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メディアグランプリ

やる気を引き出す魔法の言葉


*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜

記事:高井雄達(ライティング・ゼミ6月コース)
 
 
飲食店ではカウンター席に座るのが好きだ。
手際よく調理をしている姿が間近で見られたり、ちょっと雰囲気の良いお店であれば店員さんと直接コミュニケーションがとれるからだ。
 
その日は、チェーン店の中華料理屋でいつものようにカウンター席に座り、生姜焼き定食を注文した。
注文を聞き、水を置いていってくれた青年はカウンターの中に戻ると、オーダーを他のスタッフに伝えている。
 
「生姜定 ライス大盛りです」
『元気』という言葉からは程遠い、か細い声でなんだかぎこちない。恐らく最近入ったアルバイトなのだろう。
その声に続き、他の店員さんたちの元気あふれる復唱の声が店内に響く。
「はい、生姜定 ライス大盛り!」
 
他の店員が放っている熱さとは全く異なる彼の動きに興味が湧いた。
その後、別の客のオーダーを取った彼が、生姜焼き定食を持ってきた。
「お待たせしました、生姜焼き定食です」
それだけ言うと彼はまたカウンターの中へ戻っていった。
普通、「どうぞごゆっくり」とか、言わないかね?
 
生姜焼き定食を頬張りながらカウンターの中を見ていると、店長らしき人が彼に声を掛けている。タオルでねじり鉢巻をしたその人の横で彼は直立不動のままだ。
二人が並んでいると店長らしきその人の健康的な色黒さが目立つ。
 
「どうだ、鍋振ってみるか」
店長らしき人のその言葉に、普通そういうのは営業時間外にやるもんじゃないのか?と思ったが、この後の成り行きに興味が湧いたのでライスを口に運びつつ、気にしていない風を装って見守る。
 
カウンター席から厨房は見えないが、二人の会話はしっかり聞こえる。
「いいかよく見とけよ。こうやって、手首をちゃんと使って振るんだ、やってみろ」
なんだか『お料理教室 男飯版』が始まったようだ。
 
食事中に人が説教されているのを聞くのは嫌だなぁと思いながら聞いていると、
「そう、そう。いいぞ。その感じ」
「お前、やったことあるんじゃないのか」
「センスあるよ」
 
店長らしき人から発せられる言葉は、全てが彼を褒める言葉だった。
 
「お前が作ったんだから、お前がお客さんの所へ持っていけ」
という会話がされた後、彼はお盆に乗せた料理を注文した客のところへ持って行った。
 
営業時間内に、新人の彼に鍋を振らせ料理を作らせる。そして作った料理を実際に注文した客のところへ届けさせる。『お前』という呼び方がこのご時世では問題視されるのかもしれないが、もしかするとこの一連の流れが、あの店長らしき人の『人材育成』なのではないか?
 
この中華料理屋の育成シーンを間近で見ていて、何年も忘れていたある言葉を思い出した。
それは『SOS』という言葉。
 
今の仕事に転職したのは三年前。それまで約二十年間、教育業界にいた。いわゆる学習塾だ。
塾には個性あふれる子どもたちがやってくる。
小学生も中学生も、そして高校生も皆、個性の塊だ。個性があるからこそ、それぞれ得意なものも違えば、苦手なものもバラバラだ。苦手なものに直面すればやる気が出ないことだってある。
 
そんな時、彼らのやる気を引き出す魔法の言葉があった。
たった三つの言葉で子どもたちは少しずつではあるが、やる気を高めてくれた。
 
「すごい」
「教えて」
「さすが」
この三つの頭文字をとって『SOS』
 
小さな成果を見逃さず褒める。
そして、なぜ出来たのかを自分の言葉で語らせる。
最後にもう一度、違う言葉で褒める。
 
こんな簡単な三つの言葉だが、多くの子どもたちが自分の成長を実感し、自信に繋げてくれた。
保護者から子どもとの関わりについて相談を持ちかけられた時も、この『SOS』を薦めた。
「お子さんとの関わりに悩んだら『SOS』ですよ」
SOSというフレーズが、状況を打開したいというイメージにも合致していて多くの保護者が共感してくれた。
保護者は誰もが何十年と子どもを育ててきた、いわば『子育てのプロ』だ。そんなプロたちでさえ日々成長していく子どもへの接し方や距離感に悩みを抱えている。
 
保護者から「すごい」「(それお母さんにも)教えて」「さすが」と言われれば、子どもたちも悪い気はしない。それが自己肯定にも繋がり、次への一歩となる。
 
決して難しく考えず、簡単な言葉で相手を褒めてみる。
大人も子どもも褒められたら悪い気はしない。むしろ更にやる気が出る。
 
恐らく中華料理屋のあの育成は、オフィシャルなものではなく、あのねじり鉢巻でちょっと日焼けした店長らしき人が、今までの経験から導き出した手法なのだろう。
本来であればチェーン店で新人にいきなり鍋を振らせて調理したものを、客に提供するなんてあるはずもない。しかし、あの店長らしき人は『褒める』という一番大切なポイントを押さえることで、その育成方法を形にしている。
 
転職して三年が経過し、部下を六人まとめる立場になった。
昔を思い出して、あの店長らしき人のように褒める育成をしてみよう。
きっと『SOS』はいろいろな場面で通用するはずだ。
 
生姜焼き定食を平らげ、レジへ向かうと鍋を振った彼が会計をしてくれた。
「ありがとうございました!」
注文を聞きに来た時に比べ、格段に元気な声で見送られた。
数週間後の成長した彼に会いにまた来よう。
そういえば、店長らしき人の「センスあるよ」も『S』だったなぁ

 
 
 
 
***
 
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2022-07-06 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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