メディアグランプリ

夫婦関係、私側から見るか? 夫側から見るか?


*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜

記事:宮越 浩子(ライティング・ゼミ6月コース)

 
 
「あれ? 私のスープは?」
 
事件は、家族4人揃っての休日のランチタイムに起きた。
ランチのメインは、近所に新しくできたパン屋さんの焼きたてパンだ。ずっと行きたかったパン屋さん。念願が叶ったことがうれしくて、うきうきしながらサラダの用意をする。途中で、インスタントスープのストックがあったことを思い出し、スープにお湯を注ぐのは夫に託した。
サラダが出来上がり、「さあ食べようか」と席に座った時、目の前にあるスープ皿が空っぽなことに気が付いた。
 
ふと食卓を見渡すと、夫の前にはパンプキンスープ、子どもたちの前にはコーンスープがほかほかとおいしそうに湯気を上げていた。でも、私のスープ皿だけは空っぽ。
それなのに「食事の準備はオッケー!」と言わんばかりの食卓の空気感に、ランチを楽しみにしていた気持ちが少し萎えた。
 
「私のスープだけ、セルフサービスってこと?」
口を吐いて出てきた言葉に「ついでに私の分もやってくれたらいいのに」という思いが露骨に出てしまったと思う。
 
夫は言った。
「え? だって、どっちのスープが飲みたいかわからなかったから……」
 
確かに、この日、インスタントスープは2種類あった。私の空っぽのスープ皿の横には、それらの箱が並べて置いてあった。
好きな方を私自身が選べるようにと思って、私のスープ皿の近くに置いてくれたってことなのだろうか? いやいや、私のことなんて考えていなかっただけじゃないの? わからないなら、訊いてくれればいいのに……。
百歩譲って私のスープ皿だけが空っぽな理由を汲み取ろうとしてみたものの、がっかりした気持ちがそれを覆い尽くしてしまった。
 
「どっちのスープにする?」
こんなに近くにいるのに、このたった一言がどうしてないのだろう。
 
思い起こせば、こういった事件は今回が初めてではなかった。
結婚して間もない頃、二人で食後にティータイムを、と思って電気ケトルにお湯を沸かしたら、夫がコーヒーを自分の分だけ淹れて一人飲み始めたことがあった。二人でティータイムをと思っていた私にとっては、予想外の展開だった。「今日はたまたまそうなっただけ!」と自分に言い聞かせ、思い描いた二人揃ってのティータイムは次の機会に持ち越すことにした。
 
でも、その後もなぜか同様のことが繰り返された。面白いことに、私は二人分のお湯を沸かしているつもりなのに、夫は自分が今飲むコーヒーと職場に持っていくコーヒーを淹れ、一人でお湯を使い切ってしまうこともあった。お湯が足りなくなれば新たに沸かせばいい話なのだが、私に対して「何か飲みたいかな?」と思いを馳せる様子がないことに、二人でのティータイムを夢見ていた私は切なくなった。
 
「何か飲む?」
こんなに近くにいるのに、このたった一言がどうしてないのだろう。
 
お風呂でも事件は起きた。
わが家はフルタイム勤務の共働きで、夫は帰宅が遅いため、夜は毎日私のワンオペ状態。一通りの家事を終えて、子どもたちの就寝を見届けると、「やっとでお風呂に入れる!」と1日走り続けたマラソンのゴールがようやく見えたような気持ちになる。
ところが、そのタイミングで夫が帰宅すると、当然のようにお風呂に直行してしまうのだ。
 
もちろん、夫は遅い時間まで働いてヘトヘトになって帰ってきているのだと思う。だから、今すぐお風呂に入ってほっと一息つきたい気持ちもよく分かる。
でも、私だって、仕事を終えて猛ダッシュで帰宅し、一息つく暇もなく家事や育児と格闘してくたくたなのだ。1日の疲れを、今すぐお風呂で癒したい時もある。
 
そんなタイミングで帰宅した夫に先を越されることは、マラソンのゴール目前で、規定外のコースから突然現れた選手に追い抜かれ、テープを切られたような感覚だ。何のためらいもなくゴールを走り抜ける後ろ姿に、悔しい思いを何度したことだろう。
 
「お風呂に先に入ってもいい?」
こんなに近くにいるのに、このたった一言がどうしてないのだろう。
 
たった一言訊いてくれたらと思うのに、なぜその一言がないのだろう。いつも不思議でたまらない。
だけど、そんな夫と生活するようになって早16年。夫の性格や行動パターンを知り、理解を深めるには十分な時間を共に過ごしながら、いつまでもしぶとく夫が訊いてくれることを期待し続けている私自身のあり方もどうなのかと、ここまで書く中で思い始めた。
 
夫側から見た時、これらの事件の数々はどう映っているのだろう。
 
私の目線で見ると、結婚して以来、「一言訊いてくれればいいことを、夫が自分からは全然訊かない事件」が多発し、被害がたくさん生じている。
その一方で、夫は頻発する「伝えてくれればいいことを、妻が自分からは全然伝えない事件」の被害者なのかもしれない。
 
同じ出来事も、捉える視点を変えると全然違った景色が見えてくる。夫側から捉えてみたら、私たちはなんてもどかしい関係性なのだろうと笑えてきた。それと同時に、未来に向けて、私たち夫婦はまだまだよりよい関係を築いていけるような気もしてきた。
 
次にインスタントスープを夫に託す際には、私からスープの種類をリクエストしてみようかな。わが家で起きる事件の被害者が、これ以上生まれないように。

 
 
 
 
***
 
この記事は、天狼院書店の大人気講座・人生を変えるライティング教室「ライティング・ゼミ」を受講した方が書いたものです。ライティング・ゼミにご参加いただくと記事を投稿いただき、編集部のフィードバックが得られます。チェックをし、Web天狼院書店に掲載レベルを満たしている場合は、Web天狼院書店にアップされます。

人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜

お問い合わせ


■メールでのお問い合わせ:お問い合せフォーム

■各店舗へのお問い合わせ
*天狼院公式Facebookページでは様々な情報を配信しております。下のボックス内で「いいね!」をしていただくだけでイベント情報や記事更新の情報、Facebookページオリジナルコンテンツがご覧いただけるようになります。


■天狼院書店「東京天狼院」

〒171-0022 東京都豊島区南池袋3-24-16 2F
TEL:03-6914-3618/FAX:03-6914-0168
営業時間:
平日 12:00〜22:00/土日祝 10:00〜22:00
*定休日:木曜日(イベント時臨時営業)


■天狼院書店「福岡天狼院」

〒810-0021 福岡県福岡市中央区今泉1-9-12 ハイツ三笠2階
TEL:092-518-7435/FAX:092-518-4149
営業時間:
平日 12:00〜22:00/土日祝 10:00〜22:00


■天狼院書店「京都天狼院」

〒605-0805 京都府京都市東山区博多町112-5
TEL:075-708-3930/FAX:075-708-3931
営業時間:10:00〜22:00


■天狼院書店「Esola池袋店 STYLE for Biz」

〒171-0021 東京都豊島区西池袋1-12-1 Esola池袋2F
営業時間:10:30〜21:30
TEL:03-6914-0167/FAX:03-6914-0168


■天狼院書店「プレイアトレ土浦店」

〒300-0035 茨城県土浦市有明町1-30 プレイアトレ土浦2F
営業時間:9:00~22:00
TEL:029-897-3325



2022-07-06 | Posted in メディアグランプリ, 記事

関連記事