べていたのだろうと思う。それにも限界がある。毎日毎日、おいしくないものを食べさせられる。いい加減にしてくれ。もっとごく普通のおかずをつくれないのか。
大嫌いなグリンピースをそこらじゅうに入れないで!!!
堪忍袋の緒が切れた。何としても食べたくない。でも、残せない。小学校1年生の私は、ある暴挙に出た。食べたくないグリンピースを、机の中の教科書やお道具箱を入れていたところに隠した。捨てたらわかってしまうし、持って帰れないし、口の中に入れないのなら、どこかに隠すしかなかった。嫌なものを絶対食べない手段を考えるとは、我ながら、かなり強情だ。
そんなものを机の中に隠していたら、どうなるか想像したくもないが、虫がわいてきた。どうしよう・・・・・・。どうすることもできないでいたが、きっと匂いもしていたと思う。お掃除の時間か何かとのときに見つかった。見つかった後のことは全然覚えていない。
そんな人生最大の汚点をつくるほど、(いや、ほかにももっと大きな汚点はたくさんある)グリンピースが大嫌いなのだ。でも、グリンピースはいろんなところに紛れ込んでくる。
私の大好きなポテトコロッケの中とか、ちらし寿司の上とか、カレーとか、なんでグリンピースを入れるのかが私には理解できない。
家でもグリンピースは出てきた。グリンピースというハイカラな名前で呼んでいなかったけれど、えんどう豆を卵とじして煮たものとか豆ごはんは、今の季節、よく食卓にあった。給食ではないから、食べないと言えばゆるされた。小学校に上がるまでに豆ごはんとか食べていたかどうかは記憶にないけれど、もう給食で大敵グリンピースと出会ってしまってからは、シャットアウトされた。
もちろん、グリンピースと遭遇した際に除けるのではなくて、百歩譲って食べてみたことは幾度もある。おいしいと評判のお店とか、高級なところで出てきたら、ひょっとしたらおいしいのかもしれないと思って、他の食べ物に紛れて騙されたと思って食べてみるのだ。
そして、後悔する。騙された。他のおいしいものまでまずくなってしまう。ダメだ。グリンピースというものがこの世にないほうがいい。だって、おいしいものまで台無しにしてしまうのだから。従って、グリンピースを食べないという選択をして生きてきた。
一昨年の秋、母方の祖母が亡くなった。一緒に住んでいなかった祖母だ。お肉も魚も乳製品も嫌いで、お米とお野菜だけで生きている人で、亡くなったとき28㎏しかなかった。「お棺に、おばあさんが命の次に大事にしていたもん入れてあげんとな」叔母が言った。
命の次に大事にしていたもんてなんやろか・・・・・・
それは、えんどう豆の種だった。知らなかった。祖母がそんなにえんどう豆の種を大事にしていたなんて。
そう言えば、心あたりがあった。祖母は晩年にこけて膝のお皿をわって、歩くのが困難になって、ほとんど寝たきりだった。それでも、畑に行きたい、働きたいと言っていたが、残念ながら無理だ。寝ているしかなかった。でも、家族が畑に行って留守の間に、一人で野良仕事の恰好をして、家の外で実の終わったえんどう豆の種を丁寧に採っていた。たまたま母と一緒に祖母のお見舞いに行くと、ちょうどその最中だった。
「おばあちゃん、そんなことせんでええで」と言うと、「種は採っとかんとなあ」と目の前の種を愛おしむように祖母が言った。叔父は種なんて買えばいいと、祖母の負担がないように言っていたが、売っている種はF1種と言われる種で1回限りのもので翌年に種を残していけない。祖母が種を採って翌年また撒いて同じえんどう豆が食べられるのは、種を買わないで自家採取しているからだ。
ああ、あのときのえんどう豆の種か。
翌年の春、その祖母が命の次に大事にしていたえんどう豆の種が育って、えんどう豆ができた。関西でえんどう豆と言えば、うすいえんどうだ。グリンピースと同じえんどう豆の一種だけれど、見た目は同じようなものにすぎない。母が私に送ってくれた。届いたえんどう豆で豆ごはんを炊いた。実際、何度もチャレンジして期待を裏切られてきたから、自分が豆ごはんをおいしく食べられるか自信がなかった。やっぱり、私の口には合わないと思うかな。
でも、祖母がそんなに大事にしていたものを、食べたい。
初めて自分で炊いた豆ごはんを、祖母を想いながら食べてみた。
おいしかった。
何度も何度もおかわりした。
えんどう豆ってこんなにおいしいものだったっけ。
祖母の命をいただいた気がした。祖母の思いを飲み込んだ。たくさん入ったえんどう豆の袋にはられた、早めに食べてくださいという母の文字を追いながら、この幸せを誰かにおすそ分けしようと思った。
***
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