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「お客様は神様です」の正しい意味が、痛いほど分かった私は、心に誓った。

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*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜

記事:森本裕子(ライティング・ライブ東京会場)
 
 
失敗を恐れずに挑戦しよう!
耳にたこができる位色んな所で言われるこの言葉、私は賛成である。そして挑戦をした私は、もう二度としないと心に誓った失敗がある。
 
私が開発した新商品、おしゃべりして言葉が成長していく人形は、発売後好調に売れ始めていた。開発期間は苦節2年以上。やっと発売できて軌道に乗り始めた矢先、
 
「もしもし、子どもが遊んでるお人形が、急にしゃべらなくなっちゃったんですけどー」
こうした不具合についての問い合わせ電話が、毎日かかってくる様になっていた。
 
「どうしたんだろう……だいじょうぶかな?」
言いようのない不安が募る。
 
残念ながら不安は消える事なく、日に日に増えていく不具合についての電話。結局おしゃべり人形は、販売を一旦中止することになった。
 
まずは次々と起きている、成長途中でしゃべらなくなってしまう不具合の原因の特定。もう1つは購入したお客様への対応。原因の特定さえできれば、すぐに対応に移れるのだが、電池の問題とか、中の配線が切れているとか、そういう分かりやすい理由ではなさそうだ。引き続き原因を探る中、問い合わせ電話は増えていく。
 
さらには、人形の不具合だけでなく、子ども達の様子について話が出てきていた。
ある日急にしゃべらなくなってしまったおしゃべり人形を、子どもがとても心配している。というのだ。
 
これは、なんとかしないと。
 
そして苦肉の策ではあるが、人形のための病院をつくり、子ども達には「お人形は元気になるために、少しの間入院するからね」とママやパパから説明してもらって、会社で預かる事になった。
入院に協力してくれた子には、手作りの診察券と「もう少し待っててね」というメッセージカードを返送し、心配している子ども達の不安な気持ちをなんとか和らげたい一心で日々対応した。
 
不具合の原因は中々特定されず、現状を会社の会議で報告しているその時だった。会社の創業者である社長が、私に言葉をかけてきた。
 
「君の開発のこだわりが強すぎて、人形の機能が複雑になっているから、こんな事が起きているんじゃないのか?」
 
「……」
 
返す言葉がない。とはこういう時に使う言葉なんだな。その時は本当に何の感情もない状態だった。
 
会議が終わった後も、一晩寝ても週が変わっても、社長の一言は何度も何度も私の頭をよぎる。何だったら時が経った今でも。社長の名誉のために一応書いておくと、責め立てられたとか、怒りをあらわにとか、そんな様子は一切なく淡々と言われた。
 
日が経つにつれ、段々と冷静になり頭が整理されてきた。確かに私の開発へのこだわりは相当強かったと思う。
今までになかった新しい人形を開発したい。
そして世の中にヒット商品を出したい。
そういう気持ちが確かにあり、目新しい遊びを沢山搭載していった。その結果、機能が複雑になっていった、というのもその通りだった。
 
「ただ、楽しんでほしかっただけなのに……」
 
最初は、遊んでくれる子ども達のためと思って進めてきた事が、徐々に、目新しくしたい、面白くしたい、ヒット商品をつくりたいという、商品開発者としての欲が、混ざっていたのではないか?
 
私は、大事な優先順序を間違えてしまったのかもしれない。
その事に気付くと、恥ずかしく、情けなく、申し訳ない気持ちになった。
 
その後、不具合の原因が分かり、再びおしゃべりし始めた人形たちは、退院を心待ちにしている子ども達の元へ帰っていった。
 
「治してくれてありがとう」
 
子ども達が、覚えたてのひらがなで一生懸命書いて送ってくれた手紙を読み、少しホッとした。
ただそれ以上に、嬉しそうに書かれた手紙の影には、かわいがっているお人形が急におしゃべりしなくなってしまい、小さい心を不安でいっぱいにして待っていてくれたんだと想像すると、心から謝りたいと思った。
 
……この失敗は、もう15年以上前に起きた事なのだが、何年経っても私の中で風化する事はない。
 
「お客様は神様です」という言葉がある。
この言葉、お客様のどんな要望にも応える、という間違った意味で使われる事が多いのだが、正しくは、雑念を払いまっさらな心で、お客様に向き合うという、自分自身の心構えを表した言葉である。
 
そう、私が向き合うお客様は、ヒット商品を欲している業界でもお店でもなく、一人一人の子ども達である。
 
大人が考える面白さを押し付けるよりも、子どもの心を不安にさせない、傷つけない事の方がよっぽど大事。
子どもの心と同じ位、私もまっさらな心で商品開発に向き合い、同じ失敗は二度としないようにしよう。
 
そう心に誓った。
 
 
 
 
***
 
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