メディアグランプリ

知らなかった自分に出会いに行こう


*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜

記事:飯塚 真由美(ライティング・ゼミ2月コース)
 
 
電話口の私は完全にうろたえていた。
あまりに怖いと逆に笑ってしまう。ジェットコースターに乗ると笑いが止まらないのだ。楽しいからではなく、恐怖を紛らわすために反射的に笑いが出ているように思う。
試験直前、試験の内容を知らせる電話に出た私はヘラヘラ笑っていた。楽しかったからでは、無い。
 
4か月に渡るライティングの講座を受講し、最後の講義も先日終わった。週に1回、2000字の文章を書いて提出する課題がある。今までの人生で初めて体験する、夏休み最後の日が毎週やってくるような緊迫感を味わった数か月だった。
 
次のステップとして、上級コースであるライターズ倶楽部にチャレンジしないかという案内をいただいた。自分とは縁遠い、雲の上のような存在の人たちが集うコースと思っていた。
上級コース受講のためには、私は「入試」に合格することが条件だった。制限時間内で、与えられたテーマで文章を書くのだ。
ここまで数か月頑張ってきたので、この勢いでチャレンジしてみるのも良いかもしれないと思った。
記念受験だ。そう思って思い切って申し込みをした。
 
家で普段の環境で受験できると知り、ありがたかった。
試験会場で周りの人の進み具合がものすごく気になってしまうからだ。過去の試験の苦しい思い出が頭をよぎる。自分は書けなくて焦っているところに、周りのあちこちからさらさらと書き進める音が聞こえてきてさらに焦り、下降ループにおちいる。
 
試験は午後の時間を選んだ。午前中はそわそわして過ごした。
気持ちを落ち着けようと、寝っ転がってストレッチをしたりしてリラックスしようとしていた。
仰向けになったまま天井を見つめて考えた。
入試の文章を書くテーマは当日、開始時間の直前に電話で知らされる。
書く内容が全く思いつかないようなテーマを言われ、書いたこともないような字数を指定され、制限時間は刻々と迫る、そんな展開になったらどうしよう。
リラックスどころでは無かった。
 
そして、それは現実になった。
試験開始時間の直前、私はコーヒーを淹れていた。書いている途中に飲もうと、ものすごく甘くした。脳は食いしん坊なのだ。
と、そこに電話が鳴った。登録していない番号が表示される。試験のガイダンスだ。
 
どんなポイントが評価されるかという概要が説明された。うんうん、とメモを取る。
電話口の担当の人は、何時間で何文字の文章をまとめていただきます、と淡々と説明を続ける。
何文字、の部分を裏返りそうな声で思わず復唱した。顔が引きつった。ジェットコースターの時のあの笑いが出て、「来ましたね~」なんて言いながらヘラヘラと笑った。決して楽しかった訳では、無い。
まとめるっていうかスカスカで終わるってば。そう思った。
 
次はテーマについての説明があった。予想もしなかったような内容だった。復唱しなくて良いのに、これまた口に出して繰り返してしまう。復唱した後に私はしばらく沈黙した。
書けそうなことが何も思いつかない。どうしよう。電話のメモを取る字はガタガタになった。
既に書いた文章のコピペは絶対におやめください、と釘を刺される。
ご心配無く。このテーマに使えそうな文のストックなんて、何一つ無かった。
 
こうして、動揺している間に試験の時間は始まってしまった。
小学生の時の作文で、題名と名前を書いてあとは全く書き進められなかった嫌な思い出を思い返していた。真っ白のまま埋まらない原稿用紙は恐怖だった。またあの思いを繰り返すのだろうか。
 
書き始める前に、まずはメモに向かった。テーマから連想した言葉をバラバラと書いてみた。
うーん、貧弱。唇を噛む。
何か関連づけられるエピソードは無かったか? 自分の半生を検索した。
キーワードをメモに書きなぐる。これ自分でも読めないよと苦笑した。
これで書けるんだろうか? 書けない気がする。自信は無いけれどやってみるしかない。
あとは、成り行きに任せよう。ひとごとの様に、あとはもう一人の私に任せよう、きっと何とかしてくれると思っている自分がいた。
ここまでで10分が経過していた。試験の時間が終わる頃、私はどんな顔をしているのだろうか。頭を抱えて悔しがっているのかもしれない。それでも敢えて、達成感にすがすがしく笑っている自分を想像しようと思った。
 
ここからは1分も無駄にできない。ひたすら書いて書いて、そしてまた書く。
途中メモを見返すが、書きなぐったので読めないんだったと気づく。大体こんな事をメモした気がする、のうすぼんやりとした記憶で続けた。
自分を元気づけるために甘くしたコーヒーは、手を伸ばす暇もなく冷めていった。
 
テーブルに置いた時計が残り10分を示す。
文章を書いているワードファイルの下に表示される文字数カウンターを睨む。
実は今から書く部分が、一番ボルテージを上げたいパートだった。できれば、その後に最後のまとめの部分も足したいと思っていた。
あと10分で本当に書けるのか?
ここで終わりにしてゆっくり見直すという手もあるのでは? と考えた。
 
ここから先のパートを書かないと、全力を出し切らなかったと何だか一生後悔する気がした。
自分を信じて、進んでみよう。
すごい勢いでキーボードを打った。溢れ出る思いをどんどんどんどん文字にした。
漫画だったら、私の周りにゴオオオオッという文字が足される場面だったと思う。
 
残り1分。
最後に書きたかった、まとめの部分を書き終えた。
信じられなかった。火事場の馬鹿力って言うけど私にもあったんだな。
文字数カウンターを見ると、今までに見たこともないような字数がそこにあった。
 
一度も読み返すことなく最後まで書き進んだ。というか途中で読み返しに使える時間は無かった。提出した文章はものすごく荒削りで、触るとひっかかる「バリ」がまだあちこちに残っているような状態だった。でも、今の自分がまさに体当たりで書いたものだった。
 
文章を提出した後も、自分からシューッと湯気が上がっているんじゃないかと思うほど、体の中で色々なものがぐるぐる巡っているようだった。
結局飲むことの無かったコーヒーは、すっかりぬるくなっていた。その甘さにほっと安堵しながら飲んだ。
 
今回の受験のおかげで、走り高跳びで決して飛べないと思っていたバーを飛び越えられたような思いをした。無茶だと思っていたことができた。知らなかった自分に出会って驚いた。
 
やれば、きっとできる。
極限の状態に置かれて逃げ出したくなっても、体当たりで挑戦してみよう。
きっと知らなかった自分に出会えるはずだ。結果はどうあれ、挑戦した過程は後々の大きな自信につながるだろう。
 
合格を知らせるメールを私は信じられない思いで見つめていた。
 
 
 
 
***
 
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2022-06-09 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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