メディアグランプリ

仕事ができる有能エリートからマウントをとられ続けた私が、今になって気づけたこと


*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜

記事:河口真由美(ライティング・ゼミNEO)
 
 
これまでの社会人生活で出会った人たちの中で、忘れられない人がいる。
彼と仕事をしたのは、ほんの2,3年だったけど、彼が私へ与えた影響は大きい。
 
私が勤務しているシステム会社は、大手企業のシステム開発からメンテナンスまでを行っている。彼はその相手企業のシステム担当者だった。利用者の声を聞いて、業務に合わせてシステムをどう改善していけばいいのかを、私たちと調整していくことが彼の役割だった。
 
彼と出会ったのは、私が入社2年目に入り、段々と仕事に慣れてきた時だ。新しいシステム担当者として、他部署から異動してきた。当時の彼は26歳くらいだったと思う。スラっとしていて、頭も良く、仕事もできて、慣れないシステムに対する理解度もすさまじく早かった。
 
プルプルプルプル。
 
私の内線電話が鳴り、「3836」の番号が表示される。彼だ。
胸がドキッ!!!! と跳ね上がる。そして、跳ね上がった心臓は、ドドドドドドドドと早く動き始めた。これが恋のドキッ! なら、どれだけ良かっただろうか。残念ながら、恋ではない。
サバンナの小鹿がライオンなどの肉食動物にロックオンされたときを思わせるドキッ! だ。
 
「江口です。あのさ、ちょっといい?」
 
よくないです。全然よくないです。本当はそう言いたい。
 
「はい。大丈夫です」
 
「さっきメールでもらった資料なんやけどさ、聞きたいことがあって、こっちまで来てくれる?」
 
「はい、承知しました。今すぐ伺います」
 
急いで立ち上がり、事務所を出た。彼がいるのは、隣のビルの8階だ。
 
「はぁ。なんだろう。また、何かいわれるんやろうなぁ。あー、行きたくない……」
 
そう。私はこの江口さんが大の苦手だった。
彼はいつも冷静で、怒鳴ったり、怒ったりするような人物ではない。でも確実に急所を狙うように鋭い指摘をしてくる。しかも顔には含み笑いを入れて、ものすごく毒のある言い方で。それがとにかく怖かった。
江口さんが異動してきてから、私はストレスで体重が10kgも落ちた。
 
 
「すみません、お待たせしました」
 
「あのさ、さっきもらった資料なんやけどさ……。どういうつもりで、この作りになってんの?」
 
どういうつもりで? 質問の意図がわからない。
 
「……あの。えっと、それはどういうことでしょうか?」
 
「順番が変やろ。普通、これを先に見せて、次にこれを見せんと、説明になってないやろ? なんでこの順番にしたん?」
 
私が送っていた資料は、システムを問題なく置き換えたことを証明したエビデンスだった。彼はそのエビデンスを見せる順番について指摘をしてきた。
確かに、指摘されたところは、資料を作成するときに迷った部分でもあった。システムを置き換える作業ベースで見せるべきなのか、お客様の要望ベースで見せるべきなのか……。私は、システムを置き換える作業ベースで見せてしまっていた。その順番で見せないと、つじつまが合わないと思ったからだ。
 
「すみません。実を言うと、そこは迷ったところでもあったんですが、システム的なことを言わせていただくと、この順番で作業しなければ結果が出せなかったので……。エビデンスの順番を入れ替えて、再提出させていただきます。」
 
「そうね。作業の観点ではそうかもしれないけど、俺たちにはそっちがどんな順番で作業するって、ハッキリ言ってどうでもいいからね。要件を満たしていることさえわかればいいから」
 
 
江口さんからの指摘は毎日のように続いた。
なんで、ここはこうしたの? なんで、こっちじゃだめなの? なんで? なんで? なんで?
もちろん仕事で中途半端なものを出してはいけないと思うが、彼と話す時は、特に入念な説明準備が必要だった。自分がしっかりと理解した上で、根拠を説明できなければ、納得してくれなかったのだ。
私は、とにかく彼と接するのが怖くて、「3836」という内線番号に毎日おびえていた。
 
 
私たちがお互いに別々の部署に異動して、顔も見ることがなくなったある日、会社の先輩であるNさんとランチにいった。Nさんは江口さんの会社に出向して、彼と一緒に働いた経験もあり、とても仲が良い。今でも親交を続けているという。
江口さんのことを振り返って話していた時に、彼女がこんなことをいっていた。
「江口さん、めちゃめちゃ毒舌よね。私もいっぱい毒吐かれたよ。でもね、江口さんが異動してきてから、本当にみんなが仕事しやすくなったんよ。多分、月額300万くらいの業務効率化がされたと思うよ。江口さんが私たち(システム開発者)とシステム利用者の溝を埋めてくれたおかげで、みんなが同じ目標に向かって動けてたのは大きいと思う」
 
当時は、江口さんに対する拒否反応ばかりで、彼の仕事ぶりをまともに見ることはできなかったが、Nさんの話を聞いて、改めて彼のことを振り返ってみた。
システム開発者は、つい開発者目線で説明をしてしまいがちだけど、お客様が必要としているのはそんなことではなく、それが自分の業務にどう影響があるかだ。考えてみれば、いつだって彼の指摘の中枢にあることは、お客さまが必要としていることに対して、何が足りていないかということだったように思える。
 
いつも私に、なんで? なんで? とマウントのように聞いてきたことだって、あれがあったから、きちんとお客様の要件に対する意図を考えて、なぜそれをしなければならないかを考える癖をつけることができた。
江口さんはこんなにも私のことを鍛えてくれたのだ。
彼は、決して私という小鹿を狙っていたライオンではなく、むしろ「指摘」というエサを与え続けてくれた飼育員ともいえる。
 
 
お客様の中で、「わからない」と言われる方はいっぱいいても、どう改善してほしいかと伝えてくれる人は、なかなかいない。
指摘というものは、とてもありがたい。
しかもお客様が指摘してくれるということは、お互いの今後を考えてくれているからこそだ。指摘は、より良い仕事を進めていくための助言でもある。
 
江口さんと仕事をした日々は、私にとって最もつらかった時間であり、最も学んだ時間でもある。
 
 
 
 
***
 
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2022-06-02 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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