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いざという時、ないと困るものって


*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜

記事:鈴木みえ(ライティング・ゼミ4月コース)
 
 
先日、急ぎ足で駅に向かっていた時のことだ。
 
数十メートル先の店先でおじさんがティッシュを配っているのが目に入った。
 
配っているティッシュ……。なんとなくだが、私は受け取らないし、割とみんなもそんなイメージがあるのだが、なぜか通り過ぎようとした人々が足を止め、受け取っているのだ。
 
しかも笑って話をしているようにも見える。
 
なんだろう? ちょっとどきどきしながらおじさんの横を通り過ぎようとすると、大きな声で「いざという時、ないと困るもん(もの)」そう言いながら寄ってきて「ポケットティッシュをどうぞ!」と差し出してきたのだ。
 
思わず、くすっと笑って「ありがとう」と受け取ってしまった。
 
うぬぬ。なかなか面白いじゃないか!
 
わずか3秒で足を止めさせる。素晴らしい。
 
短文で人に興味を抱かせ、引っ込んでいた手を出させるということはたやすいことではない。いかに簡潔に表現し、注目を集めることができるのかが勝負だ。
 
ただ、そのお店というよりおじさんの印象だけが残ってしまったことは否めないのだが。
 
その後歩きながら、いざという時ないと困るものって他に何があるだろう? と考え始めてしまった。
 
絶対にないと困るものではなく、いざという時か……。
確かにティッシュは困る。
 
トイレに行ってトイレットペーパーがない時、ポケットティッシュを持ち合わせていないシチュエーションを考えただけでぞっとするし、ラーメンを食べていて鼻水が出てしまった時もいたたまれない。
 
今はトイレには当たり前のようにトイレットペーパーは設置されているし、ラーメン屋には大体ボックスティッシュが置いている。しかしその油断が命取りだ。
 
そう考えていて、ある古びた銭湯に行ったときのことを思い出した。
 
そこは山間の温泉地の外れにあって、恐らく地元の人が行くのであろう。無人で入口に木の箱があり、そこに入浴料を入れるシステムになっていた。
 
お湯は柔らかく、昔懐かしく感じる湯桶や天井の太い梁は趣があり、日頃の疲れがほぐされていくように感じた。ゆっくりと身体を温め、髪を洗いお風呂から上がった。
 
そして身体を拭き髪を乾かそう、とドライヤーを手にしたらなんと壊れているのだ……。
スイッチを入れてもうんともすんとも言わない。
 
しかも2月。そのまま外に出たら頭が凍りそうだ。とにかくタオルで余分な水分を拭くしかなかった。
 
「いざという時、ないと困るもの」に間違いなく認定だ。
 
気になって、ドライヤーがない時の髪の乾かし方をググってみた。回答の多くはとにかくタオルドライとあったのだが、頭をペリコプターのプロペラのように振る、という記事があり笑ってしまった。
 
他にも何かあるかな、とぼんやり考えていたらスマホに地震速報の通知が届いた。最近、日本各地で地震が多い気がする。
私は阪神淡路大震災の時は神戸市須磨区、東日本大震災の時は仙台市青葉区で被災した。
どちらも震源地に近かったため、その揺れはかなり大きいものだった。
 
阪神淡路大震災の時は被害の少なかった実家に避難することができたため、そこまでの不自由さを感じることはなかった。
 
東日本大震災の時は幸いにも水と電気は1週間程で使えるようになったが、ガスの復旧に1か月以上かかりその間はお風呂に入ることができなかった。
 
自宅マンションの玄関は建物の歪みのため3か月近く扉が閉まらず、鍵もかからない状態だった。もっと大変な人達がいたからこんなことで、と思っていたが、それでもやはり不自由だし何より物騒だった。
 
そんな生活の中ないと困るもの、というよりあって助かったものについて書いてみようと思う。
 
水や懐中電灯など、一般的に防災リュックに入っていそうなものは割愛する。
 
重宝したものはサランラップとガムテープ、そして空の2リットルのペットボトルだ。
 
サランラップはお皿としてかなり役立った。当時はなるべく洗い物を増やさないことが必須だった。
 
食料はなかなか手に入らず、3~5時間並んでようやく少し手にすることができる状況だった。そんな貴重な食料を小分けにしておくのにとても便利だった。ビニール袋ではなく、しっかり密閉できるサランラップは乾燥を防ぐため、とても優秀なのだ。
 
次にガムテープ。
 
閉まらなくなった窓や玄関ドアの隙間から風が入ってこないようするため、サランラップをガムテープで貼り付けると応急処置になった。
また、割れたガラスの小さな破片をぺたぺたとくっ付けて掃除するのにも役立った。掃除機は電気がないと使えないし、フローリングの隙間に入った破片はほうきでは取り切れないのだ。
 
そして忘れてはいけないのが空の2リットルのペットボトル。
 
本当にお世話になった。
 
何に使うかというと、カセットコンロで沸かしたお湯と水を混ぜ、ぬるま湯をつくるのだ。
 
そして、そのお湯で髪を洗う。季節もまだ暑くなかったため、3,4日に一度の楽しみだ。
 
軽く頭を濡らし、シャンプーをする。
 
注意点は先にお湯を入れるとペットボトルが変形するので水を入れること、2リットル全部入れると重くなるので半分より少しにすることだ。
 
1か月もすると、その少ない量でトリートメントまでできる技を身につけた。ペットボトルにも愛着がわいてマジックで目と口を書いて「ペットちゃん」と呼んでいた。
 
そして、ここでもサランラップが登場する。
 
トリートメントした髪をサランラップで巻いて少し置くのだ。洗い流すととてもしっとりしている。ささやかな幸せだ。
 
因みにこの頃には、電気は復旧していたためドライヤーは使える状態だった。不幸中の幸いだ。
 
当時、多くの美容院ではワンコインでシャンプーをしてくれていたのだが、最初の頃はみんなこのペットボトル方式だった。
 
それぞれができることを工夫して懸命に生きていた。
大変だったけど、たくさんの人の優しさに触れることができた。
 
いざという時、ないと困るもの。それは人の優しさと思いやりなのかもしれない。
 
 
 
 
***
 
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2022-06-29 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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