メディアグランプリ

鍵っ子に憧れ続けたわたしへ


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記事:磯貝 歩(ライティング・ゼミ2月コース)
 
 
小学生の頃、ランドセルに家の鍵をぶら下げ、じゃらじゃら言わせていたクラスメイトが羨ましかった。わたしの目には、彼らが自慢げに鍵を持ち歩いているようにしか見えなかったのだ。家族の一員として認められ、鍵を持つ権利を与えられ、当時流行っていたキャラクターのストラップで鍵とランドセルを繋げ歩く姿がかっこよく見えていた。更に言えば、それが下級生なら、何故か自分に劣等感さえ覚えていた。
 
わたしはと言うと、両親は共働きであったが、その代わりに祖父母が必ず家にいた。わたしが家を出る8時前には既に朝の家事を終わらせ、畳の部屋でテレビを観ていたし、帰宅する15時過ぎにも、必ずと言っていいほど水戸黄門に備えてチャンネルを合わせていた。わたしはそれが嫌で仕方なかった。自宅で一人で過ごす、お一人様時間を味わってみたかったのだ。誰にも何も言われずに、好きな時間に好きなテレビを観て、出来る限りたくさんのお菓子を食べてみたかったのだと思う。今考えてみれば、何て贅沢なことをと思うが、当時のわたしにとっては最重要案件の一つであった。
 
何故今更そんなことを考えているのかと言うと、今でも電車にお行儀良く乗る小学生を見ると、過去の強い鍵っ子への憧れを思い出すからだ。「あぁ、この子は家に帰ったら自分で鍵を開けて、用意されたおやつを食べながら宿題をし、家の人の帰りを待つのかな」なんて考えてしまう。別に鍵を持つことに良いも悪いもないのだが、鍵を持つ子どもには、どうも自信が目に見える。凛として堂々と歩く彼らには、今でも少し謎の劣等感を抱いてしまう。
 
鍵を身に付けて出掛ける習慣が全くなかったわたしでも、中学・高校生にもなれば、テスト期間中などの不規則な時間割の日には、帰宅しても全てのドアが施錠されていることがあった。そんな時は、屋外にある冷蔵庫の上のお盆に載る鍵を使った。大抵の場合、祖父母はゲートボールかしまむらか食料品の買い出しに行っているだけなので、鞄を置いておやつを漁っている間に帰宅する。束の間のお一人様時間だ。
 
あの頃から20年が経った。一人暮らしを始めて三年が経った。家に誰かがいることが当たり前でなくなり、鍵っ子生活が当たり前になった。憧れの鍵っ子生活は、中々ハードである。好きなキーホルダーに鍵を付け、一人時間がたくさんあることは良い。でもその代わりに、施錠へのプレッシャーがあり、鍵を無くさないよう意識を向けることが必要になる。つまり、当時の鍵っ子に対する憧れは、ただ隣の芝生が青く見えていただけなのだ。事実、鍵を持っていなかった頃のわたしは鍵を持つことに憧れ、鍵を持つようになった今、鍵を持たないことを羨ましく思ってしまっている。他人を羨む癖に関しては、昔から何も成長していない。
 
「隣の芝生は青く見える」というのは、本当にどうしようもできないのだ。今でも、自然と他人と自分を比べて、羨ましく思うことが多々ある。けれど、どうしようもできないことも世の中にはたくさんあって、いざ自分が隣の芝生と自分の芝生を入れ替えたら、わたしはきっと元々の自分の芝生を羨むだろう。隣の芝生ループである。何が隣にきても、どうしても羨ましく思ってしまうのだ。それならば、自分の芝生を誇るために、客観的に物事を見る訓練が必要であると思う。
 
客観的に物事を見ることについて、わたしが憧れ続けた鍵っ子を例に挙げてみる。わたしが鍵っ子の何に憧れていたのかと言うと、幼いながら鍵を身に付ける姿と、一人で過ごすことができるという部分である。これを掻き消すわたしの芝生の良いところは、鍵を持つプレッシャーがないこと、常に話し相手がいることである。更に言えば、鍵を持つことと一人で過ごすことは、将来いくらでも実現できる。そう思うと、自分の芝生の方が、結果的に良かったんじゃないという結論に至る。
 
わたしには、これからも、隣の芝生が青く見える瞬間がたくさん訪れるだろう。隣の芝生に憧れている最中に、客観的に考える余裕はないのかもしれない。けれど、ふとした瞬間にこの考え方を思い出してみたい。そうすればきっと、自分のことがもう少しだけ好きになり、ポジティブになると思う。わたしが憧れ続けた鍵っ子については、20年経った今、ようやく客観的に捉えることができた。このように時間は掛かるだろうけど、それでも他人と比べる自分を責める気持ちが和らいでいくのは事実だ。意識的にポジティブに、自分のペースでゆっくりと生活していきたいと改めて思う。
 
 
 
 
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2022-06-09 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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