メディアグランプリ

ショート小説『その香水の先に』


*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜

記事:鳥井春菜(ライティング・ゼミNEO)
※この記事は、半分はフィクションです。

またその香水につられて、不意に振り返った。ちょうど交差点を渡り切ろうかというところで、視線の先には、反対側へと急ぐ人の後ろ姿ばかり。そこには、あの懐かしい「いかり肩」の背中はなかった。

ーーもう三年も経つのに。

香織は自分でもおかしくなる。だって、こんな風に思い返している相手は、忘れられない元恋人なんかではなく、「前職の会社の上司」なのだから。しかも、恋愛的な話はいっさいない三周りも年上の上司だった。

ーー案外、ありふれた香水だったのかな。

一緒に仕事をしていた頃は、こんな風に香りにつられて思い出すようなことはなかった。いや、けれど、それもしょうがないだろう。だってあの頃は、思い出すも何も、四六時中に行動をともにしていたのだからーーー

「牧野、お前の話は面白くない」

いかり肩で恰幅が良く、思ったことは歯に衣着せぬ。上司の茂原はそういう人で、香織はよくスパッと切られた。いつもゆったりとした白いTシャツに、どこかを訪問するときだけ黒いジャケット。時々ふんわり香水の匂いを纏っていたりもして、これまでに香織が描いていた「上司像」とはちょっと違う年齢不詳の男でもあった。

ただの雑談なのに……と思っていると

「話す相手が誰で、どんなことに興味があるから、どんな話をしよう。それがサービスなんじゃないのか?」

と、急に真面目な顔で言う。
そこは小さいながらも雑誌の編集社で、その編集部で常に企画を引っ張っている茂原は、いつだって仕事のことを考えているようだった。

打ち合わせのために街を歩けば、この店がネタにできそうだと写真を撮り、アイデア出しの会議ではどうやって行き着いたか分からないYoutubeの動画を見せてこういう企画をやろうと言う。
おそらく一日中仕事のことが頭の片隅にあって、人生というよりも、もはや仕事を生きているように見えた。

「頭ん中で、ずっとシュンシュン回ってるんだよ。弱くなったり大きくなったり」

香織が「いつ休んでるんですか?」と聞くと、実際、そんな答えが返ってきた。企画についての“頭の中のファン”は、弱まりはしても結局止まることはないらしい。

「いいか牧野、何でも学びになる。なんだっていつかアイデアに変えて活かすことができる。だけど、まずはその種を持ってないと何も生まれない。お前はまずは知識をつけろよ」

ーー今にして思えば、贅沢な環境だったよなぁ。

当時はついていくのに精一杯だった香織も、今ならわかる。茂原は、新米の香織をあらゆる打ち合わせやアイデア出しの会議、取材・撮影の現場に同行させてくれた。

ーー怒られてばかりだったけれど。

それでも、そんな毎日の中で、教わったことは今でも思い出す。

「なんだこの企画書は。こんな情報で読者が満足するか? もっといいネタもってこい!」

まだ耳に残る、その一声だ。
それで延々とネット検索し、手当たり次第に関連書籍をあさり、果ては個人ブログやSNSアカウントでの口コミなんかも洗い出し……そうして、読者のうちなる声に答える企画を見つけ出す。
それは、まるで泥まみれで続ける、地道な油田探索のようだった。

ーーきっと、香水に振り返ってしまうのは、あの人が私を変えたからだ。

恋人ではないけれど、まるでそれぐらい大きく、茂原は香織の生き方を変えてしまった。

おかげで今の香織は、うわべだけの社交辞令はすっかり苦手になって、話すのなら意味のある会話がしたいし、目的への最短距離を無意識に考えてしまう。

分からないこともどうやって情報を手に入れればいいか探すポイントも分かってきた。茂原がいつも即座に正確な情報にたどり着くのは、情報捜索にもコツがあったのだ。

ーー茂原さんと比べたら私なんてへでもないだろうけれど……

それでもいつも「答え」ではなくて「答えへの辿り着き方」を教えようとしてくれていた。だからこそ、退職した今でも、香織はその方法を続けられるのだ。

「はい、これ」

最後の出勤日、茂原はなんでもないように細長い封筒を渡してきた。こんなによくしてくれた上司の元を去るのだ。香織は申し訳なくて仕方なかった。

けれど、特集取材をきっかけにハマった演劇の世界への魅力には抗えなかった。その舞台をつくる側で働きたくなったのだ。

「なんですか?」

聞こうと思ったときには、茂原はもうタバコを片手に喫煙所へ歩き出していて、いつも通りにいかり肩が揺れていた。

しょうがないので、ひとまず自席に戻って、そっと封筒の中をのぞくとーーー
そこには、香織が今度見たいと思っていた舞台のS席のチケットが入っていた。途端に、視界が滲んでトイレへ駆け込む。

ーーあぁ、茂原さんって、どこまでも茂原さんだ。

退社の日に飲み会でも、花束でもなく、演劇のチケットなんて。
相手が一番求めているものを考えるのがサービスだって、それは入社して一番最初に教わったことだ。

私も、この人から教わったことを、ずっとずっと、続けていこう。
そう強く思ったのが、最後の出勤日だった。

こんな風に香り一つで、記憶はどこまでも飛んでいってしまうから。

ーーまた、この香水に振り向いてしまうだろうな……

その香りの先にいつか、本当に茂原の姿を見つけたときは、どんな話ができるだろうか。
そう思いながら、今日も前へ歩き出す。

ーーーーーーーーーーーー

この記事は「フィクション」です。
けれども実は、実体験の成分を多く含んでいます。

というのも、「茂原」は私の前職の上司をモデルとしているからです。

私は今、『天狼院書店』という次世代型書店で働いていますが、この「モデルの上司」と天狼院書店 店主の三浦さんが、重なって見えることが多くあるんです。二人ともいつだって目的を持ってそこへの最短距離を描いて、実行できる人だからでしょう。

そんな三浦さんが「独りで、学び続けるための方法」を今度、講座で公開するという。
誰にも教えてこなかったのに、学習スタンスから具体的な方法論まで徹底的に伝授するというのです。

そんなのは、小さな東京の書店を全国十店舗にまで拡大させて、今なお多数のコンテンツを生み出し続けている三浦さんの頭の中を、半分見せるようなものじゃないか。
本来なら四六時中ベタ付きで三浦さんの生活を監視してようやくわかることを、本人自ら綺麗にまとめて教えてくれるなんてーーー

そう思うと、新卒時代の日々が蘇ってきて、こうした小説になりました。
いやぁ、「教えてもらえる」って本当に幸運なことです。
ちなみに、三浦さんがやるというその講座、名前は、

「無限ラーニングZ」

無限に学び続ける。あぁ、そういう人たちだよな、と眩しくなります。

けれど、やり方を教えてもらえるんだったら、自分もそういう人間になれるかもしれない……
無限に学び続けるそのやり方を、教えてもらえるんだったら、ぜひ学びたい。

どうでしょう、あなたも一緒に、「答え」ではなく「その答えの見つけ方・学び方」を習得してみませんか?
あの時、学んでいたから今がある。そう思う日が来るかもしれません。

***

この記事は、天狼院書店の大人気講座・人生を変えるライティング教室「ライティング・ゼミ」を受講した方が書いたものです。ライティング・ゼミにご参加いただくと記事を投稿いただき、編集部のフィードバックが得られます。チェックをし、Web天狼院書店に掲載レベルを満たしている場合は、Web天狼院書店にアップされます。

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2022-07-06 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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