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産後うつ? いえ、ちょっとおかしかっただけ


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記事:鈴木 千弥(ライティング・ゼミ4月コース)
 
 
ここで死んだら元も子もないなあ……
 
4年ほど前、私は初めての出産を控えて考えていた。
産後にうつ状態になり、自殺した方がいることをニュースで知ったため、どうすればそのような状態にならないですむだろうか、と。
 
調べてみると、産後うつ病はおよそ10%の罹患率があり、気分の落ち込みや楽しみの喪失、自責感や自己評価の低下などを訴え、産後3か月以内に発症することが多いとのことだった。
原因として、
1, 出産に伴うホルモンの急激な変化
2, 慢性的な睡眠不足、疲労、ストレス
3, パートナーからのサポート不足など、育児環境要因による影響
4, うつ病の既往
 
など色々なものがあるようだ。
 
私は原因4の「うつ病の既往」がなかったので、残りの3つに対応していくことにした。
とはいえ、素人の初産の妊婦にできることはあまりない。産んだ経験がないので、どのような状態に自分がなるのか、全く想像できなかったのだ。
そのため、以下の通りになった。
 
【原因1への対策:ホルモンの変化について】
ホルモンを自分で調整できるものではないというのは分かっていた。これはもう、自分が「ヤバい」と感じたら周囲に言うしかないと感じた。あとは気分が落ち込んだら、自分が楽しいと思えることをしようと考えた。
 
でも楽しいことって?
お笑いを見て笑う? 好きなドラマを見る? 時代小説を読む? あれ、何だっけ?
 
私は愕然とした。
実は今回の出産は、長く不妊治療を続けてやっと授かった子だったため、妊娠するまでの私の趣味は、不妊治療の経験談などのWeb検索だった。そして安定期に入った後は、出産・子育て関連の情報収集に移行していた。
そう、趣味は「妊娠・出産・子育て情報の検索」になっていたのだ!
これはマズい。私は妊娠出産子育て関連の情報以外にも目を向けるよう、努力した。
出産に関係のないドラマや、昔好きだった当時の宝塚の放映を観たり、小説を読んだり。ただどうしても出産前なので、子育て関連を完全には排除できなかったが、出産・子育て以外に目を向ける、ということはその時の私にとっては良いことだったと思う。
 
【原因2への対策:慢性的な睡眠不足、疲労について】
これもどのような状態になるのか経験していないので、あまり対策が立てられなかった。眠い時にはどこでも寝てしまう体質なので、これは心配しなくていいかと軽く考えていたからだ。
 
【原因3への対策:パートナーからのサポート不足など、育児環境要因による影響】
これは対策が立てられそうだ。ちょうど民放のドラマで、産婦人科医が主人公のものが放映されていた。出産を控える妊婦や出産の状況や家族との関わりを描いている。漫画が原作で、事前に読んでいた私は「夫の教育にピッタリの内容」だと感じていた。そしてもちろん産後うつがメインテーマの放送回も設けられていた。
私は夫にドラマを見せた。バリバリのキャリアウーマンの妊婦(ギリギリまで仕事をこなし、復帰のための保育園も既に決めている)が、出産後に子供の病気や、夫の無理解な態度、不用意な言葉によって、どんどん心身のバランスを崩していく様子が克明に描かれていた。なお特に彼女を追い詰めたのは、夫役の「子育ては母親がやるものだけれど、父親である自分も「手伝うよ」という言葉と態度」だった。
見終わった後、夫婦二人の間に沈黙が続いた……
そして私は一言、夫に言った。
「じゃあ、よろしくね」
夫は顔をひきつらせ、目を逸らした……
 
その後、私は出産し、産後期間が開始した。確かに自分に構っている時間はなかった。自分を生かすよりも、子供をどうしたら「死なさないか」へ意識が行っていたからだ。
何故かというと、病院から脅された…いや「脅されたように思えた」からだ。
「生まれたばかりの赤ちゃんは、たまに息をするのを忘れるので、赤ちゃんはこの専用ベッドに寝かせてください。呼吸が止まるとエラー音が鳴りますので」
「3時間に1回は授乳してくださいね、赤ちゃんが脱水症状になりますので」
 
えーっ! 何それ怖い……
 
つらい不妊治療の末に、せっかく無事に出産まで漕ぎつけたのだ、死なせる訳にはいかない。
きちんと専用ベッドに子供を寝かせ、寝ているときは呼吸をチェック。
3時間に1回鳴るように携帯のアラームを付け、授乳する。気分は遭難した登山家を助ける救助隊だ。
「おい、起きろ、飲まないと死ぬぞ!」
……え、ちょっとおかしい?
 
無事に出産した病院を退院した後は、実家に1週間ほど滞在した。そこでも最初は呼吸が不安になり、寝ている子供をじっと観察して呼吸を確かめ、3時間に1回の授乳は続けた。
同時に、子供が何故か泣き止まない時間帯というものがやって来た。おお、これが噂の「寝ずに泣き止まない赤ちゃん」か。
ちょっとゆすってあやしてみたが、泣き止まない。授乳もしたし、オムツも替えたのになあ。
気分が滅入りそうだ……子供をあやしながら、何か自分の気分を上げる方法はないか? と考えた。そして導き出された答えは、
 
宝塚のショーの主題歌を歌う
 
だった。しかも私が宝塚にハマっていた中学生頃の公演の主題歌で、数十年前のもの。
宝塚歌劇団では、ミュージカルとショーの二本立ての公演を行うが、そのショーの方では大抵、覚えやすく明るいテーマ曲が使われていることが多い。そのため思い出されて来たのだろうか。
取り敢えず、子供を揺らしながら、小声で歌う。
泣き止まない。
少しだけ大きく揺らし、声も大きくして歌う。
泣き止まない。
また少しだけ大きくして……
無限ループだ。そしてちょっと気分がのってきた。いいぞ!
しかし異常を感じた親に、子供を揺らしすぎじゃないか、と止められて気づいた。
……え、ちょっとおかしい?
 
この無限ループは、実家から夫婦の家に移動後も続いた。
 
子供が4歳になった今、冗談で当時歌っていた歌を歌ったところ、夫から、
「やめてくれ……思い出す」
とストップがかかった。当時、夫に歌うことを止められたことはなかったのだが、もしかして見守っていてくれたのかな? でも今止められたということは、
……え、ちょっとおかしかった?
 
産後の状況は人それぞれで、対策もそれによって異なるが、事前に対策を少し考えておくことが大事なのではないだろうか。
特に産褥期と言われる産後6~8週後までの期間は、傷ついた子宮や消耗した体力を回復する時期のため、無理せず過ごす必要がある。パートナーや実家の補助が難しい方は、産後ケアをする専用の施設への滞在や訪問ケアを検討してはどうかと思う。また地域によっては、料金を補助してくれる制度もある。
またパートナーの支えも大事だ。私個人の経験では、うつまではいかないが、ちょっとおかしいくらいで留まっていられた理由として、自分がどのような状態に陥る可能性があるのか、を知ってもらったこと、そしてパートナーに一緒に子育てをする意識を持ってもらったというのが大きかった。
パートナーへの情報提供と、一緒に子育てするという意識付けの準備を、これから出産を迎える方へおすすめしたい。またパートナーが出産する予定の方は、是非、出産と子育てを自分も一緒に行う、という意識を持ってもらいたいと切に願っている。
 
 
 
 
***
 
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