メディアグランプリ

料理の絶望から救ってくれる人からもらったエネルギー

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*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜

記事:野村紀美子(ライティング・ゼミ平日コース)
 
 
最近始めた習いごとは、自宅でWEB受講も可能だが、講座を運営する書店に併設されたカフェでも受けることができる。ある日、カフェで受けていた講座が終わったとき、1枚のチラシをスタッフが持ってきた。料理に関する本の出版記念イベントのお知らせだ。
最近すっかり料理をしなくなっていた私は、あまり興味がわかなかった。たいして遠くはないが、その日も来るのが億劫に感じて、チラリと見ただけで遠慮する旨を伝えた。
数日後、そのイベントのお知らせがLINEの一斉送信メッセージでも届いた。一応URLをタップしてみる。「やる気ゼロからの料理術!試食あり」そんなこと書いてあったけ? と思いながら料理の写真やおすすめ文が続いていく画面を、ざっと見なながらスクロールしていく。1枚の画像に、私の手が止まった。著者の本多理恵子さんが、エプロンをつけてこちらに微笑みかけている。瞬時に、「この人に会ってみたい」と思った。チラシを見たときは気づかなかったが、歳のころは私と同世代に見える。プロフィールによると、資格も経験ないのに鎌倉でカフェと料理教室を始めたという。いったいどんなエネルギーの持ち主なのか知りたくなった。鎌倉なら、その「カフェ&料理教室」に行く機会も持てるだろう。「試食」につられたのは否めないが、急いで申し込んだ。
イベント当日、江ノ島の近くにあるカフェには、ほぼ満員の10数人が集まって席に着いていた。
出版記念の本のタイトルは『ご飯作りの絶望に寄り添うレシピ〜やる気0%からの料理術』。
「絶望、やる気0%」。このキーワードが、私をここまで連れてきた。働きながら子どもを3人育てた私は、特別上手ではないが、かつては、そこそこ人に出しても恥ずかしくない料理を出すことができた、と思っている。料理はどちらかというと好きなほうで、分厚い料理本のレシピに次々挑戦するのを楽しみ、料理雑誌も頻繁に購読。長い年月をかけてレパートリーは自然に増えていった。お弁当だって10年以上作り続けた。外食も滅多にせず、手料理にこだわってきた。
子どもが独立し食べてくれる人がいなくなった今は、めったに料理をしない。毎日少量の料理をするのが面倒で、たまに調理したものを冷凍ストックして、すこしずつ解凍して食べる。かつては絶対買わないと決めていた惣菜や弁当ですませたり、作っても鍋やまな板を使わないですむメニューばかりだ。年齢を考えて、栄養バランスには気を使っているが、空腹感を覚えず、食べ忘れるなんてこともある。
一人分でも楽しく料理ができて、美味しく食べるヒントを得られたら。そんな思いで書籍も購入し席に着いた。
 
 
本多さんは、写真の印象よりもずっと若々しかった。ちょっと小柄でかわいい雰囲気だが、P Cを巧みに操り、パワーポイントで講義を進めていく様子は、凛々しいばかりだ。コロナで料理人口が増える傾向や、料理の流行などを、エビデンスを交えて紹介してくれた。レシピだけでない情報の提示は、なるほど納得することも多く、料理を多角的に見ることに新鮮さを感じた。
小柄な体のどこから出てくるのかハリのある声。聞き取りやすく、話し方にも抑揚があり、身振り手振りを大きく使う。
「ぐるっとまわしてかけるだけ!」「ザザーっと混ぜてレンジでチン」
とわかりやすい言葉とアクションで作り方を説明してくれる。いかにも簡単そうで、すぐにでも試してみたくなるものばかりだ。
主婦ならではのネタや悩みもジョークを交えて、テンポよく講義を盛り上げていく。
作る過程での失敗、上達できない焦り、写真のように仕上がらない苛立ち、避けられない時間と労力、そんな絶望感をくったくなく語る。
絶望に打ちひしがれたときの孤独感、料理でなくとも感じたことがある。
本多さんは言う。「キッチンには自分しかいないけど、日本中のキッチンに同志がいるのだから決して孤独ではない」と。そう思えば、立ち直れる。
「上手く作ろうとしなくていい。本の通りにできあがらなくていい」とも言ってくれる。
よくある料理本に出てくるお弁当の写真。「絶対、蓋が閉まらないでしょ」と私もいつも思っていた。「上手くできなくて心が折れて諦めてしまう」なんてこと、料理でなくても思い当たることがたくさんある。
無理をしなくていい、だけど美味しく食べた方がみんな幸せだよね、と言うようなことを熱く語ってくれる。悩んだときは、原点に戻ってみるってことか。
手間をかけずに美味しく、楽をする方法を惜しげもなく伝授してくれる。困ったときに自分を助けてくれることをストックできているって、心が軽くなるものだ。
次々とお助けレシピが紹介される。たくさんの料理画像を見せられていくうちに、空腹感が急に襲ってきた。
そんなタイミングを見計らったかのように、試食のプレートが運ばれてきた。たった今プロジェクターの画像で見た料理が、実物となって登場してくる演出は、まるで料理番組の一コマに自分がいるような気分だ。
「いただきます」と試食タイムがスタート。一同黙々と食べ続ける。そんな沈黙の気まずさを消すように、本多さんが、再度一品ずつ丁寧に説明してくれる。
「美味しいですよね」と誰にとはなしに呟いてみる。食レポって難しいな、と思いながら私もあっという間に完食。もちろん想像以上に美味しかったのは言うまでもない。
試食の後は、SNSにアップするために集合写真を撮影。会場は、本多さんに著書にサインを求めたり、一緒に撮影してもらったりと大盛況だった。
今回の著書には、その日の紹介された以外にもふんだんに料理のレシピやコツが掲載されている。料理の絶望感を救ってくれるトークも数多く書かれていて、レシピ探しだけでなく、料理に行き詰まりを感じたときに開きたい内容だ。食べるという行為は生物学的にも人を元気にしてくれるが、料理以外に悩んだときにもぜひ手に取りたいと思う。料理という媒体を介して生きるヒントも満載されているように感じる。
「もっと料理を楽しんでほしい、料理の悩みを解消したい」という思いから料理サロンを開設し、本も出版されたそうだ。料理の悩みの解決は人生の悩みの解決にも似ている、解決すると人生も明るくなる、そんなエールを送り続けてくれているのだ。
シンプルに「楽しんでほしい、悩みを解決したい」というエネルギーを持っていた本多さんだった。私が抱いていた絶望感は、料理への孤独とやりがいのなさだけではなかったのかもしれない。そんなことにも気づくことができたイベントだった。
会場を出ると、初夏の日差しが眩しい。目の前の江ノ島水族館には家族連れが列をなしていた。我が家にもあんなころがあったな、と思い出す。手土産にもらったカレーパウダーとスパイスで何を作ろうか、自分が食べる食事にワクワクしながらメニューを考えるのは久しぶりだ、と思いながら帰路についた。
 
 
 
 
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2022-06-16 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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