メディアグランプリ

本当の「学び」は「疑問点」から出発する


*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜

記事:深谷百合子(ライティング・ゼミNEO)
 
 
4月から中国へ赴任したOさんへの語学研修が先週最終回を迎えた。現地で28日間の隔離期間中に短期集中して実施する研修のため、そんなに多くのことは伝えられない。私が研修で伝えたのは、中国語のはじめの一歩の部分、仕事でのコミュニケーションの取り方と仕事の進め方についてである。
 
Oさんは中国語を勉強するのは初めてだ。空港やホテルで中国人に話しかけられてもチンプンカンプン。身振り手振りで何とか乗り切り、隔離生活が始まった。
 
「今年大学に入った娘がね、第二外国語は中国語を選択しているんですよ。だから、今日はお父さん、こんなこと習ったぞなんていう会話を娘としてます」
そう楽しそうに語るOさんは、毎回の課題にも熱心に取り組んでくれていた。
 
最初はホテルの中にあるもので、「これは中国語で何て言うんだろう?」と思うものをピックアップして調べてもらったり、「隔離が終わって出社したら、会社にいる中国人スタッフとどんな話をしたいか」等を書き出してもらっていたりした。
 
買い物やタクシーに乗る時など、生活に最低限必要な単語や、仕事でよく使うと思われる単語を中心に覚えてもらい、その後は、「私は○○です」、「これは○○です」、「私は○○したい」というレベルの、簡単な表現を教えていった。けれども、かなりの詰め込み感は否めない。それに隔離期間中は、そんなに中国語と接する機会もない。Oさんは真面目に勉強してくれているけれど、私は「Oさんは消化不良になっていないだろうか」と気がかりだった。それに、いつも私から「これはこういうことです」と説明して、Oさんは「へー、そうなんだ」と受け止めるだけになっているのも気になっていた。
 
研修もあと4回を残すだけとなった5月末、Oさんは隔離生活を終え、出社するようになった。会社や出かけた先で中国人と話す機会が増え、
「あ、今自分の名前を言われているな」
ということが分かったり
「今聞こえた単語の意味が分かったぞ!」
という場面が増えてきたと言う。点と点が繋がるようになったという感じだった。
 
研修も残り2回となった日、それまでは自分からあまり質問をしてこなかったOさんが、珍しく色々と質問をしてきた。
 
「チャットできたメッセージなんですけど、翻訳機能を使って翻訳すると何か変な日本語になるんですよ。なんでこんな訳になるんでしょうか?」
「その漢字は読み方が二通りあって、それぞれ意味が違うんですよ。そのメッセージに書かれているのは調整するっていう意味ですけど、もう一つの読み方だと異動するっていう意味があるんです」
「あぁ、だからこんな訳になるんですね」
 
そう納得しながら、ノートに読み方と意味を書き留めているOさんの様子が画面越しに見えた。
 
「あと、一点っていうのがしょっちゅう出てくるんですけど、これは何ですか?」
「どんなメッセージの時に出てきました?」
「何か遅れるとかいう感じのメッセージです」
「あ、それ、今日勉強する内容です」
 
最初に「これは何だろう?」がある所からスタートしているからだろう。Oさんの食いつきがこれまでと違っていた。
「一点の一が無い時もあるみたいなんですが」
「よく気がつきましたね! 省略されることがあるんですよ」
「へー、なるほど。あ、じゃあ、もしかしてこれもそうかも」
Oさんは嬉しそうな表情を浮かべながら、次々と中国人からのメッセージを転送してくる。
 
私から説明した内容についても
「あぁ、そう言えばよく通訳さんがそう言っています。なんでそういう言い方をするんだろうと思ってました」
と謎が解ける場面もあった。
 
ずっと受身で話を聞いていた時と比べて、今のOさんは生き生きとしていた。
 
「これって何だろう?」
「これはどういう意味だろう?」
という疑問が次々と湧いてきて、
「そういうことか!」
という「心の動き」が感じられた。
 
私はそんなOさんの姿を見て、
「これは何だろう?」
「どういう意味だろう?」
「どうしたらできるようになるだろう?」
というような「疑問」から出発し
「そうか、分かった!」
「できた!」
という心の動きがあって初めて、「学んだ」と言えるのだなと実感した。受身ではなく、「もっと知りたい」という気持ちが出てきてこそ、学びは深まるものなんだということを、私はOさんの姿から感じ取っていた。そして、教える側としては、ただ情報を与えるのではなく、大事なのは、相手の頭の中にどれだけ「疑問の種」を蒔けるかだと思った。与えすぎず、むしろ相手の「知りたい欲」を刺激し、相手が本当に「知りたい!」と思った時に、どうすれば知ることができるかだけを伝えれば、それで良いのかもしれないと思った。
 
Oさんには一足先に赴任していたKさんという日本人同僚が現地にいた。Kさんも昨年研修を受けてくれた人だ。
 
「Kがね、会社の車で送ってもらって降りるとき、ミンティエンジェンって運転手に言ったんですよ。どういう意味だろうと思って聞いたら、また明日ねっていう意味ですよって教えてくれたんです。そういう挨拶もあるんですね」
「Kさんがそんな挨拶を。実は私、Kさんとの研修の時にミンティエンジェンなんて教えてないんですよ」
「え? そうなんですか!」
「Kさんはこの半年ちょっとで、自分で新しい言葉を覚えていかれたんですね」
「そうかぁ」
「半年後、Oさんもそうなってますよ!」
「そうですね!」
 
私はその話を聞いて嬉しかった。OさんにとってKさんは、少し先を歩く存在だ。そういう存在はいい目標になるし、自分の少し先の姿が見えるようで、学びのモチベーションは上がるに違いない。自分からどんどん中国人に話しかけにいっているKさんに、私は感謝の気持ちが湧いてきた。
 
研修最後の日から1週間が経ち、Oさんから音声ファイルが届いた。中国語での自己紹介の音声だ。まだ少したどたどしいけれど、「これだけは伝えたいんだ」という気持ちが伝わってくる自己紹介だった。
 
「とにかく伝える手段は色々あるから、いつまでも通訳頼みにせずに、自分からコミュニケーションをとりにいきます」
と言うOさんはきっと、中国人スタッフと上手くやっていくだろう。私はそんなOさんへの研修を通して、教える側だった自分が実は一番学ばせてもらったことに気がついた。
 
 
 
 
***
 
この記事は、天狼院書店の大人気講座・人生を変えるライティング教室「ライティング・ゼミ」を受講した方が書いたものです。ライティング・ゼミにご参加いただくと記事を投稿いただき、編集部のフィードバックが得られます。チェックをし、Web天狼院書店に掲載レベルを満たしている場合は、Web天狼院書店にアップされます。

人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜

お問い合わせ


■メールでのお問い合わせ:お問い合せフォーム

■各店舗へのお問い合わせ
*天狼院公式Facebookページでは様々な情報を配信しております。下のボックス内で「いいね!」をしていただくだけでイベント情報や記事更新の情報、Facebookページオリジナルコンテンツがご覧いただけるようになります。


■天狼院書店「東京天狼院」

〒171-0022 東京都豊島区南池袋3-24-16 2F
TEL:03-6914-3618/FAX:03-6914-0168
営業時間:
平日 12:00〜22:00/土日祝 10:00〜22:00
*定休日:木曜日(イベント時臨時営業)


■天狼院書店「福岡天狼院」

〒810-0021 福岡県福岡市中央区今泉1-9-12 ハイツ三笠2階
TEL:092-518-7435/FAX:092-518-4149
営業時間:
平日 12:00〜22:00/土日祝 10:00〜22:00


■天狼院書店「京都天狼院」

〒605-0805 京都府京都市東山区博多町112-5
TEL:075-708-3930/FAX:075-708-3931
営業時間:10:00〜22:00


■天狼院書店「Esola池袋店 STYLE for Biz」

〒171-0021 東京都豊島区西池袋1-12-1 Esola池袋2F
営業時間:10:30〜21:30
TEL:03-6914-0167/FAX:03-6914-0168


■天狼院書店「プレイアトレ土浦店」

〒300-0035 茨城県土浦市有明町1-30 プレイアトレ土浦2F
営業時間:9:00~22:00
TEL:029-897-3325



2022-06-16 | Posted in メディアグランプリ, 記事

関連記事