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アフリカのサバンナにあるカバが作った道に見る、脳神経の可塑性の話


*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜

記事:まつりか (ライティング・ライブ東京会場)
 
 
アフリカ大陸の南部の国「ボツワナ」にある世界最大級の湿地帯「オカバンゴデルタ」は、あらゆる世界の果てを訪れた私にとって、人生の中で最も印象に残る絶景BEST3に入る。
 
もちろん、この地球の絶景を知ってもらい、訪れてもらいたい場所ではあるけれど、
今回は、この場所を訪れることで、私が思いがけず腑に落ちた、ある”脳の性質”についてお話ししたい。
大自然は、普遍的な生き物の構造を、拡大解釈して私に教えてくれた。
 
そこは、どこまでも続くサバンナ。
地平線に見えるその大地の果ては、一体どのくらい遠いのだろう?
距離の予想は全くつかないスケール感だった。
広い空はいつでも晴れていて、湿度の低い乾いた気候から、日本では見ないような浅い水色をしていた。
数時間車を走らせていくと、その湿地帯「オカバンゴデルタ」のスタートポイントが見えてきた。
水面にはパピルスがびっしりと群生して、この先の景色一帯を艶やかな緑色にし、所々に睡蓮が可憐に花開いていた。乾いた白い大地のサバンナから突如切り替わった、生き生きと鮮やかな緑と水の世界に、私は心を奪われた。
 
底の浅いこの湿地を進む手段は、モコロという、現地人が昔から手作りをしてきた手漕ぎのボート一択だった。モコロは丸々一本の木の幹をくりぬいた形の丸木舟で、中に座ると、幹に包まれるような手掘りの優しいカーブに包まれた。とても安心感があった。水面に直接体育座りをする状態の目線の高さは、二足歩行の普段の歩く目線ではなく、低く、動物の視界と同じように感じられた。
海でも湖でも川でもない大湿地帯は、波も流れもなく、ほとんど無音に近い程静かだった。
人間の世界、ではなく、空と水と植物とたまに動物の世界。
 
パピルスの静寂を進んでいく中で、ふと気づいた。
モコロ一艘分ぐらいの幅が、水路のように細く長く続いているのだ。
モコロは当然のようにその隙間を進んでいく。
「人として存在感を感じないこんな世界にも、人は、船の通り道を作っていたんだな」
人間の通る道は、当然人間が作ったと、私が疑問なく思った時、モコロを漕ぐボツワナ人のスチュワードが、気まぐれに話し始めた。
「パピルスが掻き分けられて水路みたいになっているだろ? これはヒポの通り道なんだよ」
ヒポ? ああカバのことだ。ここは……カバの通り道だったのか。
 
元々はここにも他の場所と同じように、艶やかなパピルスが伸びていたのだ。カバが、住処やえさ場を何度も何度も、何度も何度も、その重たい身体で行き来する中で、ようやくいつしか道のようになっていったのだ。これは、カバが作った道だった。
 
この時私の中に、今いる自分の状況が俯瞰して舞い降りてきた。
例えていうなら、今自分の手元からドローンを放ったような映像だ。
自分の手を離れたイメージのドローンは、空に向かって上昇していく。徐々に自分と、自分が乗っているモコロが見え、それがカバの道の中に浮かんでいる。さらにイメージのドローンは上昇し、カバの道は、生い茂るパピルスの中の一筋になっていく。
さらにさらに上昇し、カバの道は今私がいる一本道の他にも無数に通っていた!
パピルスの大草原の中を大量の回路のように、いくつものカバの道が通っているイメージが舞い降りてきたのだ。
 

 
脳研究の中に、「脳の可塑性」という論がある。
辞書によると「脳を構成する神経とそのネットワークは固定したものではなく,脳には自分とその周辺の状況に応じて変化する能力があること(『ブリタニカ国際大百科事典』より)」とある。
簡単に言うと、学習や練習などを繰り返し行うことで、一過性ではなく持続的なネットワークが構築されることを指す。例えばピアノを弾く時に、最初は全く思い通りに指が動かないのに、練習を重ねることで徐々に指が動くようになっていくようなもので、脳は、学習によって新たな回路を築くことが出来る。
現代の私たちの生活はかなりの割合をルーティンワークで過ごしている。そのため日常では脳の極々わずかな一部分のみを使っている。
 
カバの道は、この「脳の可塑性」を地球規模で見たような体験だった。
普段使わない脳の部分は、まさにパピルスが生い茂る無限の湿地帯のように、そこを道として歩くことはない。つまりその“思考回路”“神経回路”を使うことはない。
けれど、カバの毎日の生活のように何度も何度も意識的に行うことで、パピルス地帯を徐々に、徐々に、道とすることが出来る。道になるまでにはある程度の時間がかかるけれど、一度道が出来ると、その道、脳に言い換えると“思考回路・神経回路”が簡単に、優先的に、使えるようになるのだ。
 
私はヨガを長年行っている中で、体の動きを通じてこの作用を知った。「自分の動き」は知っているようで気にも留めないものだけど、実際は、得意な部分(=既に道が出来ている部分)が単に繰り返し使われているだけで、それ以外の多くの機能を使っていない。つまり、自分の知っている自分の動きは、実際、ほとんど知らないものなのだ。繰り返し行うことで新たな動きが出来るようになる、これは、年齢の問題ではないのだ。
 
同じように思考も、ほとんど癖のようなものだと言われる。
ネガティブ思考も、一つの癖。無意識にいつも同じ道を通っている。他の道=考え方があるなんて、想像も出来なくなる。
これを脱することが、練習で出来るし、脱すると、新たな思考回路が“当たり前”になっていくのだ。
 

 
アフリカの、ボツワナの、オカバンゴデルタのカバのように。
いくつになっても、ゆっくりじっくりと、新しい道を築くことが出来る。
その道は、歩き続けることで出来る一方で、歩かないと作られない。
 
日本はおろか、人間社会そのものを抜け出したようなこの場所では、まさに「スケール=尺度」が全く違っていた。日本で生活をしているときには到底感じる事のない”存在感のなさ”がそこにはあり、それは不思議と心地よかった。
 
良い悪いさえも、人間社会の勝手な判断であるし、個人的な思考や感情なんだな……
すべての施行や感覚をフラットにし、新しいそれを受け入れる準備をいとも簡単にさせたのは、この空間の成せる業だった。
 
意識できないほどルーティンワークに溢れた日常生活の中で、時々「カバの道」を思い出して行きたい。
 
 
 
 
***
 
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