メディアグランプリ

視力は私らしく生きていくための覚悟

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*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜

記事:中川宏子(ライティング・ゼミ6月受講)
 
 
「あれっ?ジャンケンしてる?」仕事で子どもの卓球試合の審判をやっていた時の事だ。
「サーブどっちがやるか決めよう。ジャンケンしてね」と自分で言ったのに、子どもの指が見えない。……というより視界にないのだ。「これは何が起きてる?ただの視力低下じゃないぞ」審判の位置から一歩下がって見る。指先が見えてきた。もう一歩下がって見る。ようやく両方の指が見えた。こんな状態が続いていたが、下がればみえるから、まぁいいやって思ってた。
それが今度は足元を歩く幼児にぶつかる事が増えた。仕事柄(子どもの遊ぶ施設で勤務中)あってはならない事だが下を見ないとぶつかってしまう。「ごめんね」の回数が増えた。段々そろり、そろりと歩くようになった。
ある夜、地下鉄を出ると植え込みがある事がわからず、止まっていた自転車に倒れこんだ。自分では何が起きたかわからない。いや、倒れこまれた自転車の方が驚いたに違いない。
友達と夕食に行った帰り道の事。階段の段差が見えない。手すりにつかまって一歩、一歩確かめながら下りる。そろりそろりとすり足で。笑いながら見ていた友達は「何やってるの?酔っぱらってる?」と私が見えない事には気が付かない。
 
次々と珍現象が起こる。何が起こってるの?
 
映画に行く。「しまった。CM始まっちゃった」慌てていくが会場はすでに暗くなっていた。席がわからない。シートNOなんて真っ暗で見えない。階段も見えないから怖くて歩けない。助けてくれる人はいない。仕方なく座り込んでずりずりと階段を下り、手探りで何とか席にたどり着く。
 
元々生まれつきの強度近視で幼稚園の時から眼科に通っている。小学1年生の時から牛乳ビンの底のようなレンズの眼鏡をかけていた。少々の見えにくさはいつもの事。でも、今回は何かが違う。これはきちんと症状を話して診てもらおう。主治医に最近の様子を話し、視野検査をする事になった。カーテンで仕切られた小部屋に置かれた検査台に顎をのせ、額をつける。正面を見たまま顔は動かさずに左右上下から出てくる小さな光が見えたらボタンを押す。「始めます」と言われたのにちっとも光は見えない。「始まってますか?
」と聞こうと思ったところに、サッ~と光が通った。良かった! 見えた。光の大きさが変わる。真ん中まで来ないとわからない。でも見える。
20分ほどの検査が終わった時には集中していたせいかぐったりだった。検査は疲れるものだ。
しばらくして診察室に呼ばれる。結果は……「んっ~、見えてないね」「右目は視野が半分だね。真ん中から欠けてるね」覚悟はしていたもののそこまで見えないとは……泣きそうになる。先生曰く「現状維持を目指しましょう」私はこの言葉にしがみつき、呪文のように唱える。「現状維持、現状維持」
病名は緑内障。とうとう来る時がきてしまった。眼圧を上げな事が現状維持の必須事項。この日から本屋で「緑内障」と書いてあるものは片っ端から手に取るようになった。
 
治療が始まって10年近くなる。眼圧は上がらないが視力低下と視野狭窄は進んでいる。昼間でも街のちょっとした段差がわかななくなった。すり足で確かめながらゆっくり歩く。人混みでは歩く人達が私に向かって来るように思える。よけようと思えば思うほど、とにかく人にぶつかるのだ。「すみません」の回数が増えていく。
今、私が欲しいのは白杖だ。しかし、そう簡単には手に入らない。認定が難しいらしい。矯正視力0.2以下。私は0.4程度…… 見えなくなるのがいいのか、このままがいいのか非常に悩ましい。障害とも認められず、困難ばかりが訪れる日々。いつか大ケガにつながるのではないかと思いながら歩く毎日は辛すぎる。「白杖がほしい」と言うと先生は真顔で答える。「自分で杖を白くしたらどうかしら。作ってみる?」と。そして、メソメソする私にこうも言う。「来る時は来るの。覚悟しなさい」と。医者の言葉かと信じがたいがこれくらい言ってもらわないと現実を受け入れる事は難しい。……と言い聞かす。
 
新聞、雑誌、最近はテレビでも「こんな風に見えたら緑内障かも。眼科で検診を」なるCMを度々見かけるようになった。「自分には関係ない」と思わず、早めの検診をお勧めする。
見えなくなるのは死ぬより怖いけれど、考えても良くなりはしない。どんなに祈っても奇跡は起こらない。ならば、見えてるうちに「やりたい事をやろう!」「やりたい事をみつけよう!」
 
今朝も目を開けるとまだ見えている自分がいた。
 
 
 
 
***

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2022-07-20 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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