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戻ってはいけない


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記事:工藤洋子(ライティング・ゼミNEO)
 
 
決して戻ってはいけない。
絶対に。
 
実はこれ、英語を理解する一番のオキテなのだ。
 
え〜? 英語?
どうせ難しくて分からないから変わらないもん。
 
そう思われる方もいるだろう。
 
それも仕方ない話だ。
英文を読むときに、いちいち後ろから「戻って」日本語に訳して理解しようとすると、理解が極めて遅くなり、英語が苦しくてつまらないだけのものになってしまう。そうやって英語に苦手意識を持つ日本人のなんと多いことだろう。
 
だから「戻ってはいけない」のだ。
 
例をあげよう。
 
I want to go to the supermarket to buy some fruits.
 
という英文があったとする。
 
もし、「この英文を日本語に訳しなさい」という問いがあったなら、
 
「私は果物をいくつか買うためにスーパーに行きたい」
 
となるだろう。
 
その答えは「訳しなさい」という問いに対しては、正しい。スーパーに行く目的は果物を買うことなので、「〇〇のために」という部分を訳してから「戻って」、それから「スーパーへ行きたい」と文を締めくくる。
 
だが、多くの英文をどんどん次から次へと素早く理解していこうとすると、この「戻る」ことが余計な手間になってしまう。
 
先ほどの例文で、訳さず、戻らず、意味を理解するには、英語の語順の通り、
 
「私は 行きたい スーパーに 買うために いくつか 果物を」
 
と順次処理していく。訳して文にしてしまうとおかしな日本語ではあるが、意味を頭の中で理解していく順番はこれでよい。
 
学校英語では後ろから戻ってきれいな日本語に訳す傾向が強い。その弊害だろうか、それとも元々の国民性だろうか、ざっと全体を把握するよりいちいち訳し戻ってしまう人が多い。
 
日本語は語順に関しては極めてゆるく、言葉を単語レベルで並べても意味が通らないことはない。「私」など主語が省略されることさえよく起こる。文の構造でいえば、石を積んで作った石垣のようなものだ。とにかく重ねていけばどうにかなる。
 
それに対して英語など西洋の言語は語順がかなり厳格に決まっている。こちらは例えるなら連結された汽車だ。先頭は汽車の顔となる車両、次は動力源となる車両、その後に客車が続く。先頭車両が主語、動力源となる車両が動詞、このふたつは英語ではまず位置が変わることはない。
 
こういった日本語と英語の文の構造の違いを理解した上で、けっして「戻らず」に読んで文の内容を理解することができると、音だけで英文を聞いたときにも、すんなりと頭に入ってくる。
 
私は日英の同時通訳者として長年仕事をしている。
同時、といっても正確に言うと「少し遅れて」訳していくのだが、これこそまさに「戻ってはいけない」仕事だ。通訳者が「ちょっと待ってください!」と話の腰を折ることはできないのだから、聞こえたものから処理していくしか方法はない。さきほどの例なら少し日本語を整えて、
 
「私がスーパーに行きたいのはいくつか果物を買うためだ」
 
と訳すことだろう。可能な限り前から意味をつかみ、なおかつできるだけ自然な日本語にしている。
 
実際、私も通訳者になるためのトレーニングを積んでからようやく「訳し戻りの呪縛」から解かれたようなものだ。帰国子女でもなく、英語の英才教育を受けた訳でもない純日本人の私は英語を習い始めたのも義務教育の中学校から。断じて英語エリートではない。
 
では、通訳者が「訳し戻り」しないためのトレーニングとは一体どういうものだろうか?
 
まず、英文を読む時に文章の意味のかたまりでスラッシュを入れて順々に理解する方法がある。これを「スラッシュリーディング」という。
 
先ほどの例文だと、
 
I want to go / to the supermarket / to buy some fruits.
 
となる。スラッシュで区切った部分ごとに理解していく。完全な日本語に訳す必要はない。このやり方を身につけると、もっと複雑な英文でも構造を把握して理解することが可能だ。難しい文章になっても、難しいのは単語で構造自体はそう難しくはならない。あとは自分の習得したいのがビジネス英語ならビジネス英語向けの、技術英語なら技術英語のボキャブラリーを増やせば必要な英文を素早く理解することができるようになる。
 
ちなみにこのスラッシュで区切った英文を目で追いながら頭から訳していくトレーニングをサイトトランスレーション、通称サイトラ、という。通訳の基礎トレーニングである。
 
次に英文を音で理解するために有効なトレーニングが、「シャドーイング」だ。聞こえた英文をそのまま真似しながら2,3語遅れで声に出していくもので、その名の通り、影のごとく元音声に張り付いていくことから名前が付いている。
 
このトレーニングも「訳し戻る」ことを許さない。音は出たら即消えてしまうのだから、なんとか食らい付いて声に出していくしかない。元の音声の真似をするため発音の改善に有効であり、聞きながら話すため集中力が倍増し、英語のリズムも身につく一石二鳥、三鳥の練習法だ。
 
必要な音声教材もひと昔前とは大違い、インターネットでなんでも手に入る。自分のレベルにあった教材を用いて適切な方法で行えば、英文を戻らず理解した上にさらに自分で英語を話すことにも繋がる。通訳者のトレーニングとして主に知られているが、社会人や学生が英語を習得する際の大きな武器になる。
 
英語を含め、語学の習得にはどうしても地道なトレーニングが必要だ。しかし、特別な才能は必要ない。そのトレーニングをいかに効率よく、楽しくやっていくかで実際にかかる負担は段違いになる。まずは「決して戻らず」英文を理解することから始めて、「訳し戻り」に慣らされてしまった多くの日本人が英語を思うように使えるようになって欲しい、と思う。
 
日本語は世界でも難しいと言われている言語だ。その日本語が使える日本人が英語を習得できないはずはないのだから。
 
 
 
 
***
 
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