メディアグランプリ

素直になれない天邪鬼の二人


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人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜

記事:今村真緒(ライティング・ゼミNEO)
 
 
さっきから、同じ話が堂々巡りだ。ふと壁の時計を見ると、この話題で30分は経過している。
いや、別にいいいけど。今日私ヒマだし、仕事入っていないし。たまにしか話できないしね。
だけど、いつも最後に顔を曇らせるのが気にかかる。それ、どうにかできないのかなあ?
 
マシンガントークの主は、私の母親だ。久しぶりに私の家に来て、もう帰ると立ち上がりながらも話し続けている。近況報告やら、近所で起こった出来事やら、聞いてもらいたいことがたくさんあるのだろう。次から次へと喋って、疲れないのかというくらいのスピードだ。私が1つ答えると、10倍くらいの量が返ってくるからなかなか話が先に進まない。体に溜めこんでいたものを全て吐き出し、デトックスの終わった母親は、そして最後に必ずこう言う。
「お父さんといても、独りみたいなんだよね」
 
うーん。二人の性格の違いを知っている私には、どう答えるのが正解なのかいつも口ごもってしまう。社交的で賑やかなことが大好きな母と、寡黙で職人タイプの父。真逆の性格の二人が一緒にいるのだから、そこは互いに補い合えばいいじゃないと昔から言ってきたつもりだけれど、そう上手くはいかないらしい。
 
おまけに80歳が近づいてきた両親は、二人して耳がとても遠い。実家に行くと、テレビの音量にビックリすることも少なくない。補聴器は外で必要な時だけしか付けない! と言い張るところはよく似ているのだけれど。お互いに「言った」「言わない」で口喧嘩になり、コミュニケーション自体が億劫になっているらしい。母に言わせると、「どうせお父さんに言っても無駄」と諦めて平行線になっているようだった。
 
私から見れば、どちらがいいとか悪いとかの問題ではなく、ただお互いが歩み寄ればいいように思える。二人ともよく聞こえていないのなら分かるように伝える努力をするとか、反発されないような言い方を工夫するとか、やれることがあるはずなのだ。それすらも歳を取ったから面倒くさいと言われれば、私にできることは、たまに二人の会話を意訳するくらいしかないように思えてくる。
 
けれど、これは今に始まったことではない。私の両親は、揃いも揃って頑固なのだ。自分の考えを曲げない母親は昔から主張が強かったし、母にどんなに言われても、自分の思うまま自由に行動する父もまた強者だった。アクの強い二人が険悪ムードになれば一触即発の事態になり、娘の私の頭には「混ぜるな、危険!」の文字が点滅するのだった。
 
母が愚痴をこぼす頻度に比べれば、父がぼやくことは少なかった。元々口数が少ないというのもあるが、どちらかといえば胸にしまってきたことも多いのだろう。それでも、私と二人になれば父にしては珍しく軽口を叩いて、こっそり同意を求めたりするのがおかしい。口では負けてしまう父に同情するところもあったから、母には内緒で話を聞いたこともある。
 
私たち姉妹が家を出て二人きりになった家で、それでも両親はどうにか折り合いをつけながら暮らしてきた。外向きの母は、友人や地域の人たちと関わることで生き甲斐を見いだそうとしてきたように思えるし、内向きの父は、仕事をしながら趣味の書道や野菜作りにやり甲斐を求めてきたように感じる。それぞれが別のベクトルに顔を向けていて、その隙間を埋めるものが見つけられないのだろう。
 
そうはいっても、胃の手術をしたのによく食べると愚痴る母は毎日手作りの弁当を父に持たせるし、父は母に頼まれれば庭に花を植えてDIYで何か作ってあげている。持ちつ持たれつでいいんじゃないかと思うけれど、何かと張り合って小競り合いをする二人は、娘から見ればおとなげなく追いかけっこをする「トムとジェリー」のようだ。
 
長年連れ添う夫婦には、いろんなことがあるというのは自分でも経験済みだ。いつも笑顔でいるのが難しいことだってある。それでもなお、老親に仲睦まじく過ごしてほしいと思うのは私のエゴだろうか。何かと葛藤の対象だった母が一回り小さくなったことや、2年前に大病を患った父の細い足に、老い先の頼りなさを感じずにはいられないのだ。
 
母がいつも呟く「お父さんがいても、独りみたい」というのは、自分の話し相手になってくれない父への恨み言に聞こえる反面、憎まれ口を叩く相手がいなくなってしまうことへの恐怖なのかもしれない。父は父で、普段は文句を言っても母の体調が悪いと元気がなくなる。素直になれない天邪鬼の二人は、本当はとても不器用なのかもしれない。そんなこと言ったら力いっぱい否定されそうだけど、いつまでも仲良くケンカしているくらいが丁度いいのかもしれないなと複雑な気持ちになる。
 
とりあえず娘の私は、話をたまに聞いて母のガス抜きをし、父が書いてくれた習字のお手本を練習して添削してもらおう。そして二人が互いの話を勘違いしているときは、間に入って通訳しよう。そして、いつの日か来る老後のために、夫との関わりも子供に心配されないくらいに良好に保つようにしよう。ヤマアラシのジレンマのように、素直になれない関係になってしまわないように。人生100年時代の折り返し地点で、ふとそんなことを思った。
 
 
 
 
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2022-07-20 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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