失敗の先にある一期一会 ~生命保険外交員を5か月で辞めた話~
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人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜
記事:清野千聖(ライティング・ゼミ2月コース)
「私と一緒に働きませんか?」
今から2年数か月前の2020年2月、私は某大手生命保険会社の外交員研修生になり、のちに、正社員になり、7月末までの5か月間だけ働いたことがある。
きっかけは、地元のハローワークで職業相談を受けた帰りに、保険会社の外交員に声を掛けられ、彼女にこの一言で勧誘されたからである。
2020年1月。何社も求人に応募しても不採用になり、かなり気持ちが塞ぎこんでいた。外交員に声を掛けられたことが嬉しくて、「働けるなら」と藁にも縋る思いで、その場で了承してしまった。
私の年齢は当時50歳。年齢的に正社員として生命保険外交員として働ける最後のチャンスとも言われた。更に、追い打ちをかけるように言う。
「あなたは絶対、保険の仕事をやっていけるわよ。明るくはきはきとした性格が、まさに外交員向きよ」
今思えば、何を根拠に「絶対」と言えるのか?
そして、初対面の人に私の性格なんてわかるはずがないのに……。
保険外交員の仲間を誘う決まり文句であり、私だけでなく、誰にでも同じことを言っていることは、入社してからわかった。
研修期間は2か月。最初の1か月は、保険商品を売るための生命保険募集人試験というものがあり、その試験で一定基準の点数を取らないと、研修生としていられなくなると言われ、大学受験生のように猛勉強した。
何十年か振りに勉強し過ぎて、目を酷使しすぎて充血し、指には「ぺんだこ」ができてしまった……。
晴れて合格し、研修期間の残り1か月は、既契約者へのテレホンアポイントや研修生同士でペアでの保険提案の練習、育成トレーナーによる厳しい特訓など、50歳の私にはかなりハードルが高い講習を受けた。
同期は4人で、いずれも女性。一番年齢が若い子は18歳。私が最高齢で、40代、30代、20代が各1人という世代を超えての新しい仲間ができ、日々、励まし合って、研修に臨んだ。
2か月後、正社員となり、私を含め同期の5人はそれぞれの営業部に配属され、職場は別々になる。
4月に入り、アポイントが取れた既契約者の自宅に、部のリーダーと一緒に挨拶に出掛けた。
名刺をと共に、ティッシュやキャンディーなどを渡しながら、現在加入している医療保険の契約内容の確認をし、新しい保険の提案もした。
すると、興味を示してくれた顧客は、未就学児の子どもがいて、ちょうど「学資保険」を検討していたとのことだった。
私が新人で、一生懸命に活動している姿に同情したのかわからないが、初めて契約を獲得したのだ。
基本給に加え、保険商品は売れば売るほど、成功報酬となり、毎月の給料に反映される仕組みである。
当時、コロナ禍であり、4月下旬から5月末までは活動自粛となり、在宅で電話による保険の提案をしたが、6月からは少しずつ活動再開した。
でも、1件は契約を獲得したものの、現実は甘くない……。
6月、汗ばむ季節の中での活動は、更年期障害の私には辛かった。
顧客の勤務先や自宅で、保険の提案の話をしていると、ホットフラッシュなのか急に汗が出て、動悸がしたこともあった。
玄関先で話をすることが多かったため、水分を補給しても、熱中症になりかけたことが何度もあった。
7月に入り、体に堪えられない暑さが続く……。
酷暑の中の営業活動は、暑さ対策をしても、緊張感もあり、汗が止まらなかった。
契約が取れず、日々の事務所での朝ミーティングと成果報告では、はっぱをかけられたり、叱られたりした。
更に、一緒に働く保険外交員を誘うノルマもあり、私は、精神的にも肉体的にもかなり疲れ切ってしまい、結果、7月末で退職せざるを得なくなった。
退職する前に、初めて「学資保険」を契約してくれた家族に伝え、感謝とお詫びの気持ちを伝えた。
「保険屋さんは大変な仕事だったね。よく頑張ったね」
労いの言葉を掛けてくれ、思わず、大粒の涙がこぼれた。
「私たちが出逢ったのも何かのご縁です。これからは、保険の話抜きで仲良くしましょう」とも言ってくれた。
私が退職した後も、40代の奥様は気に掛けてくれ、社交辞令ではなく、友人として私を認めてくれた。
先日、劇団四季のミュージカルのチケットが2枚あると言って誘ってくれ、彼女と一緒に観に行く機会があった。
ミュージカルも素晴らしかったが、縁が繋がっていることが、もっと感慨深く、彼女に気付かれないように、そっと顔を両手で覆い、涙を押さえた。
勧誘がきっかけで、保険会社で外交員として働いた、たったの5か月間。
入社したことも退職したことも、成功ではなく、失敗である。
でも、失敗したことで得られた「一期一会」の縁がその先にあった。
日常生活ではきっと出逢えない同期の4人、そして初契約となった顧客の40代の奥様と、退職して2年近く経った今でも、個人的に繋がっている。
様々な試練に立ち向かって、今も頑張って、外交員として活動していたら、今頃どうなっていただろうか?
全国で、生命保険外交員として働いて、活躍している人は何十万人もいる。
ふと、そう思う時もあるが、私は、「今の私で大丈夫!」と胸を張って生きている。
これからの人生で、また失敗をするかもしれないが、きっと新しい環境で、新しい出逢いが待っているだろう。
一生のうちで、世の中で出逢える人はごくわずかである。
これから先、もっと素晴らしいことが待っているに違いない。
***
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