1杯のお茶と出会いを選んで不治の病を患った、でも後悔はしてない
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記事:香月祐美(ライティング・ゼミ2月コース)
とんでもなく朝が弱い。
朝だけでなく午前中ずっと、ナマケモノのごとく地を這うことしかできないでいるくらい弱い。
早く寝ようが関係ない、毎朝目覚めるとナマケモノになっている。
午後からの仕事を選んで本当によかったと思う、だってこんな姿を人様にはとても見せられないから。
そんな私が年に数日、朝からヒトでいられる日がある。
今回もその日は突然、発作のごとくやってきた。
そういう日は、お寺に行くと決めている。
朝5時半。
朝日を浴び意気揚々と夜行バスを降りながら「京都よー!!」心の中で叫び、マスクなのをいいことに遠慮なくニヤニヤした。
今朝の私は、いつものナマケモノではないばかりか、ハイテンションである。
そんな自分を、一歩引いて冷静な自分が様子をうかがっている。
朝っぱらからテンションが高い反動で、日中倒れたりしないだろうかと。
なんだ、朝からヒトでいられるじゃんとも思うけれど、これはイレギュラーであり、ある種の病だと思っている。
思い返せばあの日を境に、発作的にこの症状が出るようになった。
いいんだ、たぶんもう一生治らないけれど、あの日の選択を後悔していない。
京都に行ってはしゃぐ私は、もともとお寺に行くのが好きだった。
だって、お寺のキレイな空気に包まれて、お参りしてご利益をいただいたら……いいことありそうじゃない? なんて下心が、好きのほとんどを占めていたけど。
好きが高じて、四国にある88箇所の寺を歩いて回り始めた。
1周では飽き足らず3周目に突入するくらい、お寺を見て回るのが好きだった。
どれ一つ同じお寺はなく、若者向けのペイントがされたお寺や、天空のブランコなるものがある山寺など、個性ある88箇所のお寺を見て回るのは飽きない。
しかも、2周していると余裕が出て、88箇所のお寺以外にも気になるお寺があると足を伸ばすようになった。
そして、あの日。
いつものように四国を歩いていたら、デカデカとした看板が目に入った。
矢印とともに、観音様と書かれている。
お寺かな? と思ってスマホの地図を開いたけど寺は見当たらず、矢印は山に繋がっていることが分かった。
予定通りまっすぐ行くか、曲がってスマホにも載っていない観音様を見に行くか。
まるで運命の分かれ道へ誘い込む矢印みたいだと思った。
今日はあと20キロ以上歩く予定なのに、寄り道すると山道込みの往復3キロがプラスになる。
行きたい、だけど山道3キロはキツい。
迷ったあげく。
観音様を見たい気持ちに負け、寄り道を選んだ私は「これは観音様が与えた試練か……」と後悔したほどキツい山道を登り、「こんなとこまで登ってきたんね!?」と、居合わせた住職さんに驚かれることになった。
住職さんが驚くのも分かるかもと思うくらい、誰もいない山寺だった。
観音様に会えて満足し、次に行こうとする私に住職さんは、「何もないところに、なんで来たんね」と言いつつ、1日ずれていたら法事でココにいなかったから、まぁご縁だと思って座って行きなさいとお茶を淹れた。
「今日はこれから20キロ」が頭をよぎったけど、せっかく淹れてもらったから一杯だけ……と座ることにした。
観音様がいる本堂の脇に二人座り、お茶を飲んでいると住職さんが教えてくれた。
四国を回る人はいっぱいいるけど、みんなして言う言葉がある、と。
「もっと若かったら、一度自分の足で回ってみたかった」
そんなこと言うけれど、私は心の中で思った。
私だって10代の頃みたいに、寝るだけで体力が回復し、楽に歩ける足は持っていない。
実際、年々少しずつ歩ける距離は減っている。
「いやいや、ここだってヒィヒィ言いながら必死で登ってきましたよ」と言うと、自分の足でこんな山を登ってこれるのは、「ありがたいこと」だよ、と笑って返された。
「自分が当然と思ってやっていることは、当たり前じゃない。ありがたいんだ」と。
その言葉を聞きながら、思い起こされたのは仕事のことだった。
塾講師をしている仕事柄、人それぞれの理解力が違うことに、頭では分かってはいたのだけど、最近悩んでいた。
みんなが同じように出来ることが当たり前じゃない。
そんなこと自分で分かっていたつもりだったのに。
出来る子がいることで、そうじゃない子にモヤモヤすることがあった。
そうだよね、当たり前だと思う気持ちがモヤモヤさせてたんだな、と、他人に言ってもらったからだろうか、胸にストンと落ちてすっきりしたのだ。
あの日、寄り道を選ばなければ、1杯のお茶を飲んでいくことを選ばなければ、ずっと気づかなかったかもしれない。
お寺で世話話をする機会があっても、これまでは先を急ぐことや、お寺を見るだけで満足してしまっていて、そういう機会を大事にしていなかったけれど。
悩んでいる時に限って、悩み相談をしたわけじゃないのに解決の糸口が見つかることに気がついた。
仏様がご縁を繋いでくれているのではないかと思うほど、何度か同じような経験をした。
お寺を「見る」だけだったのが、あの日から見方が少し変わったおかげだと思う。
見て、お参りするだけでなく、お寺の人のお話を聞いて過ごすのも魅力だなと思うようになった。
お寺に行きたくなる発作が出てくるようになったのは、この頃からだ。
そして、発作が起きる日は、朝からやたらシャッキリしている。
お寺の魅力にハマった私は、これからもその魅力に取り憑かれ続けるのだろう。
それでも構わない。
今回も良いご縁があればいいなと思いつつ京都にやってきた私は、説法で有名なお寺に向かうため、電車に乗り込んだ。
***
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