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鉄旅2022~電車で中国地方を横断する


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記事:吉川和美(ライティング・ライブ大阪会場)
 
 
「わたし、電車好きなんですよね」と言ったときの「電車」には、ある鉄道オタクの方の分類によると、何をオタク的に愛でるかによりざっと以下の種類があるのだという。
 
撮り鉄(写真撮影)・乗り鉄(乗車)・葬式鉄(廃止路線や車両のラストラン)・探検鉄(廃線跡や秘境駅)・音鉄(走行音や駅アナウンス)・収集鉄(鉄道関連品)・技術鉄(鉄道工学)・車両鉄・時刻表鉄・模型鉄・ミステリー鉄(鉄道ミステリー)など
 
それらの鉄道オタクがキラキラと目を輝かせて話題にする列車の一つが、中国地方を横断する西日本屈指のローカル路線、「木次(きすき)線」を走る名物列車「奥出雲おろち号」である。
 
「おろち号」の何がすごいというと、直線距離1キロメートルで標高差162メートルを登る設計になっており、まっすぐに登れないため「3段式スイッチバック」という、2回に分けて方向を変えて登っていくという仕組みを採用していることだ。山奥を走る景観美に、西日本ではこの路線のみでしか見ることができない希少性がある。そして非常に残念なことに、2023年で廃止が決定している。
 
終点の「備後落合」駅は、2020年における1日の平均乗車人数はわずか7人という秘境ぶり。1時間ではなく1日の人数である。乗車人数に合わせて本数も少なく、うっかり降りてしまうと次の乗り継ぎまで数時間となるが、周りには森と川しかない。
出雲市から大阪に帰るのに、特急やバスを利用すれば4時間程度に対し、この駅を経由してしまうとたっぷり10時間はかかってしまうという酔狂な旅である。
 
それでも、列車の写真を何とか撮ろうという撮り鉄兄さんから、有名なローカル電車に乗ってみたいという乗り鉄お嬢さん、廃止になる前になんとか一度!という葬式鉄、秘境に惹かれた探検鉄、スイッチバックの仕組みが見たいという技術鉄に車両鉄、どうやって効率的に1日で移動するかを考える時刻表鉄・・・・
 
ありとあらゆる鉄道オタク(実は私もその一人である)に愛されるこの列車に乗ってきた。
 
まずはチケットを取るのに苦労した。一日1往復、定員64名を、名だたる旅行会社のツアー客と取り合う。もちろんお金に糸目をつけず、ツアー代金を何万円もかければ予約できないこともないのだが、もともとの価格は乗車券と指定席券合計2千円程度である。節約鉄、とでも呼んでほしいが、ここをいかにリーズナブルにおさえるか、も、ある種鉄道オタクの醍醐味である。
 
実際乗ってみると、1人参加の方も多い。横のご夫婦は、大きなスライムのぬいぐるみを帯同しており、駅に着くごとに、ご自身の代わりにスライム君と一緒に写真撮影していた。きっと、あとでSNSにあげるんだろう。鉄道オタクの皆さんは、1人参加でもグループ参加でもシャイなのか何なのか、お互い交流することなく鉄道の旅をそれぞれの方法で楽しんでいる。
 
「おろち号」の素晴らしいところは多々あるが、ガラス窓がなく開放的である点もその一つである。良いお天気のなか、さやさやとした葉っぱのすれる音や時折なる汽笛(この音がまた、旅情と哀愁と奥出雲情緒をそそるのである)を聞き、流れゆく車窓を見ながら風を切って走る列車に乗っているだけでも気分がよい。
 
いくつかの駅で、名物のプリンだったり、駅長による数量限定の手打ちそばだったり、地元の湧き水に焼き鳥等々、を買い食いしながら進んでいくうちに、メインのスイッチバックに到着した。
 
客車側が先頭となったり最後尾となったり切り替わりながらずんずんと坂を登っていくと、右側の車窓のはるか眼下に、先ほど登ってきた出雲坂根駅を見下ろすことができる。登る前ははるか上空にあったはずの道路は、日本最大規模の二重ループ方式で、「奥出雲おろちループ」と命名されている。名前の由来はもちろん、日本書紀の「ヤマタノオロチ」だ。
 
はるばる時間をかけて、これに乗りに来たのだ。
 
鉄道ファン同士であれば、「おろち号乗ってきた」と言えば、そこまでの道程、かかった時間、さわやかな風と汽笛、素晴らしい景観、駅で食べた諸々、スイッチバックを見た感動、それらすべてを一瞬のうちに共有できるはずである。
 
備後落合での待ち合わせを経て大阪に戻るまでの10時間、私はこのローカル線のゆったりした旅がいかに素晴らしいか、について、何人かにメールした。
 
「奥出雲おろち号、控えめに言って最高だったわ」
 
「へえ、そんなに素敵なんだ。私も乗ろうかな」
 
感想を送った全員から前向きなコメントがあったけれど、正直、この旅を全員に勧めることはできないとも思っている。
 
別にこれに乗っても乗らなくても何も人生は変わらない。来年廃止になったら必要に応じ代わりの何かが走るだろう。乗車人数が少なすぎていつか廃線になるかもしれないが、もともと、車で移動するほうがよほど便利な区域である。
 
それでも、目の前の一本の線路がいったいどこまで続くんだろうと延々と想いを馳せられる、そんな鉄道好き諸氏には時間を見つけてぜひ乗っていただきたい。
 
そしていつか、「おろち号」の廃止後長い年月が過ぎ、すっかり想い出になったころ、
 
「私も昔、乗ったわ」
 
と、ふと出会った人とお話できたら、こんなに素敵なことはないと思っている。

 
 
 
 
***
 
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2022-07-27 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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