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メディアグランプリ

コピペ太郎の生存戦略


*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

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記事:ひの(スピード・ライティング特講)
 
 
「こんの、コピペ太郎が……」
私はテレワークなのをいいことに自室で思いきり悪態をつく。“コピペ太郎”とはもちろん本名でも通名でもなく、私が職場の同僚の一人、よくよくコピー&ペーストを駆使するおじさんに、心の中でこっそりつけたあだ名だ。ひどいあだ名だが、そのときはそうでもしないとやっていられなかった。
 
コピペ太郎と職場で出会ったのは、もう2年以上前。社内システムの保守運用と開発を担当する私達のチームに、彼は他チームから加わった。中肉中背で、おじさんではあるがおじいさんと言うほどではない年齢。その頃は彼のコピペ癖は知らなかったし、やたらと丁寧に話すなあ、緊張しているのかなあ、くらいの印象だった。
 
昨年、同じプロジェクトのメンバーとして一緒に仕事をすることになった。ここで、彼のコピー&ペーストへの執着を目のあたりにすることになる。
まず、パワーポイントの発表用資料は過去の同様資料を複製して、一部のプロジェクト名等の文面だけ変える。いや、変わっているならまだいいが対応しきれておらず、昔の資料の文が残っている。そもそもプロジェクトの前提も違うのに複製した資料で何をどう説明して進めようとしていたのか。他のメンバーと頭を抱えた。
設計書の記載もコピペ。いや、そもそも設計は同じじゃあないのだが。もしかしてシステムを理解していない?
そして構築システムのプログラムもコピペ。さすがにコピペでは動かないレベルの部分は修正してあるが、バグがいくつも見つかった。
おいおい。他のシステムのチームにいたとき、コピペだけでなくて、ちゃんと対応できるように、説明できるように動くようにしなさいとは言われなかったのか? 思わず言ってやろうかと思ったけど、相手は私より年上で、社会人経験も長い。IT業という比較的新しい業界で年次を気にするのもナンセンスだとは思いつつ、年功序列の空気を読む。テレワークだからチャットの文面上で送ってしまえば何とでも言えるけれど、言ってしまいたい一言をぐっと飲み込んだ。
そしてしまいには、お客様へ送るチャットの文章も私の書いたものをコピペされた。文末のよろしくお願いしますとかの一言だけ変えて。さすがにこれは、ちょっときついものがあった。
 
私は、文章には行間があると信じている。どんなありふれた言葉でも、その人が選んで書いたから、その人の気持ちとも言い切れない、温度が乗ると思っている。
それは、たしかにビジネス文はビジネスのためだから建前とか社交辞令とか様式もあるだろう。私だって、何をよろしくするのかわからないけれど「以上、ご確認の程、よろしくお願いします」と文末に添える。それでもだ。それでも、私はビジネスのための文章でも私の色を乗せたい。これは傲慢だろうか。顧客と会社の利益のために、サービスを売って買って、そのための目的が果たせる文章なら“私”はいらないだろうか。
効率化と、相手に伝えるべきことを伝える文章にはなっている。腹の中には熱いものがこみ上げながら、何も言えなかった。もうあなたがいいならそれでいいんじゃないと、他人のことをあれこれ気にしすぎても仕方がないと、自分をなだめた。
 
でも、これも彼なりの生存戦略かもしれない……。そう思うようになったのは、プロジェクトが少し落ち着いて、飲み込んだ言葉も忘れかけた頃だった。
自然界では、生き物は生き残るために工夫をするし、長い年月をかけて進化もする。同じように彼は、今までもそうやって仕事をしてきて、生きてきたのだ。そのやり方に対して私のように抵抗を感じる人がいたとしても、直接物申した人がいたとしても、彼はやり方を変えてこなかった。それで十分生きていけたからだ。もしかしたら、彼の周囲の人がこっそりとフォローをしていたのかもしれない。
でも、それも込みで彼の生存戦略として、少ない労力でやるべきことをやって問題にならない、が成り立っているのだ。今までそうして生きてきたのなら、きっとこれからも同じ、彼がコピペ太郎と名付けられる性質を持つことはちょっとやそっとでは変わらないのだろう。でもそれでもいいのかもしれない。それは彼が彼として生きてきた年月の積み重ねの成果、一つの証なのだから。何か影響を与えて他人を変えたいというなら、それは私のエゴになるのだろう。コピペ太郎というあだ名を心の中で使うこともやめた。
人それぞれの生きてきた時代があって、たまたま今こうして彼と私が出会っている。その縁と言うか奇跡と言うか、つながりは不思議なものだなあと思う。
 
とは言え、少し納得はしたものの、その生き方ではこの先彼自身が困るのではないか。完全なるおせっかい、お人好し、余計なお世話である。
プロジェクトの最後にチャットで他の用件の連絡をするとき、補足として、なんて枕詞をつけて一言付け加えた。
私のエゴだが、彼に何かしら伝わっているといいなんて思いつつ。
 
 
 
 
***
 
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2022-05-10 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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