泣くこと
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記事：陣（jin）（スピード・ライティング特講）
私は泣き虫だ。
怒られては泣き、悔しくては泣き、嬉しくても泣くし、もらい泣きまでする。
映画なんかも、予告ですら泣きそうになる始末なのだ。
「感受性が高いんだね」そう言われるけれど、そうなんだろうか。
幼稚園の卒園式後に泣いた自分をみて母は不思議そうな顔をしていたし、付き合っていた彼は、就職先で葬式関係は伸びしろがあるからいいと言いながら、自分の身内のように泣いてくれる社員がいたら相手も嬉しいだろう。と訳のわからないことを言っていた。
心が苦しいから涙がでるのだ。そんな苦しい思いを毎日しろというのか？
泣くのだって辛い。鼻の奥がツンとするし、言葉だって泣き声になるから泣いてるとすぐ気づかれてしまう。涙だって出るから拭うと泣いてるとわかってしまう。
泣いていると茶化されたくなかったから、卒業式のときは流れる涙を拭かなかった。
案の定、泣いていることはバレなかった。
そして、周りの反応を見るうちに、すぐ泣く自分のことを弱い人間だと思うようになった。
学生の頃、泣かないようにしているという友人がいた。
なんでもその友人は、泣くことでその辛かったり悔しかったりする思い出を、涙と一緒に流してしまうから、ちゃんと心に留めるために泣かないのだと言っていた。
確かににその友人は泣かなかったし、優しい中にも強さがあった。
それに、悲しかったり悔しかったりすることは涙に流れ、スッキリしてしまって次に生かせていないという自覚もあった。
友人の話を聞いて、自分は嫌なことを涙で流して逃げていたんだということを知り、やっぱり自分は弱い人間なのだと思った。
「見習いたい！」
そう思った私はどんなに辛いことがあっても泣かないようにした。強い人になりたかったし、泣かないというのはどんな心境なのか知りたかった。
数日が過ぎ、意外にも泣かずに過ごせていた。どんなに叱られてもどんなに感動する漫画を見ても泣かなかった。
段々と、悲しい、辛いという涙がでるような感情が出てこなくなった。気持ちを何処か別の場所に飛ばすことで泣くという行為を避けていたのだ。
続けるうちに、涙も出なくなったし、今まで悔しかったり叱られたりしたことも心にどんどん溜まっていっていた。
「なるほど、この蓄積の重さが強くなるということなのか」と思っていた。
だが、ある時吐き気がした。
頭がぐるぐるとするし、鼻と目の付け根の辺りに変なつっかえというか、栓がしてあるような感覚があった。
吐きたいのに吐けない。泣きたいのに泣けない。
慌てて今まで涙の出ていた漫画やアニメ、映画や本、自分が涙をするような出来事を思い浮かべて泣こうとした。
……全く涙が出ない。
そして楽しいはずのことも楽しいと思わず、今までの自分だったら何かしら心動かされていたものに心が動かなくなっていることに気づいた。
目は死んでいたし、そもそも何に対してもやる気が起きない状態になっている。
「あれ？ これはやばいのではないか……？」
マイナスと言われている感情を無理に抑え込んでしまうと、プラスと言われる感情も死んでしまう。
そして気づく。
「泣くって、大事なことなんだ」
おとなになるとなかなか泣けなくなる。
人前で泣くのは恥ずかしいし、メイクは落ちるし、マスクは鼻水と涙でぐちゃぐちゃになるし、（逆に口元などはマスクで隠れるので、泣いていることに気づかれにくくはあるが）感情が湧き上がっても、別のことに意識を飛ばし、感情的になれないこともある。
だが、その感情を放っておいてはいけない。
ここ最近、脳の働きが悪く、どこかぼやっとしたような霞がかったような日が続いた。
頭がスッキリするという感覚を長いこと忘れていたある日、指をはさみで切った。
病院に行くと3針縫うことになったのだが、病院のベットでぼろぼろ泣いてしまった。
麻酔の注射は怖いし、縫われるのももっと怖い。痛みや血も苦手で、もう自分の怪我した指のことを考えるだけで涙がとめどなく出てしまったのだ。
一度泣き始めると止まらない。
病院の方々からも心配されたが、ふと麻酔の注射を打たれた後の待ち時間で、天井を見つめながら思った。
頭がスッキリしている。
視界もはっきりしているし、悩んでいたことの解決策も浮かんだ。
「なんだ、泣けばよかったのか」
おとなになった私は学生時代に体を張って体験したにも関わらず、また泣くのを我慢していたのだ。
おとなになったって泣いていい。
そう思うと心が楽になった。
職場の子どもに、包帯を巻いた指を指さされ、「どうしたの？」と聞かれたので「ハサミで指切ったんだよ」と話すと「痛かったでしょ？泣いた？」と聞かれた。
一瞬本当のことを言うのをためらった。だが、子どもに嘘は良くないと思ったし、大人でも泣いていいと言った自分がいる。
「泣いたよ」
そう言うと、「ええ！ おとな……」
やっぱりそうだよね。大人なのに泣くなんて恥ずかしいよね。
そう思っていると、
「おとなでも泣くくらい痛かったんだね。大丈夫？」
と心配してくれた。
その言葉でまた心が楽になった。
大人でも泣いていいんだ。恥ずかしがることはない。
＊＊＊
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