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ひだまりの空間は、いつもどんなときも。


*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜

記事:秋篠奈菜絵(ライティング・ゼミ4月コース)
 
 
別れは、突然だった。
別れるつもりなんて、微塵もなかった。考えたこともなかった。それなのに、私はいとも簡単に心変わりをしてしまった。彼のあのたった一言で……。
 
 
「そろそろ、乗り換えを考えてみませんか?」
 
一瞬、何の話かわからなかった。
 
「もう10万キロ近く走っているし、今なら下取り価格も30万円くらいになると思うんですよね……」
 
いつも優しくて、べらぼうに腰の低いHONDAの店長さんが笑顔で遠慮がちに言う。忙しい日々の合間を縫って何も考えずバタバタと来た定期点検。私は人生初の「車の買い替え」というミッションに遭遇していた。
 
 
N BOXと出会ったのは、長男が生まれたばかりの頃だった。長男を抱き抱えながら、納品されたばかりのN BOXと当時住んでいたアパートの前で家族写真を撮った。人生初の新車に心が躍った日。「ひだまりアイボリー」という車のカラーの名前が妙に気に入って、この車に決めた。そのとき赤ちゃんだった長男は、今はもう小学2年生になっている。
 
 
店長さんの突然の提案に驚きつつも、その瞬間から次の車のことで頭の中がいっぱいになった。お店を出てからも、ついついすれ違う車を舐めるように見てしまう。次の日も、その次の日も。そして、休みの日は家族総出で車巡りになった。
 
「可愛い感じもいいけど、やっぱりこれからはもっとアウトドアにチャレンジしたいから、車中泊できるのにしたいな」
 
数ヶ月かけてたくさんの車種を検討して出会った新しい相棒は、HONDAのN VANだった。運転席以外はフルフラットになり、車中泊ができるところ、優しい深緑色が自然をイメージさせるところが決め手だった。可愛すぎず、ゴツすぎず。ちょうど私の好みのストライクゾーンに命中した。もうこの車以外は考えられない。
 
納車が3ヶ月後に決まり、その日が気の遠くなるほど遠く感じた。だけど、日々の生活に集中しているとその日は意外とあっという間にきた。新しい車に出会える日でもあり、これまで乗ってた車とのお別れの日でもあった。
 
その日が来る数日前に、今までの汚れを落とそうとしっかり洗車と掃除をした。決して「丁寧に使っていた」とは言えない状態の車の中。取れない汚れにもっと大事に乗ればよかったなと後悔の念がよぎる。
 
 
夜になり、ふと最後にこの車を運転したくなった。「コンビニでも行こうかな」特に用事はなかったけど、車を運転する口実で出かけた。いつもの道をいつもの感じで一人で走る。
 
その時だった。
 
急に胸が押し潰されそうな感情がドワッと私を襲ってきた。そして、堰を切ったように涙がとめどもなく溢れ出た。
 
今握っているハンドルがもう明日からは一生握れない。
 
そんなのはあたりまえのことで、数ヶ月前からわかっていたこと。なのに、それがとてつもなく寂しくて、悲しくて、切なかった。
 
車を買った日から、約8年の月日が流れていた。
 
この約8年間は決して平坦な道ではなかった。長男が生まれ、初めての育児でどうしていいか分からず、不安でいっぱいだった日々。ぐっすり眠る明け方6時前に、実家のある隣の県を目指して片道2時間半を運転したこと。家でなかなか寝ない長男を車で寝かしつけるために家の周りをぐるぐる運転した日々。次男が生まれた日のこと。私が突然病に倒れ、夜中に病院へ行った日のこと。家を建てたくて一年間土地を探しまくったこと。理想の家が建って、家族みんなで喜んだこと。小学校の先生をやめようかどうか迷いながら通勤した日々。
 
夢が見つかった日、我が子を怒りすぎてしまった日、退職を決めた日、新しい仕事が始まった日、おばあちゃんが天国に旅立った日、感動した日、喧嘩した日、笑った日、悔し涙を流した日……。
 
8年間の思い出が走馬灯のように頭の中を駆けめぐる。とても幸せな日々だった。でも、同時に人生の荒波が激しい日々でもあった。
 
ああ、どんな時もどんな日もずっと一緒にいてくれたね。何も言わず、ひだまりのようにずっと私を包んでくれた。見守ってくれた。
 
醜い部分もたくさん見せた。誰にも見せたくない私を一番見せてきたと思う。「お母さん」でもなく、「学校の先生」でもない、何者でもない丸裸の自分は、いつもここにいた。一人になれたこの空間は、本当の自分自身になれた場所だった。
 
「ありがとう……本当にありがとうございました……」
 
涙が次から次に溢れる。誰に向かって言っているかはわからない。でも、言葉にせずにはいられなかった。ただただ感謝が溢れた。何も言わずに見守ってくれる存在がいたから、私はここまで頑張って来れた。
 
 
次の日、HONDAで新しい相棒に出会った。あんなに待ち遠しかったのに、なんだか素直に喜べない自分がいた。お店の駐車場の端っこに停めたNBOXが寂しそうに佇んでいた。もう二度、運転することはないんだなと思った。
 
諸々の手続きを終え、「ありがとうございました!!」と最高の笑顔で店長さんが見送ってくれた。お店を出る、その瞬間。駐車場の隅に佇むN BOXを見つめながら、もう一度心の中でお礼を言った。
 
 
「これから、よろしくね」
 
今度は、今からの人生を伴走してくれる新しい相棒に心の中で声をかけた。
これから、どんな日々が待っているんだろう。
どんな景色を一緒に見るのかな。
そして、必ず来るお別れのときは、私はどんなことを想うのだろう。
 
まだ見ぬ明日へ。
今日から、新しい相棒と共に新たな物語を創っていく。
 
 
 
 
***
 
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