「ライティング」に背中を押され、祖父の生家を訪ねたこと、そこで感じられたこと。
*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。
人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜
記事:平田台(ライティング・ライブ福岡会場)
先月5月末、43回目の自分の誕生日を前に、私は、生まれて初めて大分県玖珠郡玖珠町にいた。
祖父と自分が一緒に映った、40年以上前の写真を片手に、祖父の生家を突撃訪問するのだ。
今年2月から参加したライティング・ライブ、初回課題提出は文章が固まりきらず、23:59を過ぎ……間に合わなかった。2回目にようやく提出できた文章は、尊敬する母方の祖父について書いたものだった。書くことで「祖父のように、あたたかで、丁寧な生き方を」と改めて想ったことだった。
書き終えた後も、1か月ほどは祖父のことを想いだす日が続いた。
そして、大切なことを、想いだしたのだった。
祖父が生前、生まれ故郷を「もう一度訪ねたい」と言っていたこと。
祖父を継いだ叔父が「九州にいるなら、いつか、じいさんの故郷を訪ねて欲しいんだ。墓参りをしてもらえないだろうか。時間のある時でいいから」と託されていたことを。
このライティング・ライブゼミが終わるまでに訪れよう、そう決めた。ゼミ終了間際になり、「いざ、行こう!」と突撃訪問を決心したのだ。
訪問の10日ほど前、叔父に電話し、訪問することを伝えると、昔取り寄せた書類をカサカサといわせながら、住所と親族の名前を改めて教えてくれた。祖父の父・私にとっての曽祖父は明治生まれで名は「兼吉 ケンキチ」、曽祖父の長兄は「嘉作 カサク」、祖父は4男にあたる。電話番号は分からないとのことで、インターネットで住所を検索すると、牛を飼っているような家が映し出された。本当にこの家でよいのだろうか? と思ったが、叔父の声の明るさに「大丈夫」と、妙な安心感があった。
1週間ほど前になり、母に「訪問してきます」とメールした。返信には「私が、訪ねたのは19才の大学1年生の夏休みでした。牛をかっていて、搾りたてのミルクを頂きました。もう53年前ですね。」と“Thank you”という可愛いスタンプが添えられていた。
「搾りたてのミルク」! あの住所で間違いない! ニンマリとしていた。
訪問当日は雨が降っていた。
博多から特急ゆふ号で2時間ほど、豊後森駅を降りて、「大隈はどちらでしょうか? 方向だけ教えていただけますか?」と訊ねると、丁寧におおまかな道順を教えてくださり、「雨も降っていますので、タクシーがよいかと思いますよ~。いつでもお呼びしますので、声をかけてくださいね~」と20代後半だろうか、男性駅員さんが優しく言ってくださった。
せっかくご提案いただいたが、祖父の生まれ育った土地である。自分の足で、歩きたかった。
折り畳み傘を広げて、駅前のひっそりとした商店街を抜けて、一級河川 玖珠川に架かる橋を渡る。スマホに映した経路案内から顔を上げて見渡すと、曇り空の下、山々のふもとに、田んぼが広がっていた。「祖父の暮らした地」そう思うと、じんわりと涙が出てきた。その地に自分の足で立っていられるという感覚が、とても心地よく、嬉しかった。
田んぼで作業する人たちを横目に、歩みを進めると、黒牛が20~30頭ほどいる家に辿り着いた。庭にたくさんの花が咲き、母屋の横に農具のようなものが納められた小屋がある。
ドキドキしながら呼び鈴を押すと、お婆さんが出てきてくれた。
見ず知らずの私の姿を目に、「何者だ!? 何事か!?」という、驚きの表情だ。
「こんにちは。突然に、すみません。私、勝見の孫の平田 台と申します。福岡から参りました。祖父が生前にこちらをもう一度訪ねたいと、継いだ叔父もいつか訪ねて欲しい。と申しておりまして……」そう言って、祖父と自分の写真を見せると、「あらぁ、こんなことがあるんじゃねぇ。長男を呼んできます。どうぞ、どうぞ、あがってください」と、急な訪問にも関わらず、迎え入れてくれた。
今は、曽祖父の長兄の孫にあたる、お婆さんの長男が継いでいるということだった。
お婆さんは、曽祖父の長兄の息子のお嫁さんで、慶子さんといった。
母みどりが50年ほど前にこちらにお世話になり、その時にいただいたミルクがとっても美味しかったと話していること、祖父が戦後暮らした地と同じ埼玉で育ち、20年ほど前の就職で福岡に来たことなど、を伝えた。
「よう来てくれたねぇ。本当に。お母さんのみどりさんのこと、よう覚えてるよ~。あなたと同じように、豊後森駅から、はるばる歩いてきて、驚いたんよ~。福岡にいるなら、もっと早くに訪ねてくれたらよかったのに~。」そう言ってくれた。
なんともあたたかい言葉に、つい涙がこぼれそうになる。
「なんにもないけど、カレー食べませんか?」と言われ、有り難くいただくことにした。
「お米がまだ炊けていなくてねぇ。恥ずかしいけど、こちらおあがりください」と、そうめんにカレーを掛けて出してくれた。人生初のそうめんカレーはとっても優しい味で、とても美味しかった。
私の食事が落ち着いたところで、曽祖父のお墓参りもすることができた。車で数分のところで、無理なお願いと思ったが、慶子さんが快く受け入れてくれ、連れて行ってくれたのだ。
「今夜は、泊まっていったらいいですよ」と言ってくれたのだが、近くの温泉を予約していることを伝えると、長男の浩史さんが宿まで送ってくれるという。
翌朝も宿まで迎えに来てくれることとなり、浩史さんの妹さん里美さんにも会えることとなった。
翌朝、慶子さん、浩史さん、里美さんと私とで、座卓を囲んで、昔の写真やらを出しながらそれぞれのこれまでのことを話した。
訪問の10日ほど前に、慶子さんと里美さんとで、「埼玉のみどりさんは元気かねぇ?」と母のことを話していたこと、訪問した日は曾祖母の月命日だったことも教えてくれた。「お婆さんが、お引き合わせくださったんじゃねぇ」と慶子さんが繰り返し言ってくれたことが、なんとも有り難かった。
福岡までも、浩史さんが車で送ってくれることとなった。
里美さんが作ったという、お米「ひとめぼれ」5㎏の袋を片手に、ご近所さんからいただいたタケノコをリュックに詰めて、福岡へと戻った。
「福岡なんて、すぐ近くだから、実家だと思って、またいつでもいらしてくださいね」
最後まで、本当にあたたかい方々だった。
祖父を通じて、あたたかな方々と繋がりをもつことができたこと、自分が今ここにいられるのは、数々の繋がりがあってこそだと感じられる、突撃訪問だった。
自分が今生きていることへの自信というか、安心感というか……多くの人に抱かれているということを、感じることができたのだ。
ライティング・ゼミで「書く」ことで祖父への想いと、記憶とが整理でき、かけがえのない経験をすることができたのだ。
先日、里美さんにいただいたお米を、母や叔父、姉弟に送らせて貰った。
かけがえのないもの、繋がりや安心感といったものは目に見えないことでもあるのだが、だからこそ大切にしていきたいと改めて思った。
そして、それを、未来に繋いでいきたい! 突撃訪問を終えて強く想うことである。
***
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