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ダーツは脳みそで投げるとうまくなる


*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜

記事:伊佐野貴子(ライティング・ゼミ6月コース)
 
 
突然五十肩になった。しかも両腕。
 
腕を後ろに引くと痛い。
横や上に上げても痛い。
 
洗濯物も干せないし遠くの物も取れないし、エプロンを後ろで結ぶなんてもってのほか、落ちるものを反射的に拾おうとした時のあのけぞるような激痛。しまいにはお手洗いをすませてズボンを上げる時まで痛い。もう上げないでいいかもと思うくらい痛い。
 
心当たりは無くもない。
発症の1か月前に左胸から脇の下にかけてわりと大きめな手術をした。ようやく脇の下の術後の痛みも少し癒えてきたなと思ってきたある日突然、傷の裏にあたる二の腕の外側にズキリと痛みが走った。「あれ?なんか痛いな。手術の後遺症かしら?」と思ったが、我慢してリハビリを続けた。痛みが増す。なんならそのうち逆の右腕の二の腕もズキズキと痛くなってきた。
 
「手術してないほうの腕も痛い!なぜ!」
 
もはやウルトラマンに出てくる気の優しい赤い怪獣ピグモンのごとく手を前にブラブラすることしかできない。これはいよいよ何かがおかしいと思い主治医に問い合わせたところ、「あーそれ五十肩ですよ。手術の後遺症じゃないから安心して。半年くらい痛いかもしれないけど、リハビリがんばってね!」とあっさり。安心できない痛みを抱えていたが、これがかの有名な五十肩というものか。なんとなく聞いたことはあったがこんなに痛いものとは。とりあえずスマホだけは持てるので、リハビリもせず家事もせず何もせずスマホの検索能力だけは高くなるという、スマホをいじるピグモンのような日々を送っていた。
 
そんなある日、ついに時はきた。ぎっくり腰の前兆か、腰にまで鈍い痛みが走ったのだ。このままではミイラになってしまうと思い、痛くて重い腰をあげた。五十肩の治療のために整形外科、鍼灸院、整体をかけずりまわり、ヨガやピラティスなど片っ端から手をつけた結果、数か月後には五十肩は少しずつ痛みがひき、腰の不安からも解消されてひとまずミイラから人間に戻れた。
 
「ふむ、努力すれば身体は応えてくれるもんだな」としみじみ感動を覚えるとともに、何か楽しくてリハビリにもなる、とっつきやすいスポーツはないかなと思案したところ、ポンと頭に降ってきた。
 
「あ、ダーツがいいかも」
 
全然スポーツらしからぬ響きだが、腕のリハビリには良いかもしれない。そして上達すればこれからの長い趣味にもなるかもしれない。そうと決まれば早速スクールに入会。ドキドキしながら行ってみると、ダーツバーの暗くキラキラしたスモーキーな雰囲気とは違い、昼間の明るく清潔で健康的な感じ。生徒は老若男女いて多種多様、真剣だが楽しそうに投げている。
 
「年齢は小学生から70代くらいまで幅広いですよ」とコーチ。確かにおじいちゃんぽい人もいるが、背筋をスッと伸ばしてピッと投げている姿はなかなかに美しい。こんな風に投げられるようになりたい。
 
「では、まず投げてみてください」
「はい!」
 
構えてみると、2メートル以上離れた的はずいぶん遠く見える。真ん中のブルと呼ばれる一番点数の高いエリアは直径4センチほどしかない。それでもブルを狙って思いっきり投げてみる。
 
「あ痛っ!!」
 
普段使わない腕の動きで、忘れていた痛みが蘇ってしまった。もちろんダーツの矢は的に刺さるはずもなく、かなり手前でヘロヘロポテンと落ちている。
 
目が点になっているコーチに、照れながら
「五十肩のリハビリで来ましたぁ」と告白。
 
まだ五十肩という言葉も知らないのではないかも思うほどに若々しくて可愛らしいコーチは、元気に優しく言った。
 
「わかりました!ではここから投げてみてください」
 
おじぎしたら頭に当たるくらいの、ものすごく的に近いところを案内された。さっき大声を出したことも恥ずかしいが、1人だけ的と会話できそうなくらい近くで投げるのもなかなか恥ずかしい。でも上達して楽しく投げるためだ、やるぞ!意を決してそっと投げてみる。当たり前だが、刺さる。でもこんなに近いのに、ブルには刺さらない。あれ?
 
「真ん中に刺さらなくても良いですよ。
まずは的そのものに刺さるイメージと、慣れれば真ん中に刺さるイメージを脳に刻んでみてください。矢を投げるというより、置きにいくイメージですね」
 
なぬ、イメージ。ブルに刺さっている様子はイメージできるが、実際は刺さらない。難しいなぁと思いつつも、何度も繰り返すうちに5回に1回くらいはブルに刺さってきた。なるほど、身体が起こした成功体験を脳に刻んでリンクさせ、もう一度身体で同じ動きをすることがコーチの言うところの「イメージ」なのかしら。
 
「そうです。力んで的投げるとブレてしまいなかなか同じ動きを繰り返すことができないので、腕の力をできるだけ抜いて矢を置きに行くんです。そこで大事なことは脳でイメージすることなんです。」
 
へー、イメージって大事なんだな、と思いながら、少し遠くから力を抜いて矢を的に向かって置きに行くように投げてみた。すると、なんと、腕が全然痛くないではないか!すごい!嬉しくなってじわじわと後ろに下がり、ついにはみんなと同じラインから投げられるようになった。それだけでもとても嬉しい。
 
上達すると楽しくなって練習も続くもので、通常のラインからブルにも少しだけ入るようになってきた。するとコーチから、そろそろ他の生徒さんとゲームしてみますか?ということで、上手なベテラン生徒さんと組ませてもらった。
 
ゲームでは基本3本ずつ数ターン投げて、刺さったエリアの合計点数で競う。ドキドキしながら投げていると、なんと3本中2本がブルに刺さるという私史上最高の成果が出た。それだけでも十分満足だったが、次のゲームで、私が3本中2本ブルに刺せば勝ちという場面に出くわしてしまった。
 
自分史上最高を1日に2回も出せるわけないわ、と思っていたら後ろからベテラン生徒さんが、
 
「できますよ。
さっきできたんだからできるんですよ。
脳がストップかけてるだけです」
 
また出た脳みそ!
半信半疑ながら、「私はできる」と念じつつイメージ中心で投げてみた。
するとなんとスコーンスコーンとまた2連続でブルに入ったのだ!
 
「ほらね(ニコッ)」
 
と、これまた優しく言ってくれた生徒さん、もうコーチと呼ばせてください!
 
その後も練習を重ねスクールにも慣れてきた頃、プロのダーツプレイヤーでもあるヘッドコーチも五十肩になったという。痛くて眠れなかったというコーチに激しく共感するも、腕をぐるぐる回してばんばんブルに入れている姿を見て、痛くないのかと尋ねたところ、「痛いけど回りますよ」とニッコリ。これももしかすると「痛いから動かせない」という脳みそのストッパーを外せているからなのかもしれない。プロならではの御技か。
 
ダーツとは誰でもできて上達も実感でき、長く楽しめるスポーツなのだなと改めて思ったと同時に、「できないよ」という脳のストッパーを「できるよ」にイメージ変換し、身体もそれに連携して応えてくれるのだという実体験もできたように思う。
 
そしてその「私はできるんだよ」という「イメージ」の大切さは、人生のあらゆるシーンで役に立ってくる気がしている。この無敵感をもっもっと大事にしながら、いろんな楽しいことにチャレンジしていきたい。
 
 
 
 
***

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2022-06-29 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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