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理由もなくさみしさに駆られたときにいくべき「夢の国」~宝塚歌劇への誘い〰


*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜

記事:こしわき まよか(ライティング・ライブ東京会場)
 
 
「毎日おつかれさんやなぁ。 しんどいんやったら……行ってきたらええねん」と、仕事に子育てに髪振り乱し、こと自分自身のお手入れなど忘れていたころ、久しぶりの里帰りでぐうたらしていた私に母が言った。 「行ってきたら」の目的語が抜けているがニヤリと笑いながら指さす方向が温泉でもエステでもなく、ほかでもない、徒歩15分ほどのところにある、大劇場であることは阿吽の呼吸でわかる。 しばらく遠ざかっていた場所だが、「おつかれさん」という言葉がよほど沁みたらしい、「あ。そやね。行ってくるわ」と自然に言葉が出た。 こころとからだが何かエネルギーチャージが必要だとアラートを出していたのかもしれない。
 
 
例えばちゃきちゃきの江戸っ子が子供のころから歌舞伎座で大向こうを張っていたり(イメージです)、コテコテの大阪のこどもはなんば花月で漫才の英才教育受けてたり(めっちゃイメージです)するように、宝塚の住民は当たり前に歌劇を観てそだってきた(たぶん)。 宝塚といえばなにやら聞こえが良いらしいが、なにせ、歌劇のほかには娯楽がない、昭和の終わりは人口20万人にも満たなかった小さないなかの町である。 小林一三翁がつくった阪急電鉄と歌劇は市民の誇りだ。
 
1970年代、マンガ「ベルサイユのばら」が空前のブームとなった。 その「ベルばら」が宝塚歌劇で上演されるというので母に連れられ行ったのが私のヅカデビューだった。 まだ私は小学生になるかならないかで、ベルばらのマンガは知っていたが、読んだことはなく、先に歌劇を観てしまったかっこうである。
なので私にとってのベルばらは、あくまで、汀夏子のオスカルであり、麻美れいのアンドレなのだ。 マンガでは主役のマリーアントワネットだが、宝塚でトップスターは男役であるため、娘役のマリーアントワネットよりもオスカルを誰が演じるのか、のほうが重要となる。
 
宝塚の男役はマンガでいうなれば「バラを背負った生徒会長」そのもの。 妄想を抱きやすい女性は生徒会長のニヒルな流し目に悶絶する。 歌舞伎の女形がこの逆バージョンになるが、女形は男が描く理想の女の像、宝塚は女ゴコロがわかる女性が演じる男性だからこそ、それぞれ魅力的な異性を演じ分けることができるのだ。 アンドレやオスカルにいたってはもう、宝塚の男役にしか演じられないんじゃないかと今でもひそかに思っている。
 
 
今の時代、あまりに毎日が疾風のごとく去ってゆき、何か大切なものを……追いかけてもつかみきれないような、そして、肉体だけが風にさらわれていきココロを置き去りにしてしまっているような、それでいて焦りという気持ちだけが肉体から離れずからめとられているような、そんな気になったことはないだろうか。
 
そんなときにこそぜひ、男も女も関係なく、宝塚歌劇を観ることを全力でおすすめしたい。 「夢の国」と代名詞のつく有名な場所はほかにもある。 あちらもまさに魔法がかかったように、テンションが爆上がり楽しさ充足感ははんぱない。 が、対して労力と疲労も比例し、下手すりゃ諭吉様だって何人か飛んでいく。
 
宝塚歌劇も当然良い座席はそれなりの金額がするが、例えリーズナブルな後列や立ち見席で、表情までは見えなかったとしても、その背筋の伸びた凛とした佇まい、指先まで神経の行き届いた立ち居振る舞いはちゃんと伝わるし、きらびやかな衣装に身をまとったタカラジェンヌたちの美しさと迫力にまず圧倒されるだろう。 そこで「お金出して来て損はなかった」くらいには思うはずだ。 舞台を彩る大道具に小道具の華やかかつこまやかな演出。 また、宝塚はいつだってオリジナル楽曲にオーケストラ生演奏だ。 これも大きなポイント。
 
第1部のお芝居はストーリー展開が早いのであらかじめどのようなお話なのかをざっくりと勉強していったほうが追いかけやすいかもしれない。 ま、それもめんどくさいくらい疲れていたら無理にお話を追わずぼーっと眺めていてもだいじょうぶ。 ただ演じるタカラジェンヌたちの鍛え抜かれた歌と踊りを「すごいなー」と観ていればよい。 たったそれだけでも終わりには興奮で席も立てないかもしれない。
 
お芝居の後、30分の休憩時間で少し興奮と熱気冷まして2部のレビューに備えるべし。 レビューには、ストーリー性はなく、ただただキラッキラ。 むしろこちらを楽しみにしているファンも多い。 「やっ」というかけごえで始まる見事なまでにそろったラインダンス、それにあの大階段だ。 あの狭い階段で男役だけがずらりと燕尾服で一糸乱れず踊るシーンはもう圧巻の気絶もの。 男性の踊りとはまた違ったしなやかさがある。 そしてついに1部で主役を演じた男役が大きすぎる羽を背負って階段の上に登場しピンスポットがあたる。 悠然と階段を降りてくるのを両脇で娘役たちがうっとりと待ち迎える。 同時に客席のあなたも思わず頬を紅潮させ手を差し伸べたくなるはずだ。
 
興奮のうちに3時間の「祭り」(そう、ヅカはもはや「祭り」なのだ。) が過ぎたころ、きっと昨日までどことなく感じていた虚無感が、現実なのか虚構の世界を生きているのかとわからなくなるような浮遊感へかわっていることだろう。
 
それから主役だけでなくぜひ舞台の端も見てほしい。 名前が知られていない組子でもみんな「明日は私がトップになるんだ」という気迫が表情に、指の先に、あふれている。 もうここまでいくと理詰めで明日のことなんて考えていられない。 感じるままに生きればいいんだ、という妙な悟りまで生まれるのだ。
 
そして私はようやく気づいた。 母が疲労困憊の私にここに来ることを勧めた理由を。 母もまた、その昔ここで憂さを晴らし、夢を見たのだと。
久しぶりに観劇し、変わりなく「夢とロマン」を与えてくれるタカラヅカに心をふるわせ、自分の美意識の原点がココにあるのだ、ということを再認識した。
「清く正しく美しく」
人生に一度は観てほしい。
 
 
 
 
***
 
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2022-06-16 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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