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勇気を出して


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人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜

記事:むぅのすけ(ライティング・ライブ大阪会場)
 
 
人生において、勇気を出す場面というのが少なからずある。
 
無意識のうちにでも、何かしらのリスクを伴う選択をしているなら、そこには必ず
勇気を出す、ということをしているはずだ。
例えば受験や恋愛等にまつわることのように、勇気を出したことが一生忘れられないような記憶となるもののことだけではないだろう。
特に記憶に残ることもなく、即、忘れてしまうような何でもない日常の中でも、きっと勇気を出して選択していることがあるはずなのだ。
 
そしてそれは、あまりにささやかすぎて、大抵は丸ごと忘れてしまうのだろう。
しかし、後の自分にとって、時に大きな助けとなることもあるのだ。
 
 
 
数か月前
ある休日の昼下がり、突然の痛みが私を襲った。
自宅で簡単に用意したあり合わせのお一人様ランチを、録画した朝ドラを観ながら機嫌よく食べている最中のことである。
 
『んぐぅっ!(大声)…………(声にならない)、痛いぃぃ(超小声)、……またやっちゃったよ、もうヤだぁ~(半泣き) 』
 
食べ物の味に、鉄に似た血の味が混ざっていく。
痛いのは頬っぺたの内側、奥歯の近く。
何をやっちゃったのかは言うまでもない。
食事中に奥歯で頬っぺたの内側を、思いっきり噛んでしまったのだ。
 
そして『また』という言葉通り、何度も経験した痛みと、その後しばらく続く不快感を簡単に想像できてしまうせいで、心の底からウンザリしてしまったのだ。
出血が止まるまで続きは食べられないし、痛くてドラマを観るどころではない。
 
冷めていく食事と、一時停止したテレビ番組を横目に見ながら、ひたすら痛みが治まるのを待つ。
私のご機嫌なランチタイムは一転して、どんよりと暗いものになってしまった。
 
 
でも、落ち込んでみたところで、誰かに何かされたワケではないし、そもそもたいしたことではないのはわかっている。
そして自慢にならないが、私はどんくさい。
だから打ち明けるなら、自分のどんくささが招いたということをよく理解しているだけに、ただもう、いたたまれないような情けないような気がして、さらにウンザリしてしまうのだった。
 
当たり前だが、噛んでしまったところは腫れてくる。
さらに内側に出っ張ってくる、ということだ。
すなわち
重ねて噛んでしまう可能性が増すのである。
 
これは初手のキズが大きければ大きい程、治りも遅く腫れもひどいので、ますますその後を気を付けなければならない。
これまで何度重ねて噛んでしまって更なる痛みに耐えたことか。
もうそれは、子どもの頃からだから数えきれない程である。
 
つまり
どれだけ思いっきり噛んでしまうかによって、ウンザリ度合が変わってくるのだ。
 
 
ついこの間も、今までで一番痛い! と思ったほど噛んでしまったのに……
今日また、自分史上トップクラスに入ると言えそうな頬の内側のキズから、これまた今までになかった種類の情けなさを感じつつ、ふと思った。
 
この痛みの経験者は、私だけではないはずだ。
 
どんくさくない人は、味わったことがないのだろうか。
いや、そんなはずはない……と信じたい。
根拠はないが、きっと誰でもあるはずだ。
 
それにしても
突然、頬っぺたの内側を噛んでしまうのは、いったい何故なんだろう。
かねてから不思議だったのだが、深く追求したことはなかった。
そもそも普通に口を動かしているだけで、何故、わざわざ頬っぺたの内側なんて部分を噛んでしまうのか。
 
思い返してみると、私の場合、ことが起こるのは必ず食事中で、口に食べ物が入って咀嚼している時、という印象だ。
食べ物だけを噛んでいるはずなのに、欲張って他の部分まで多く噛んでいるのだろうか。
 
もしかして
私は無意識に、自分が口に入れた食べ物より、更に多くの『何か』を食べようとしているのか?
もしそうなら、何のために?
 
あるいは
実はある種の人類には、口に入れた分量よりも、多くのものを噛もうとする本能のようなものが備わっている、とか。
そのせいで、ついつい頬っぺたの内側を噛んでしまって、たまに痛い思いをするのは致し方ないことなのだ、とか……
 
日ごろから、どれだけ自分で、私はどんくさいの~と言っていたとしても、正面切って『どんくさい自分』を突き付けられるのは、正直コワい。そしてツラい。
真実は思った以上のダメージになるとわかっていた。
だから私は
絶対に違う、と言い切れるようなくだらないことを思い浮かべては消し、また思い浮かべては消す、ということを脳内で繰り返していた。
 
だがしかし、である。
このまま、ますます頻度が増していくのを、なんとなく仕方ないと、黙って受け入れていかねばならないのだろうか……
痛みに耐えているうちに、このままではいけない気がしてきた。
 
ここで私は勇気を出した。
 
ただ検索しただけなのだが、追求した結果は、どんくさい云々よりも私を落ち込ませるのに十分過ぎるものだった。
 
口内を噛んでしまうという症状を訴える人の多くは、年齢層の高い人たちで、年齢と共に歯と舌の動きの連携が取りにくくなってくることから起こるらしい。
一種の加齢現象であるから、テレビを観るなどして気を取られないように注意が必要、とのことだった。
 
他にもいくつか紹介されていた原因はあるのだが、一番これが私にあてはまっていた。
加齢現象かぁ……
悲しいかな、おおいに納得できる原因だった。
 
私は子どもの頃から、誰かと食事していればよくしゃべり、一人なら何かを観たり読んだりしながら食べることが多かったので、気を取られまくっていたのだろう。
そして、いまや加齢とともに噛んでしまう回数が多くなり、キズも深くなってきたのだ。
 
 
このことを知ってからの私は、この数か月間、なんと一度も頬っぺたの内側を噛んでいない。
ただ運がいいだけかもしれないが、以前のペースで行くと月に一度は噛んでしまう計算になる程、当時の頻度は増していたのである。
 
特に変わったことはしていない。
ただ、自分が頬っぺたの内側を噛んでしまうメカニズムを知ってわきまえるようになった、というだけなのだ。
 
頬っぺたの内側を噛むことだなんて、取るに足らないことに違いない。
それでもあの時、勇気を出して現状の自分と向き合えたことは、確実に未来の自分に役に立ったと言える。
小さな誇りを胸に、今後も迫りくる加齢とともに歩んで行こうと思えた出来事だった。
 
 
 
 
***
 
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2022-07-06 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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