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人間には無理な100人で10秒


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人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜

記事:島田 弘(ライティング・ゼミNEO)
 
 
「イチ、ニ、サン、シ、ゴ、ロク、シチ、ハチ、キュー、イチ、ニ、サン、シ、ゴ、ロク……」
 
円陣を組んだ100名が、順番に数字を言っていく。まるで点呼をとっているかのよう。
 
一体何が始まるんだろう。チーム分けでもするのだろうか?
私にとっては8割くらいの人が初めてお会いする方。どんな人と一緒のチームになるのかな?
 
そんなことを考えていた。
 
すると、この点呼自体が研修プログラムの1つだということがわかった。練習を1回やった後、「できるだけ速く」という指示のもと、本番が始まった。
 
記録は40秒位だったと思う。まぁまぁ早いな、と感じた。隣の人の声を聞いて、自分の声が発せられるまでに速くても0.5秒はかかると予想していたので、タイムは50秒くらいだと思っていたのだ。
 
「10秒を切りましょう」
 
そんな無謀な目標が聞こえた。
 
「言い間違えに決まっている。だって絶対に無理なんだから」
 
「明後日の朝、10秒を切りましょう」
 
再度、目標の確認がなされた。言い間違えではなかった。
 
研修中、私たちはずっとこれをやっているわけではなく、朝の時間20分位を使ってこの課題に全員で取り組む。1日目はこれで終わってしまったので、与えられた時間は明日と明後日の20分くらいずつ。
 
「10秒を切るなんて無理だ、絶対に」
 
オリンピックの100メートル走。スタート地点で「よーい、パンッ!」とピストルが鳴って、その音を聞いてから選手がスタートの動作を始めるまでの時間が0.1秒以上と言われている。世界トップレベルの選手がである。
 
ちなみに、0.1秒よりも早くスタートした選手は、フライングとみなされ、失格となる。つまり、2022年における人間の反応スピードの最速は0.1秒と考えられている。
 
仮に、集まった100人が、世界トップレベルの反応スピードを持っていたとして、全員が0.1秒で反応したと仮定して10秒かかるわけだ。だから10秒は切れない。
ちなみに、人間の平均的な反応時間は0.2秒くらいと言われている。だから、隣の人が「二」と言ったのを聞いて、自分が「サン」の「サ」と言うまでに、0.2秒くらいかかる。
 
0.2秒× 100人= 20秒
 
つまり、20秒を切ることだって、不可能に近い数字なのだ。
 
2日目に出した記録は25秒。
私たちの出した最速記録は理論上の限界値まであと5秒。良くやっていると思った。
 
と言っても、目標タイムは10秒である。
 
「ありえない」、「無謀」、そんな言葉ばかりが浮かんだ。
「10秒は絶対に無理だよ」。
 
皆が集まってきた。研修最終日の朝だ。
 
一度、練習をした。
 
直後に、「速くなると思われるアイディアを出しましょう」という指示のもと、
周りにいる人たちと意見を出し合った。
 
私は、聞いてから言葉にする、というプロセスでタイムロスが起きていると感じていたので、聞く前に自分の数字が言えるようなアイディアを考えた。
例えば、手をつないでいるとして、自分が数字を言うときに次の人の手を、握るなど。
 
いろいろなアイディアが出た。
たとえば、
・2人前の人に注目しよう
・「イッ、ニ、サ、シ、ゴ、ロッ、シ、ハ、キュ」のように数字を短く言ってみよう、など。
 
そして、本番でいくつかのアイディアを試した。
すると、あっさりと20秒を切り、ついに10秒台に突入した。
 
理論上の最速タイムより速い。何が起きているんだ?
 
できないと決めつけていた私。
理論的に考えたら絶対無理なんだ。それは間違いない。
 
しかし、実際に目の前で起こり、自分も参加していて、数字として突きつけられると、何かが起きるんじゃないかという期待が湧き出てきた。
 
科学で説明できない、とんでもないことが起こるかもしれない。
 
今日3回目のチャレンジ。
これが最後の1回。
 
「ロッ(6)」と言い終わった時には、「イッ(1)」と言う音が耳に入った。
とにかく速い。何なんだこれは。理屈じゃない。目の前で本当に起こっている。
 
タイムは11秒
 
一昨日は40秒かかっていたのに。
 
会場は異様な盛り上がりに包まれていた。なんとなくだが、全員がゾーンに入っているような、そんな感じだった。
ここでやめるわけにはいかない。
 
本当に、本当に最後の1回。
 
「イッ、ニ、サ、シ、ゴ、ロッ、シ、ハ、キュ、イッ、ニ、サ、シ……」
 
1つのミスもなく、今までで最高にスムーズな流れで一周した。
 
声には出していないけれど、全員が確信していたと思う。
 
9.39
 
会場のあちこちで、歓声が上がった。
 
「限界を決めているのは自分」
「科学で説明できないことは山ほどある」
「諦めないと決める」
「やり方、アイデアは無限にある」
 
いろんな言葉が浮かんできた。
 
知っていたし、分かっていた。
何度も聞いてきたし、何度も言ってきた。
 
このときの私は、理論的に人間には無理ということを達成し、そのプロセスを体験することができた。
 
前人未踏の世界新記録を出した人って、こんな気持ちなのかもしれないな。
 
 
 
 
***
 
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