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オーダーメイドの靴が私にくれたもの


*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

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記事:深谷百合子(ライティング・ゼミNEO)
 
 
これから「素足にサンダルがオシャレ」という季節になるけれど、私は自分の素足に自信がない。つま先が変形しているからだ。外反母趾だし、親指以外の足指は第一関節から先が曲がっている。いつも何かを足指でつかもうとしているかのような形をしているのだ。見た目もかっこ悪いけれど、オシャレな靴ほど、履くと足が痛くなる。
 
パンプスを履くと外反母趾で出っ張った親指の付け根が当たって痛くなる。痛くないように幅広の靴を履くと、踵がパカパカして歩きにくい。ゆえに、いつも選ぶ靴といえば、ウォーキングシューズのようなタイプの靴や、幅広でヒールの低い靴ばかりになる。そうすると、スカートやワンピースには似合わない。だから否応なくパンツスタイルが多くなる。
 
たまに、気に入ったワンピースに合うオシャレなパンプスやサンダルが欲しいと思って買い物に出かけるが、自分の足に合う靴を探し出すのは簡単ではない。あれこれ靴を出してきてもらって合わせるのも何だか気が引けるし、時間もかかるから面倒くさい。
 
そんなことで、私のファッションは靴に支配されていると言っても過言ではなかった。ただ、切迫した悩みじゃないから、「仕方がない」と何十年も過ごしてきた。
 
昨年のことだ。友人が「ものすごく信頼できて、なおかつオシャレなオーダーシューズをつくってくれるお店があるよ」と教えてくれた。信頼している友人の言葉なら間違いない。足の変形は、自分の足に合わない靴を履き続けたことが原因のひとつである。これから先、自分の体をととのえていくなら、この長年問題を抱えたままの足も何とかしたい。だって、足は自分の体を支える土台だからだ。そう思った私は、早速その話に乗ってみた。
 
オーダーシューズをつくるなんて、生まれて初めてだ。約束した日、言われた場所へ向かい、ちょっとドキドキしながら小さなビルの狭い階段を上がり、2階にあるお店の扉を開けた。
 
「お待ちしていました」
店主の女性が明るく声をかけてくれる。
「こっちこっち」
このお店を紹介してくれた友人が奥のイスに座って、手招きをしてくれる。
 
店内には沢山の木型や靴のサンプルが並んでいた。
 
「じゃあ、これから採寸していきますね」
私は素足を差し出すのがちょっと恥ずかしかったけれど、店主の女性に自分の足を委ねた。
 
彼女はメジャーで私の足のサイズを測りながら
「足の幅、かなり狭いですね。AAかAAAくらいかな」
と教えてくれた。
 
「AA? 何ですか、それ。私の足の幅、狭いんですか?」
「狭いです。外反母趾があるから出っ張っているように見えるけれど、本当は狭いんですよ」
「えーっ! 私はてっきり幅が広いと思っていたから、EEEとか幅広の靴を選んでいました」
「そうですよね。今日履いてこられた靴もEEEですよね。歩くときパカパカしたでしょう?」
「しました。ゆるいから、つま先でふんばっていないと脱げそうで歩きにくかったです」
 
私はガーンと頭を殴られたような衝撃を受けていた。今まで何十年も信じてきたことが崩れ去ったのだ。本当は私の足は幅が狭かったのか! これまで真逆のことをしていたのかと思うと「自己判断」の恐ろしささえ感じてきた。
 
「このあたりの靴が合うかな」
店主は私のサイズに合うパンプスやスニーカーを持ってきた。早速履いてみる。
「少し歩いてみて」
 
私は立ち上がって歩いてみた。それは生まれて初めて感じる感覚だった。靴を履いているのに履いていないかのような感覚なのだ。靴が私の足に吸い付いている。私の足をしっかりホールドして、歩いていても体の軸がぶれない。今まで私は、いかに靴に自分の足を合わせてきたのかを思い知った。
 
私は店主や友人の勧めに従って、まずスニーカーをつくってもらうことにした。足に合った靴を履いて歩くことで、足が変化してくると教えてもらったからだ。早速素材のサンプルを見せてもらう。色も素材も沢山の種類があって、どれにしようかと選ぶのもまた楽しい。さんざん迷って、ようやく紺色と銀色をベースにしたデザインに決めた。ちょっとしたよそ行きにも履いて行けそうなくらい、オシャレなスニーカーになりそうだ。
 
オーダーメイドだと、正直値段は安くない。けれども、手が出せないほどのびっくりするような値段でもない。今までみたいに、自分で合いそうな靴を買ってきたものの、結局痛くて2、3回履いただけで捨てたりする方が、よほどもったいない。それに、自分に合う靴を求めて、あちらこちらの店を彷徨ったり、何足も試着する時間も必要ない。自分の知識が足りないことは、思い切ってプロにお願いして見立ててもらう。それは私にとって、時間を買うことでもあるのだ。
 
今年の夏、オーダーメイドのサンダルを履いて、エレガントなワンピースを着ている自分の姿を想像すると、ちょっと楽しみな気持ちになる。そんな気持ちに浸れる時間も、私にとってはオーダーメイドの靴がくれるプレゼントなのかもしれない。
 
 
 
 
***
 
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2022-05-17 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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