メディアグランプリ

〜94歳のスペシャリテ〜料理は遺伝からウィルスへと変貌する


*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜

記事:中村まりこ(ライティング・ゼミ2月コース)
 
 
忘れられない味、
すごく美味しいという記憶、
ついまた食べたいと思ってしまう料理、
あなたはいくつ思い出せますか?
 
一番思い浮かぶのは、
家族と食べた特別な記憶とともにある料理?
それとも、恋人と食べた、あの時のイタリアンの味?
それとも、つい毎日でも食べたくなってしまう、あのラーメンの味?
 
人の記憶に鮮明に残り、どうしても食べたくなる、
つい体が反応する料理が誰しも一つはあるのではないだろうか。。
 
わたしの場合、
わたしの祖母の、94歳のスペシャリテだ。
 
祖母の料理で好きなものはたくさんある。
お稲荷さんや佃煮、正月にしかつくらないじっくり炊いた煮物。
あるとつい食べすぎてしまう料理たち。
 
基本的に作るのは和食が多く、祖母自身も洋食は得意ではない。
その祖母がもう60年近く作っている洋食がある。
父も、叔母も幼い頃から食べていて、もちろん大好き、
わたしも、弟も大好きになった。
三世代が愛してやまない、料理の一つなのである。
 
その名も、、
「手羽元とセロリのバターレモンソース煮込み」
 
もうこの名前を聞いただけでわたしの胃は動くし、
腹がなる。
 
この料理名が正しいかは不明だ。
祖母に聞いても、「忘れた」という。
 
祖母が父や叔母を必死で育てている時に、
何かの雑誌に掲載されていた料理だそう。
そのレシピを載せてくれたその次代の料理研究家に感謝。
そして、それを見てつくろうと思いきって作ってみた当時の祖母にグッジョブと言いたい。
 
「煮込みながら味を整えていけばいいから簡単でいいのよ」
と祖母。
簡単であること、美味しいことが一番なのだと。
 
今生きている母親たちと考え方は全く一緒である。
冷凍食品もなければ、コンビニもなく、お惣菜も今ほどの充実ぶりではないだろう。
それでもいつの時代になっても母親というものは、
簡単で、かつ美味しいものを作って、
家族に食べさせてやりたいという思いがあるのだなぁと実感するのである。
 
いや、これが本当に美味しいのだ。
なんと表現していいのだろうか、とにかく美味しいのだ。
バターを使っているので、見た目も多少こってりに見えるのだが、
レモンが入ることでさっぱりしているのに、味は濃厚、セロリのアクセントも加わって、
手羽元からもしっかり出汁が出ており、いくらでも食べれてしまうのである。
もちろん、スープまで飲み干してしまうほど、美味しい。
たくさん作っても、秒でなくなるメニューだ。
 
そんな祖母の愛がたっぷりはいったスペシャリテを、
ひょんなことから受け継ぐことになったのだ。
 
この料理は大好きであったが、自分のものにしてまで、
作れるようになろうとまでは思っていなかった。
祖母がわたしや父がリクエストをして、手羽元が安い時に、
嬉しそうにつくる姿を見るのもすきだったし、何よりも祖母が作るのが美味しいので、
わたしが作るという考えがなかったのだ。
 
ある日、友人たちとランチをしている時に、
「美味しい料理は人を簡単に幸せにする」という話をしていた。
そんな中で、わたしはそこそこ料理をしており、
作った料理を「居酒屋まりこ」と銘打ち、SNSに投稿していた。
これが、仲間内でそこそこ人気で、時折友人宅で飲み会をしていたのだ。
 
その時に、家の料理の話になり、そういえばと、
祖母のスペシャリテの話をしたのである。
 
60年以上作っていて、
わたしの家族が全員大好きで、
手羽元、レモン、セロリという意外な組み合わせで、
わたしがとにかく好きと言ったら、
なにやら友人たちの興味と食欲の飽くなき探究心スイッチが入ったらしく、
「なにそれ食べた〜い」と満場一致で、
なぜかそれを食べるためだけの会が設置されてしまったのである。
 
え、本気???
家庭料理ですけど……?
 
友人たちには祖母のレシピというのが、
とても興味深いらしい。
ふと、その時に思ったのだ。
 
家庭料理というものは、遺伝子を残すことに似ていると。
 
その家ごとにある味を、脈々と受け継いでいくのだ。
目に見えるのは一瞬で、笑顔と幸せの中、消えていく。
 
母親から娘へ。
その家に嫁いできたお嫁さんへお姑さんが教えて。
その家の子どもたちが、その味で育つ。
そして永遠の営みのように、まるで、遺伝子を受け継いでいくように、
消えることなく、次の世代へと家庭料理は受け継がれていくのだ。
 
さて、わたしには困ったことが一つあることに気づいた。
親不孝にも私は結婚をしていないので、受け継ぐ子がいない。
 
そう思った矢先の、友人宅での料理振る舞いパーティだ。
どうやら、祖母のスペシャリテはウィルスと変化し、
わたしの家から飛び出て、幸せの感染拡大を始めようとしているらしい。
 
現にSNSに祖母のスペシャリテを引き継いだことをアップしたところ、
驚異の感染力だった。
どこのご家庭も、すこし洒落たように見える簡単レシピには興味津々なのである。
 
すでにレシピをお伝えした方もあり、
そのご家庭のレパートリーに加えていただけるようだ。
そのご家庭で、この味で育つお子様がいるのかと思うと、
祖母が60年作り続けたレシピの偉大さを身にしみて感じるのである。
 
まだまだ現役で台所に立つ94歳。
あと何レシピ、世の中にむけて、幸せの感染拡大ができるだろうか。
今週の土曜日、次は、絶妙な味付けのお稲荷さんを教えてもらおうかな。
 
 
 
 
***
 
この記事は、天狼院書店の大人気講座・人生を変えるライティング教室「ライティング・ゼミ」を受講した方が書いたものです。ライティング・ゼミにご参加いただくと記事を投稿いただき、編集部のフィードバックが得られます。チェックをし、Web天狼院書店に掲載レベルを満たしている場合は、Web天狼院書店にアップされます。

人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜

お問い合わせ


■メールでのお問い合わせ:お問い合せフォーム

■各店舗へのお問い合わせ
*天狼院公式Facebookページでは様々な情報を配信しております。下のボックス内で「いいね!」をしていただくだけでイベント情報や記事更新の情報、Facebookページオリジナルコンテンツがご覧いただけるようになります。


■天狼院書店「東京天狼院」

〒171-0022 東京都豊島区南池袋3-24-16 2F
TEL:03-6914-3618/FAX:03-6914-0168
営業時間:
平日 12:00〜22:00/土日祝 10:00〜22:00
*定休日:木曜日(イベント時臨時営業)


■天狼院書店「福岡天狼院」

〒810-0021 福岡県福岡市中央区今泉1-9-12 ハイツ三笠2階
TEL:092-518-7435/FAX:092-518-4149
営業時間:
平日 12:00〜22:00/土日祝 10:00〜22:00


■天狼院書店「京都天狼院」

〒605-0805 京都府京都市東山区博多町112-5
TEL:075-708-3930/FAX:075-708-3931
営業時間:10:00〜22:00


■天狼院書店「Esola池袋店 STYLE for Biz」

〒171-0021 東京都豊島区西池袋1-12-1 Esola池袋2F
営業時間:10:30〜21:30
TEL:03-6914-0167/FAX:03-6914-0168


■天狼院書店「プレイアトレ土浦店」

〒300-0035 茨城県土浦市有明町1-30 プレイアトレ土浦2F
営業時間:9:00~22:00
TEL:029-897-3325



2022-05-18 | Posted in メディアグランプリ, 記事

関連記事