頭の中が忙しいあなたへ ~指差呼称のすゝめ
*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。
人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜
記事:みなみあすか(ライティング・ライブ福岡会場)
「次は天神、天神、左側のドアが開きます」という車内アナウンス。
目の前には線路が広がり、思った以上のスピードで走る電車。
真っすぐ線路を走る列車の前方の景色を楽しみながらまるで運転しているかような一体化を感じる。そして、線路の分岐地点を通過する際にはちょっと緊張が走る。ドキッ。
久しぶりに電車の一両目に乗り、運転手の後ろに立って、ガラス越しに運転手を見ていた。
子供の頃、運転手の運転をみるのをワクワクして見ていたことをふと思い出す。
まもなく天神駅に近づく頃、左側に信号が見えてくるとその信号へ指をかざして何か声を出して確認し、次に、その指は手元に向けられ、何か一人で言葉を発して、運転手順の確認作業、最後に前方の線路に向かって真っすぐ指を差し、前方に不審物がないことを確認しているようだ。
こうやって安全を守ってくれているのだ。そこには乗車している時には見えなかった景色があった。
「指差呼称」とは……。間違わないように、そのものを指で差し、声に出して確認すること。
先日、飛行機に乗った時、離陸直前に「乗務員はドアモードをオートマチックポジションに変更してください」というアナウンスが流れるとキャビンアテンダントがドアノブの方に指をかざして、OKと声を発して確認作業、また、反対側にいるキャビンアテンダントとも指をかざしあって確認したよ! と
ダブルチェックをしていた。
身近なところでいうと私のデスクのパソコンの脇にも「転送時、指差し確認!」と書かれたテプラが
貼られている。
そう、色々なところで指差呼称は使われているのだ。
昨今話題となっている山口県の給付金誤振込問題も指差呼称が行われていたらミスを防げたのだろうか?とふと思ってしまう。
仕事におけるミス発生の背景には「慣れ」によるものと、「不慣れ」によるものと2つあると思う。
「仕事は慣れてきたときにミスが多くなってくる」と言われているが、慣れてくると流れ作業的に行ってしまい、無意識で行う部分から慎重さが損なわれミスにつながってしまうというパターン。
一方、新人など仕事に慣れておらず手順等が呑み込めていないためミスしてしまうパターン。
今回の誤振込問題はどちらのパターンかは分からないが、いずれにせよ指差呼称が行われていたらこの事態は防げたかもしれない。
この指差呼称は蒸気機関車の運転士が信号確認するときの安全確認のために行われていたようだが、時代がAIの時代を見据えつつもこの指差呼称が様々なところで今でも行われているということは
ミス予防に効果があるからであろう。
何故効果があるのか?
指差呼称は指で確認の対象を指し、そこで見えたものを口に出して言い、言ったその言葉を自分の耳で聞く。指・目・口・耳を動かすことで、脳神経が活性化し、確認作業の精度が高まるという構図だ。
やっていることに完全に意識を向けさせることによって脳が的確に処理できるようになり、ミスが防げる。
確かに我々の頭の中はいつも忙しい。
1点で留まっていることは難しく、視覚・聴覚・嗅覚・触覚・味覚といった五感がキャッチしたものに
日々あっちへ……こっちへ……とふらふらと振り回されている。
ヨガに「人間馬車説」という教えがある。
五つの感覚器官を五つの馬に、人を馬車に例えてみる。暴れん坊の馬達がいい匂いがしてきたら
嗅覚担当の馬がいい匂いがする方に向かい道を逸れ出す。今度は美味しそうなものが目に入ってきたら視覚担当の馬がその対象物がある方向に逸れ出す……そうすると、それぞれの感覚器官の馬がそれぞれ心奪われるものの方に向かってしまい、結果、馬車が馬に引きずりまわされ、本来進みたいと思っている道を真っすぐ進めなくなってしまう。そうならないために、智慧をもった馬車の御者が
しっかり手綱をもって正しい道に五頭の馬たちが進むように五つの感覚器官をコントロールするように……という教えである。
私たちはこの暴れん坊の馬に振り回されてしまっている。
ヨガで瞑想している時、「ヨガが終わったら何食べようかな~」とか、「あの仕事どうなったかな~」と
頭の中のおしゃべりが止まらない。「もっと、静かに……静かに……」と制止するものの、
どんどんそのおしゃべりが大音量に広がっていく。瞑想どころの話ではない。
まさに迷走になってしまっている。
そのくらい感覚器官をもつ我々には誘惑が多く一点に集中することが難しい生き物なのだ。
そんな生き物である我々が正しい道を間違いなく歩むための一つの方法はやはり指差呼称なんだろうと思う。この指差呼称は感覚器官を使って指を指した対象物に意識を集中させる。
今、目を向けているもの、今声を出して言ったこと、その瞬間瞬間に注目させる。
それはまさに「今ここ」に意識を集中させるマインドフルネスの概念にも近いではないか。
指差呼称はまさにマインドフルネスの実践だ。
情報過多な時代。色々な情報が渦巻く中、五感でキャッチしたものにあっちへこっちへと振り回されることなく、今という時間を大切にして正しい道に進めたら余計な不安からも解放され、幸せを感じるだろう。なかなか五感の制御は難しいことではあるが、指差呼称をみてこの方法でマインドフルネスの
練習ができるかもしれないとふと思いついた。
家を出るとき、「ガス栓を閉めたっけ?」と履きかけていた靴を脱いで台所に戻り、再確認に行くこと度々。ある時は「家の鍵閉めたっけ?」と玄関まで戻って鍵がかかっているか確認に戻ることも少なくない。
確認に戻れば、ガス栓は閉められているし、家の鍵もちゃんと閉められている。
無意識に行っているが故にやったことを覚えていないだけである。
これは何とかならないものだろうか?
そう指差呼称だ。
それからはガス栓をチェックするときに、ガス栓を指差し、「閉まっている」と声を出す。
玄関の扉の鍵を閉めるときも鍵穴に向かって指を向け、「閉めたよ」と声に出す。
そうすることで二度戻りすることはなくなった。
指差呼称をしてみることで、余計な心配もなくなり、私の時間もセーブされている。
何より行動がスムーズに運ぶのが心地よい。
「指差呼称」 効果絶大。ぜひお試しあれ!
***
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