メディアグランプリ

言葉だけではなく、本質的に変えたい「育休」から「育業」


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記事:上田聡代(ライティング・ゼミ4月コース)
 
 
ハチミツ棒に全集中! のはずが、テレビから流れてきたニュースで手が止まった。
 
「東京都は、育児休業の愛称を……」いつものように背筋がピンと伸びて、ボードを手にしながらリズム感のある話し方で、小池都知事が語っている。
助産師として育児相談を行っている私は、「育児」に関する情報には敏感になる。そのため、ハチミツ棒をそっと置き、テーブルから離れ、テレビに近づいた。気になる言葉をメモする癖がついているのだが、間に合わない。急いでスマホの録音機能をオンにした。
 
次のニュースとなったので、私もテーブルに戻り、頭の中を整理した。どうやら、東京都は「仕事を休む」といった後ろめたいイメージを一新しようと、育児休業の新しい愛称を募集していたらしい。その中から選ばれたのが、「育業」ということだ。
 
録音機能をオンにして、再びハチミツ棒を動かした。
小池都知事の言葉で印象に残ったのは、次の2点。
「育児は未来を担う子供を育てる大切で尊い仕事。『業』には『努力して成し遂げる業績』という意味があり、まさに『育業』と呼ぶのにふさわしい大事な仕事である育児に取り組むとマインドチェンジを進めていく」
「法制度の面は進展しているが実際には育休取得にちゅうちょする人が多い。育〝休〟は決して休みではないので、言葉のイメージを変える必要があること。『育休いただいてもいいですか、すいません』と謝るのではなく、『私は育業中です』と胸を張って言える社会にしたい」
 
録音を聞き終わると同時に、最近では耳にすることが極端に減った「イクメン」という言葉が頭に浮かんだ。15年程前に流行した言葉で、元々は「育児を楽しみ、積極的に行う男性、または、将来そのような人生を送ることを望む男性」の略称で、イケメンをもじった造語のこと。父親の育児が社会に浸透するにつれ、子育てする男性すべてを表す意味でも使われるようになったようになった。
 
個人的には、この「イクメン」という言葉が、しっくりこなかった。そもそも、父親は育児を一緒に行うもので、育児を行ったから、わざわざ「イクメン」と呼ぶ社会に、なんとなく違和感を抱いていたのだ。しかし、この言葉のおかげかどうかはわからないが、この頃から駅でベビーカーを押す男性、保育園の送迎など、育児を行う男性と出会う機会も多くなったし、育児休業を取得する国会議員が話題になったりもした。
しかし、2020年の男性育児休業取得率は、12.65%と、女性の81.6%とは比べものにならない程低い。ただ、「イクメン」の言葉が流行り始めた頃は、男性育児取得率は1%にも満たなかったので、著しく増加しているという見方もあると思う。
 
言葉で発想を変えることは、意識としてとても重要。ただ、もう少し深く考えることも大切ではないかと思う。例えば、育児休業の取得は、キャリア形成への不安のために取得をためらう人が多いと聞く。一般企業の現状はわからないが、医療現場で管理職をしてきた私が感じるのは、「職場の理解が得づらいこと」も、大きな問題だと思う。たとえ、法整備が整ってきたとしても、雰囲気が……。
 
いや、職場の仲間もわかっているのだ! 本来なら育児に集中させてあげたいのだ! 私も心の底から休ませてあげたい! と思っていた。ただ、当然だが、妊娠、出産は突然やってくるのだ。同時期に出産する職員が数人重なってしまうと、他のスタッフへの負担が多くなる。
その分、余裕を見て雇用すれば良いかもしれないが、育児休業を終了すると、職員達は戻ってきてくれる。その時には、雇用人数が大幅に増えてしまう。経営にも関係してくる。
また、その期間だけ臨時雇用すれば良いという声も聞くが……。
生命を預かる医療現場。現場によって様々なルールがある。環境に慣れ、仕事に慣れるまでに時間がかかるのだ。それに加えて、育児休業を取得する職員は、頼りになる年齢層。簡単に変わりが見つかるワケでもない。
 
そうすると、声にはならない声で「早く復帰してほしい」と訴えてしまっていたと思う。目で、態度で、雰囲気で、訴えていたと思う。心の中では、「ごめんね」と思いながら……。
 
「育休」から「育業」と口にする人は、きっと増えるだろう。そのうち自然に……。
しかし、根本的な解決を行わない限りは、『育業いただいてもいいですか、すいません』と、言葉が変わるだけになるような気もする。
 
言葉も大事! 社会の変化と共に新しい言葉ができあがり浸透していく。ただ、表面的なことだけでは、本当の意味での解決策にはならない。
育児休業を取得することだけに焦点をあてるのではなく「働きながらでも子育てができる仕組み」を考えてほしい。いや、行政任せではなく、人任せでもなく、私自身も考えたい。
 
地域の人みんなで、「子育て」ができるような仕組み! お神輿を担ぐように「子育て家族」を担ぐイメージ。そのためには、希薄になってきている近所付き合いや地域のコミュニティを活性化させていくことも大切なのだと改めて考えさせられる。
 
「人とのつながり」を大切にしたいと考えさせられた朝のはじまりだった。
 
 
 
 
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2022-07-05 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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