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メディアグランプリ

「これ以上はムリ。もう殺してくれ……」という毎日で培われたもの


*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜

記事:大村隆(ライティング・ゼミ2月コース)
 
 
「肥料で太らせるんじゃなくて、植物自体が持っている生きる力だけで大きく育っていくんです。だから中身の詰まった、美味しい野菜が育つんだと思います」
 
先日出会った自然農を実践する男性は、畑に腰掛けてそう言った。
 
「畑の状態を整えたいなと感じたときには、この環境のなかにある天然の素材を与えます。鳥のフンのようにほんのひと握り、ちょこっと土に落としてあげるんです。私たちの言葉では、これを『補い』と呼んでいます」
 
自宅に帰って男性から聞いた話を思い出しているときに、ふいに20年以上前の日々がよみがえった。新聞社に入りたてのころの、真っ暗な記憶が。
 
「完成原稿を出せや!」
 
当時、毎日のようにデスクから怒鳴られていた。ただ新人にとっては何が「完成」した原稿なのかが分からない。「どこを、どう直せばいいのでしょうか?」「あのな、ここがな……」と指導してくれる相手ならいいが、このときのデスクはそういう人物ではなかった。ただ、怒鳴る。ぶち切れて原稿を突き返す。それ以上のコミュニケーションはない。
 
「なんで書けねえのか、俺にはまったく理解できん」
「書く気がねえんなら、記者なんてやめちまえ」
 
何度、そう言われたか分からない。
 
同期でも、要領のいい記者はそれなりのものを仕上げてOKをもらっていた。でも、不器用なタイプの僕はそうはいかなかった。死ぬほど考えて、「これ以上はもうムリ。殺してくれ……」という状態で書き直した原稿を、怒鳴り声とともにまた突き返されるという、無限とも思える繰り返し。見放され、数カ月間にわたって無視され続けた時期もあった。一時は慢性的な抑鬱状態に陥ってミスを連発。そのたびに激しく怒鳴られ、さらに凹んで……。
 
いまなら間違いなくパワハラだろう。このデスクの指導法、上司としてのあり方、人間性などに問題がなかったとは思えない。
 
ただ、「完成原稿を出せや!」という言葉に込めたデスクの想いについては、理解できるような気がするのだ。
 
自分の頭で考えて、自分の力で育っていけ。
 
デスクはそういう願いを込めて、毎日怒鳴っていたのではないだろうか。僕だけが持つ力を発揮して、記者として成長してほしい、と。だとすれば、それは愛情だ。ただ「補い」はなく、ひたすらフンのように扱われただけではあったけれど。
 
そう言えば、数年前にフリーランスのライターとなってからも、このデスクの言葉を思い出すことが何度かあった。
 
フリーになってから、WEBマガジンなどに記事を寄稿するようになった。それに伴い、WEBライターと名乗る方の記事を目にする機会も増えていった。客観的事実を「伝える」新聞記事とは違い、その人なりの感性や世界観といった主観的視点を通して丁寧に綴られた「伝わる」文章に出会うと、時が止まったような没入感と感動を覚える。
 
だけど、そうした記事に出会えるのはまれだ。絵日記か、ブログの延長のような文章がそのまま掲載されている場合もめずらしくない。
 
昨年末、まったくライター経験のない男性が初めて執筆した原稿を見る機会があった。あるタウン誌の企画の一環で、僕もライターの一員として掲載前の原稿に目を通させてもらった。それは原稿というより、メモだった。自分だけにわかる言葉で、個人的なつぶやきと一方的な主張が並んでいるだけだ。
 
「これは大手術が必要ですね」。僕は編集長の男性に言った。「もっと読者にとって関心を引くような、分かりやすい表現から入らないと。内容も具体性、客観性に欠けています。何も知らない第三者に向けて書くという基本的な前提が感じられない。このままじゃ、最後まで読み通す人は少ないでしょうね」
 
編集長は「そうですね」と言って苦笑いしていた。だけど掲載されたのは、ほとんどそのままの文章だった。内容の重複や、表現の過不足には多少手が入れられていたものの、記事そのものの質は変わっていない。なにより、「配慮」がないのだ。
 
配慮とは、読みやすさだけを指すのではない。読み手が何に意識を持って読み進め、その意識をどう導いていき、最終的にどんな印象やメッセージを届けようとしているのか。それにより、どんな感情を育みたいのか……といった、書き手の意図と読み手への思いやりの両方を含む。掲載された記事には、それらがまったく感じられなかった。
 
「これをOKしたのなら、このライターさんは次も同じようなレベルの原稿を書きますよ。それでいいんですか?」と僕は編集長に尋ねた。
 
「うん、いいんです。この人らしさが出ていればね」
 
僕はちょっとびっくりした。ライターさんの満足が第一なのか……。編集長自身も、配慮が薄弱なのだ。ただ、ブログやSNSなどを通じて誰でも発信できる現在にあっては、これがスタンダードなのかもしれないとも感じた。だとすれば読み手だけでなく、ライターにとっても不幸な事態だ。このような環境下で何百本と記事を書いたところで、書く力はつかないし、成長もしない。
 
そう考えると、僕は恵まれていたのかもしれない。「完成」を目指して、「これ以上はムリ。もう殺してくれ……」と思えるほど突き返され、推敲を繰り返す。その過程と経験を通して、書き手としての地力を育ててくれた上司に出会えたのだから。
 
もちろん、そうだとしても怒鳴る必要はないし、メンタルを追い込む必要もない。ギリギリまで考えさせた上で、「もうすこし、この辺りを深めてみない?」「こうした視点もあるんじゃないか?」といったフィードバックという名の「補い」を与えられていたとしたら、もっと違った成長を遂げていたかもしれない。いまとなっては、どうしようもないのだけれど。
 
もうすぐ、新たなWEB媒体で編集者としての仕事が始まる。複数のライターさんの記事に手を入れる仕事も含まれるようだ。「完成原稿」を目指して、時間の許す限りライターさんに考えてもらいたいと思う。もちろん、決して怒鳴ったり、突き返したりはしない。まして、フンのように扱ったりもしない。ただ、可能性を信じて根気よく付き合わせていただきたいと思っている。育とうとする力を最大限引き出すために、最小限の「補い」を与えながら。
 
 
 
 
***
 
この記事は、天狼院書店の大人気講座・人生を変えるライティング教室「ライティング・ゼミ」を受講した方が書いたものです。ライティング・ゼミにご参加いただくと記事を投稿いただき、編集部のフィードバックが得られます。チェックをし、Web天狼院書店に掲載レベルを満たしている場合は、Web天狼院書店にアップされます。

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2022-06-08 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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