メディアグランプリ

色えんぴつの「肌色」が「うすだいだい」に改名されたのを実感できたとき


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記事:布施京(ライティング・ゼミ4月コース)
 
 
アフリカに赴任して初の宿泊出張。
目的地に到着し、車を降りると、日差しが強く思わず目の前に手をかざした。
二人の現地人の同僚は帽子を被っていた。
それは、日焼け防止のためではなく、会社のロゴが入った広告用の野球帽だった。
私も帽子を持ってくればよかったと話すと、一人の同僚はこう言った。
 
「僕たちは、焼けても大丈夫。もともと黒いからね」
 
一瞬自分の中で、触れてはいけない話題に触れてしまったのではないかとハッとした。
だが、そんなことはおかまいなしに同僚が言った。
 
「黒人は楽でいいよ。夏はシャワーしてもそのまま。冬はヴァセリンをつけて終わりだよ。女子はもっとおしゃれするんだろうけどね」
 
と声高らかに笑った。
同僚は薄い小麦色の手のひらと手の甲の黒い肌を比べてごらん、と言うように、私に見せた。
爪の部分も手のひらと同じようなきれいな薄い小麦色だった。
 
その時、ブラジルにいたときのことを思い出した。
もう10年以上も前になるが、私はボランティアでブラジルに行ったが、カポエイラを本場ブラジルで学ぶのも楽しみにしていた。
 
カポエイラは、奴隷としてアフリカからブラジルに連れてこられたアフリカ人たちが作った格闘技だ。彼らは、横暴な支配者たちから身を守るため、護身術としてカポエイラを身につけたが、支配者たちは、奴隷たちの抵抗を恐れ、その後カポエイラを禁止する。
そこで、カポエイラとわからないように、音楽に合わせ踊りに見せかけて密かに練習をしたのが、今のカポエイラのルーツとなっている。そのため、組手では、闘うというよりはゆっくりと求愛ダンスを踊っているような印象を与える。
すばやい動きもあるが、ゆっくりと全身を使う動きも多く、優雅さが感じられるのは、「奴隷」という制限された生活の中で、奴隷たちにとって潤いを与えてくれる存在だったからかもしれない。
 
そんなカポエイラに魅せられて、私はカポエイラをブラジルで習おうとした。
そのことをお世話になっていた日系一世の方に伝えると、
「黒人のやるようなスポーツはやらないほうがいい」と一蹴されてしまった。
お世話になっている方の反対を押し切ってまで学ぶのはあきらめた。
カポエイラが習えなかったことは残念だったが、その地域の日系社会を支えているリーダー的存在の方の、差別するような発言を、なんだかとても残念に感じたのを思い出したのだ。
 
だが、肌の色が話題になって、ハッとした自分はどうだったのだろう。
何を思ってハッとしたのか。
「黒い肌」ということを意識していたから、そう思ったのではないか。
 
 
先日、インターナショナルスクールから帰宅した息子が日焼けしたように見えた。
 
「ずいぶん黒くなったね」
すると、息子は突然こう言った。
「黒じゃないよ。僕は、黄色だよ」
 
一瞬、「いじめられているのか?」と、そんな疑いを持った。
だが、息子は、マンガから日本人が黄色人種だということを学んだという。
 
なのに、私は、息子がただ自分のことを「黄色」だといったことで、
すぐに「いじめ」を連想してしまった。
そんな自分の捉え方の方が問題な気がした。
前述の日系一世の方となんら変わりはないのではないか、とさえ思った。
 
同僚も、息子も、ありのままを言っているだけなのではないか。
黒も、黄色も、そして、白も。
 
 
2000年、大手クレヨンメーカーが「肌色」の呼称を「うすだいだい」に変更し、
2006年にはすべての色鉛筆やクレヨンから「肌色」が撤廃された。
 
言い訳であるが、当時海外にいた私は、その情報をキャッチできていなかった。
今回の件で、初めて「肌色」という色鉛筆の呼称に疑問を持ち、ネットで検索し明らかになった。
 
なんだか確認したくて、息子の色鉛筆を手に取った。
私が「肌色」と認識している色鉛筆は、確かに「うすだいだい」と記載されていた。
 
息子に、「うすだいだい」の色鉛筆を取り出して見せた。
 
「これ、何色?」
「肌色」
「うすだいだい、って書いてあるけど」
「ああ、『うすだいだい』だ。呼び方は2つあるんだよ」
 
昭和育ちの私は、「うすだいだい」の存在を知らずに、ずっと「肌色」と呼んでいた。それが息子に与えた影響は大きかったであろうことは否定できない。
 
「肌色」は一つではない。
頭ではわかっていても、実際にアフリカに来るまで、きちんと実感を伴って認識できていなかった。
だから、私は、「肌色」という言葉を使い続けてしまったのだろう。
 
 
ある人は黒い肌、ある人は白い肌、ある人は黄色い肌……
ただ、生まれ持った肌の色が違うということ。
ただそれだけのことだ。
 
肌の色だけじゃない。
人は、それぞれ違う。
 
誰かと比べたりせずに、その人をありのままに見る。
すると、その人の輝きが放たれるのが見えてくるはずだ。
 
内に秘めるその人にしかない輝きが、きっと見えてくるはずだ。
 
 
 
 
***
 
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2022-06-01 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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