メディアグランプリ

リカちゃん人形の洋服が、子どものころの夢を叶えてくれた

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記事:種村聡子(ライティング・ライブ名古屋会場)
 
 
また、リカちゃんの洋服を買ってしまった。
 
すでにもう、わたしはお人形遊びをする年齢ではないのに。
子どもがリカちゃんで遊ぶわけでもないのに。
誰かに見せるわけでもなく、ただ、わたしだけのおもちゃ箱にそっとしまわれる、それだけのために。
 
子どもの頃、わたしはリカちゃん人形を持っていた。そう、「わたしリカちゃん」のリカちゃん人形である。小学生の時、母方の祖父に、なにかの折に買ってもらった。わたしのリカちゃんは、淡いグリーンの丈の長いドレスを着て、髪の毛はふんわりと、夢見るように広がっていた。可愛いな、こんなドレスをわたしも着たいな、そう思って、たくさんあるお人形のなかから、その子を選んだ。
 
わが家は特別裕福な家庭ではなかったので、わたしのリカちゃんはそれほど衣装持ちではなかった。お友だちのなかには、リカちゃん専用の家、「リカちゃんハウス」を持っている子や、ちいさなハンガーに吊された、素敵な洋服がぎっしり詰まっている、リカちゃん専用のクローゼットを持っている子もいた。
 
いいな、わたしのリカちゃんにも、いろいろなお洋服を着せてあげたいな、と思いながら、両親にわがままを言うこともできず、少しずつ買ってもらった洋服を大切にしながら、遊んでいた。
 
その後、わたしは成長し、すっかりお人形遊びをすることもなくなったので、あんなに大切に遊んでいたリカちゃん人形の存在を忘れ、いつのまにか、あのお人形はわが家から姿を消していた。
 
ところが、思いがけず、おとなになってから新しいリカちゃん人形を購入することになった。
 
そのリカちゃん人形は、ある有名な女性誌とのコラボ企画から生まれたもので、洋服がとても洗練されていた。どちらかと言うと、子ども向けではなく、子どもの頃リカちゃん人形で遊んでいた、大人の女性向けの商品だった。
 
わたしは、迷わずそのリカちゃん人形をわが家にお迎えした。お人形だけでなく、いくつかラインナップされている、シリーズのお洋服もあわせて。お人形と洋服を並べて鑑賞しているだけで、幸せな気分になった。すこし落ち着いてくると、欲が出てきた。もっと、わたしのリカちゃんに洋服を買ってあげたい。可愛い洋服を、たくさん集めたい。
 
調べてみると、リカちゃんの洋服は購買層にあわせて大きく2極化していて、子ども向けのわかりやすく可愛らしいシリーズと、大人の女性をターゲットにした、上質な素材と洗練されたデザインで作られたシリーズがあった。わたしは、大人向けのシリーズを、少しずつ購入していくようになっていった。
 
いつのまにか、わたしのリカちゃんは衣装持ちになった。細部の刺繍やレースのあしらいが、うっとりするほど美しい選りすぐりの洋服たち。しかも、何着もあるのだ。子どもの頃、わたしはリカちゃんの洋服をたくさん買ってもらえなくて悲しい思いをしていたけれど、いまはたくさんの洋服を持つことができている。とてもうれしくて、胸がいっぱいになった。大満足だった。
 
この気持ちを誰かに伝えたくて、こんなリカちゃんの洋服を買ったよ、と写真に撮って友だちに見せることがあった。そんなとき、友だちはこう言ったのだ。
 
「いかにも、あなたが好きそうなお洋服だよね!」
 
その言葉にわたしは、はっとした。わたしは、子どもの頃満たされなかった思い、リカちゃんの洋服をたくさん買ってもらえなかった過去の思いを満たすために、リカちゃんの洋服を買っているのではなくて、わたし自身が着たい服を、リカちゃんの洋服に落としこんで、買っているのだ、ということに気づいたのだ。
 
子どもの頃、わたしは、着たい洋服を着たいだけ買ってもらえるような環境ではなかった。不自由はしなかったけれど、なにか物足りない気分で過ごしていた。おとなになって、必要なものも、ちょっと必要でないものも、自分で買うことができるようになったけれど、立場や年齢にあわせたものしか着ることができなくなっていた。わたしは、おとなになってしまったから。
 
でも、「リカちゃん人形」を通してなら、子どもの頃、わたしが着たかった洋服を着せてあげることができる。いま、わたしが集めているリカちゃんの洋服は、リカちゃんに着せたいのではなくて、自分自身が着たかった洋服を、リカちゃん人形にわたしの子どもの頃の願望を託していたのだ、と気づいたのだ。
 
わたしのリカちゃんの洋服は、とにかく可愛い。フリルやレース、刺繍がふんだんにあしらわれ、パステルカラーで彩られていて、とても華やかだ。わたしが少女だった頃、憧れて、夢見ていたドレスたち。おとなになった、いまとなっては非現実的で着られないけれど、いまでも憧れは、なくなることはないのだ。
 
リカちゃんの洋服を探していると、子どもだった頃の自分を思い出す。そうそう、わたし、こういう服が着たかったのよね、憧れていたのよね、と。いま、おもちゃ売り場へ行くのがとても楽しいのだ。
 
きっと、わたしのリカちゃん人形は、これからも、ますます衣装持ちになると思う。いつか、リカちゃん専用のクローゼットに、溢れるほどの洋服を揃えてあげたい。そうすることで、わたしが子どもだったときの、夢を叶えているような気がするから。そう、ドレスでいっぱいのクローゼットを持つ夢である。いつか、きっと。
 
 
 
 
***
 
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2022-06-15 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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