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英語でコミュ力を上げる魔法のフレーズ


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人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜

記事:北見 綾乃(ライティング・ゼミ2月コース)
 
 
「うち、一応外資系だけど、マネージャーにでもならなきゃ英語はいらないから! 安心して」
 
採用面接のとき、担当の面接官――のちの上司――は確かにそう断言した。
 
だから、入社したのだ。今は英語が苦手でアレルギーかというレベルでも、当面は問題なくやっていけるかな、と思って。なのに!
 
翌年に状況が一変。自部署で米国本社と日本支社のプロセスが完全統合されることになった。仕事の進め方もシステムも本社と統一されることになったのだ。文書類はすべてがすべて英語である!
 
ああ、めまいが……。
 
いや、確かに私が甘かった。そんなことはよくあることだ。そもそも英語アレルギーなのであれば、英語能力を要求されるリスクの高い外資系企業なぞに入社するべきではなかったのだ。
 
しかし入ってしまった今、小さな子供を抱え、生活がかかっている。すぐにクビになるわけにはいかない。単語や文法の勉強をする、英会話スクールに通うなど悪あがきを始めた。とはいっても、すぐに結果が出るわけもない。ろくすっぽ英語力をつけられないまま、ついに恐怖の命令が下された。
 
「1か月間。一人で米国本社へ行き、システムの設定の仕方を覚えてこい」
 
英語がまともに聞けない、話せない状況で米国のとある田舎町に旅立つことに決まってしまった。
 
英語だけではない。私一人での米国出張にはもう一つ問題があった。私は十年を軽く超すブランクを持つ、筋金入りのペーパードライバーなのだ。もちろん免許証はゴールドに輝いている。米国の田舎町、車での移動が前提にされているため、歩道さえない場所も多い。
 
一番近いホテルから会社までも車移動が必要なため、車が運転できないということは通勤等の移動さえままならないということである。どこに行くにもタクシーを呼ぶか誰かを頼る必要が生じてしまう。
 
ただ、道は広いので、「ペーパードライバーの私でも運転できちゃったりするかしら?」と国際免許を取得することも考えた。しかし、どういうことか夫が「お願いだから車の運転だけはしないでくれ!」と必死の形相で止めにかかってきたため、出張先で運転することはあきらめることにした。過去の私の運転、そこまでトラウマ級に怖いものだったかしら……。
 
そのようなわけで、英語ができない、車が運転できないという、米国の田舎で過ごすには絶大な不安要素となる2重苦を背負いながら、私は日本を後にした。
 
 
ホテルから会社までは車で15分程。毎日タクシーを呼ぶのは大変だ……とげんなりしていたところ、ホテルの従業員が会社までワゴン車で送り迎えをしてくれるサービスがあるとのことだ。これは助かる。
 
初日、英語しか通じない国で、「怖い……。いっそ見えなくなりたい……」と縮こまりながら送迎車が来るのを待っていると、私のこの“話しかけないでオーラ”を完全無視してアジア系の若い女性が突然にこやかに話しかけてきた。
 
「Hi! How may I address you?」
 
確かにそんな風に聞こえた……ような気がした。でも、アドレス? 住所……じゃないよね!? 意味がさっぱりチンプンカンプン。どうしていいかわからず、口を金魚のようにパクパクしていると、彼女は私に通じていないことを悟ったのか、違うフレーズで言い換えてくれた。
 
「Uh, How can I call you?」
 
ああああ! 私のことをなんて呼べばいいか聞いているんだ。そこでやっと名前を答えた。
 
「Ayano……」
 
「Oh! Ayano! I’m Rachel. Nice to meet you.」
 
レイチェルはその後にも車に乗るすべての人に全く同じように
 
「Hi! How may I address you?」
 
と話しかけ、全員とにこやかにコミュニケーションを取っていた。
 
レイチェルはシンガポールから、後の2人はトルコから来て、皆1週間ほど滞在するという。部門は違うが皆同じ会社の社員だ。レイチェルはすぐに滞在中に一緒にご飯を食べに行きましょう、などと言う。
 
どちらかというとコミュ障をこじらせながら大人になってしまった私からすると、レイチェルのこの行動は隕石が頭上にふってくるくらいの衝撃であった。もはや化け物級のコミュニケーション力である……!
 
レイチェルの活躍により、この3人とは1週間の間に何度か一緒にショッピングモールへ行ったり、ご飯を食べに行ったりすることになった。おかげで最初の1週間はホームシックを感じることもなく楽しく過ごすことができた。
 
 
あとで調べたところによると、“How may I address you?”というのは“How can I call you? ”よりもかしこまった言い方で、「あなたのことを何とお呼びしたらいいですか?」という意味ということ。
 
この言葉は私にはまるで「魔法の言葉」のようだった。レイチェルを見ていたら、その一言だけで英語が話せる全人類を友達にできてしまうのではないかとさえ錯覚した。
 
 
早くも1週間が経ち、レイチェルたちが出張を終えてそれぞれの国に帰ってしまった後、一気にさみしくなった私はこの言葉をちょっと実地で試してみることにした。
 
最初のターゲットは、その朝私のためだけに送迎の車を出してくれたホテルの従業員。レイチェルになったつもりでしっかり目を合わせ、笑顔を作り、勇気をもって話しかけてみた。
 
「Hi! How may I address you?」
 
するとそれまで無表情だった従業員がニカッと笑い、ブレットだと答えてくれた。もしかしたら場にそぐわない丁寧な言いっぷりに笑ってしまったのかもしれないが、雰囲気が変わった。
 
そのタイミングで偶然彼の携帯電話が鳴った。その呼び出し音に聞き覚えが。知ってるぞ。これは、スーパーマリオUSAの曲じゃないか!
 
「おお、マリオ!?」
 
そう聞くとブレットは即座に「Yes!」と興奮気味に応じてくれ、一気にゲームの話などで盛り上がった。
 
この調子で徐々に名前を呼べる従業員が増えていくと、独りぼっちでさみしく滞在していると思っていたこの異国のホテルが、少しずつ暖かい場所と感じられるようになってきた。
これは、本当にコミュニケーション力を上げる、魔法の言葉だ……!
 
まず相手の名前を知ることからスタートすること。レイチェルのように物怖じしないで笑顔でまっすぐ相手に話しかけてみること。それだけでも場の空気が変わる。空気が変われば私のつたない英語でも、なんとかコミュニケーションはできるのだ。
 
私に魔法の言葉と勇気をくれたレイチェル。恐怖の出張を乗り切れたのはあなたのおかげ。少しばかり離れた空の下から、改めて、本当にありがとう。
 
 
 
 
***
 
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