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正論が正しいとは限らない理由


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人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜

記事:宮村柚衣(ライティング・ゼミNEO)
 
 
私は、昔から正義感の強い女だった。
 
幼稚園の頃は、そんな性格が疎まれ、みんなで「花いちもんめ」をすれば必ず最後まで残された。
 
「花いちもんめ」は、こども達は2組に分かれて、メンバーの取り合いをする遊びだ。
 
「か〜って嬉しい、花いちもんめ♪」
「まけ〜って悔しい、花いちもんめ♪」
 
歌っている組は前に進み、相手の組はあとずさりをする。そして、「花いちもんめ」の「め」の部分で片足を蹴り上げる。
 
「あの子が欲しい♪」
「あの子じゃ、判らん♪」
「相談しよう♪」
「そうしよう♪」
 
それぞれの組の子供達は頭を突き合わせ、小さな声で相談する。
 
「どうする? ○○ちゃんにする?」
「えー、やだよ。☓☓くんがいい!」
「うーん。どうする?」
「どうしよう?」
コソコソコソ……。コソコソコソ……。
 
選ばれるのはいつも、可愛かったり、足が早かったり、性格の良い子だ。
 
「き〜まったっ!」
「○○ちゃんが欲しい♪」
「△△ちゃんが欲しい♪」
 
じゃん、けん、ポンッ!
 
勝った方が指名した子を奪い取り、片方の組からメンバーがいなくなれば終了となるのだが、決まって最後の1人は私だった。
 
きっと、可愛くも無く運動も出来ないくせに、歯に衣着せぬ物言いで人に指図する姿が疎まれたのだろう。今思えば、なんと残酷な遊びだろう。
 
小学校に入る頃には、周りの子供達が幼稚に見えてしょうがなかったので本ばかり読んでいた。
 
小学生が読まないような分厚いハードカバーの長編小説を、休み時間の度に黙々と読んでいた。
 
ある昼休み、トイレから自分の席に戻ろうとするとクラスメイト達が私の机を囲んでいたことを覚えている。
 
「うわっ、あいつ、こんな本読んでるよ……」
「やだー」
「何考えてるんやろな……」
 
私の机の上に置かれた分厚い本を取り囲みなが、クラスメイト達は囁いていた。
 
「何してるの? どけて」
 
私は何も悪いことをしていなかったので、堂々とクラスメイト達をかき分け自席に座った。クラスメイトたちは蜘蛛の子を散らすように散っていった。
 
高学年になると持ち回りのイジメの対象になった。
 
持ち回りイジメとは、女子特有のターゲットが順番に変わっていくカジュアル目のイジメだ。
 
「あの子、最近、調子乗ってない?」
「うん。私もそう思う」
「なんかヤダよね」
 
何か特別な事があった訳ではないが、女子特有の連帯感が産まれ無視の連鎖が始まっていくのである。
 
暫くすれば収まるのだから黙っていれば良い様なものなのに、私はクラスメイトの女子達を全員理科室に呼び出し問い詰めた。
 
「なんなん? 文句があんねんやったら直接言えばいいやん。喋りたくないなら、喋りたくないって」
 
放課後の薄暗い理科室で、クラスの女子全員と対峙した私は言い放った。
 
「そういう所が嫌やねん」
 
当時のリーダー格の女子が言った。
 
「じゃあ、もう、私とは喋らへんかったらええやん。私も喋りかけへんし」
 
そこから、クラスの女子全員からの徹底的な無視が始まった。が、私は折れなかった。
 
しかしながら、そこは小学生。学校では気丈に振る舞ってはいたが、家では食事は喉を通らず泣き暮らす日々が3日続いた。
 
中学生、高校生、大学生、社会人と成長すればマシになりそうなものなのに、私の正義感は変わらなかった。
 
仲が良いと思っている友達や職場関係の人にズケズケと物を言っては、陰で悪口を言われるような生活を繰り返していた。
 
その度に、私は正しい事を言っているのに。何でわかってくれないんだろう? と、憤慨した。
 
相手の事を思って言っているのに。
正しい事を言っているのに。
 
何がアカンのだ? そう思っていた。
 
そして、そんなハッキリ、キッパリ、クッキリと物を言う性格がいいという奇特な男性と結婚し、私の性格は矯正されることなく壮年期迎えた。
 
そんなある日、夫は言ったのだ。
 
「正論が正しいとは限らないからなぁ」と。
 
酒を飲み、仕事の愚痴を言う傍ら、いつものようにいかに私が正しいかを熱弁している最中だったように思う。
 
ん???
 
正論が正しくないと? 正しい理論だからこそ、正論と書くのではないのか?
 
「だって、正論が正しいのなら戦争なんて起きてないでしょ」
 
ふむ。それは……その通り……かな?
 
「どうゆうこと?」
 
「正論は正しいけど、正論を振りかざすことが正しいとは限らないんだよ」
 
……ほう。
 
「だって、夫が浮気をしていて、借金まみれで暴力まで振るわれているけど、別れられない女性に別れろって、言っても意味無いでしょ。そんなの、当の本人だって別れた方がいい事くらい知ってんねん」
 
「えっ、そうなん?」
 
「そうやで。別れたいけれど別れられないから苦しいんやん。そんな人に別れなさいって正論言ったってしょうがないやろ? だから、正論って正しいけど役に立たへんねん」
 
がぁーーーーーん!!!!! 知らんかったーっ!
 
私は相談してくる人って正しい答えが判んないから相談してくるのだと思っていた……だから、正しい事を永遠と説いていたのに……。
 
「みんな、正論が何かなんてことは知ってるって事?」
 
「せやで、みんな正論くらい知ってんねん。でも、正論通り出来ないから苦しんでんねん」
 
なるほどね。だから、陰口言われ続けているのか、私。
 
理論武装の鎧は全て剥ぎ取られ、私の防御力は今、0に等しい。これ以上の攻撃は死に値するだろう。しかし、ビールを飲んでいる夫の口は止まらない。
 
「正論なんて、愚策中の愚策だよね」
 
夫は笑いながら、私に留めを刺した……。それは、磨き抜かれた正論中の正論だった……。
 
以来、私は正論を封印することにした。
 
正論が正しいとは限らない。つまり、正論は正しい理論という意味だけれども、問題解決の手段としての正論が正しいとは限らないということを知ったからだ。
 
もちろん、私だって人間だ。正論を言いたくなる時もある。が、そこはグッと堪えて口を閉じている。
 
相手のためではなく、自分のために。だって、正論なんてみんな知っているんだから。
 
 
 
 
***
 
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2022-06-22 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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