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メディアグランプリ

君とグレーな世界を生き抜く


*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜

記事:吉村 香織(ライティング・ゼミ4月コース)
 
 
小学生の頃、夕飯のあと、食器の片づけをしていてお皿を割ったことがある。
 
わっ、やっちゃった。
割っちゃってごめんなさい。
 
平日の夜。共働きの父と母は毎日忙しい。その日の父は、すこし面倒そうに、でも慣れた手つきで破片を拾い集め、掃除機をかけてくれた。
 
わたしも一緒に掃除をしようとしたら、「危ないけん触られん(危ないから触らないで)」とピシっと一言が飛んできた。
 
掃除機をかけてるところをそのままにしておけない気持ちで、ずっと様子を見守っていた。というか、立ち尽くしていたといったほうがいいかもしれない。
 
申し訳ないな。割ったのはわたしなのに。
 
 
このときの光景をよく覚えているのだけど、そもそもどうしてこの場面をこんなに印象的に覚えているのかな? と考えたことがある。
 
ひとつ思い至ったのは、「自分で片づけできるよ。わたしにもさせてほしい。わたしが割ったんだから自分で問題解決させてほしい」と思う気持ちが実はあったからなんじゃないか、ということだ。言葉にならなかった思いが、ずっと見つけてほしくて居残り続けていたのかもしれない。
 
そんなわたしも、社会人になると「自分で自分のケツを拭け」と教わった。問題が起きた時には、解決方法を自分で考え、行動にうつす。困ったときは先輩や上司を頼っていい。でも、全部頼るんじゃなく「こうしたらどうかと考えてるんですが」と案を提示してアドバイスをもらう。全てをひとに解決してもらおうとするな。頭を使え。やるのは自分だ、と。
 
最初はなかなか慣れなかった。苦労した記憶しかない。けれど、次第に自分で問題解決できるようになっていった。そうすると面白いことに「わたしにもできる」と感じられるようになっていった。これが世にいう自己効力感というやつか。
 
当時、上司たちの関わりは一見突き放しているように感じなくもなかった。けれど、その経験はじわりじわりと「自信」と呼ばれるかたちに確かに少しずつ変わっていった。
 
 
じゃあ、社会人になり自己効力感を感じた経験を踏まえて、もし時間を巻き戻してお皿を割った当時に戻ったとしたら。「割ったのはあなたなんだから自分で片づけなさい」と言われたら、何か変わっていただろうか?
 
もしそうだったら「よし、自分で処理できた!」と自己効力感を感じたかもしれないし、その反面で「危ないのにわたしに片づけさせるの? 一緒にやってくれてもよくない? 冷たい」と思ったかもしれない。今となっては分からない。結局どっちに転んでも、何かしら言葉にならない思いを心に秘め続けていたのかもしれない。
 
これ、ほんとうに簡単に白黒つけられないから難しい。相手が親という近すぎる存在だからよけいに、ああいえばこう言いたくなることだってある。子どもとの関わりにおいて、こういう時はこうするのが絶対いい、なんて答えは一切ない。
 
そう考えると、自分にとって、相手との距離感が一番物を言うのかもしれないと思えてくる。誰が何を言うか、誰が何をするかによって、きっとこちらの感じ方が変わるんだろう。白でも黒でもない、グレーな世界にわたしたちは生きている。
 
 
わたしには今5歳の息子がいる。
 
彼には「自分には必要な行動を遂行できる能力がある」と、普段の生活のなかから感じとっていってもらいたいと考えている。自分でやってみて痛みを感じたほうがぐんと伸びるし、力が育つことも自分の体で実証済みだ。かわいい子には旅をさせよ。頭では分かっているつもり。でも、いざとなると、見守る子育てからはかけ離れてしまうことも残念ながら日常茶飯事だ。
 
先日は、アスレチックの高いところに両腕だけでぶらさがって足をバタつかせていた。それを見ただけでも、「ちょっとちょっと、危ないから気をつけてね」と言ってしまった自分がいた。
 
当の本人は「そんなに心配しなくても大丈夫だってば」と思っているんだろうな。わたしが子どもの時には、度重なる親からの注意を疎ましく感じたこともあるので、気持ちは分かる。
 
いざ自分が親になると、自分の親と同じように注意の声かけをしてしまっている。この事実にはたと気づいて呆然となることは今でもある……。
 
 
結局、相手との距離感のなかで「相手に伝わったことが伝えたこと」なのだ。
 
言葉の表面的な部分では「気をつけてね」と言っていたとしても、その裏ではもしかすると「あなたは不注意なんだから、あなたは不完全なんだから」というメッセージが相手に伝わっているかもしれない。「触られん(触らないで)」の裏から、「あなたにはこれを処理する能力がないよ」というメッセージを受け取ってしまっているかもしれない。
 
言葉そのものの良い悪いを超えて、裏にあるメッセージが相手に伝わってしまう。相手が受け取った言葉と相手との距離感のなかから、勝手にメッセージを作り出すこともあるかもしれない。
 
 
自分から出ていく言葉に自覚的でいること。もし自分なら、その言葉からどんな意味や目的を抽出して受け取るかを考えてみること。自分と相手との距離感から、相手がどんな裏メッセージをつくりだす可能性があるかに想いを馳せること。
 
まだまだ新米母だけれど、この努力だけはこれからも日々重ねていこうと思う。君との関わり方に自分にOKをあげられる日もあるだろうし、反省しかない日だってあるだろう。答えの無いグレーな世界を君と生き抜くために、日々変わり続けるお互いの距離感を感じながら。
 
 
 
 
***
 
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2022-05-11 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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