水+油=最高のドレッシング?
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記事:欅あかね(ライティング・ゼミ6月コース)
唐突ではあるが、「ごほうのサラダ」と言ったら、あなたはどんな味を思い浮かべるだろうか?
もし、ごぼう嫌いだったら申し訳ない。
その場合は、好きな食材に置き換えて、しばらく、ドレッシングの話におつきあいいただきたい。
「ごぼうサラダ」と言ったら、ほとんどの場合、スーパーやコンビニで見かける、マヨネーズ味を思い浮かべるのが定番ではないだろうか。
それはそれでおいしいのだが、もし、料理好きなら、酢醤油で下茹でしたごぼうと小さくちぎったレタスを粒マスタードのドレッシングで和えた「ごぼうサラダ」も結構おいしいので、おすすめだ。
粒マスタードのドレッシングは、酢、オイル、塩、こしょう、粒マスタード、隠し味におしょうゆと、材料はいたってシンプルだ。もし、華やかさをプラスしたいのなら、パセリのみじん切り、コクを出したいなら、にんにくのすりおろしを入れたりするが、あくまでもお好みで。
学生時代にこのドレッシングのレシピを覚えてから、いろいろな食材にかけて楽しんでいるが、あくまでも、たまにだ。普段はシャカシャカ振ってできあがる市販のドレッシングにお世話になっている。
ドレッシングは、手作りにしても、市販にしても、ほぼ必ず、攪拌作業が加わる。
それは、酢とオイルがもともと分離しているからだ。
混ざりあっておいしくなるのだが、これらがもし、人間同士だったらどうなるだろうか。
別に人間を食らう話ではない。会社での話だ。
ビールを水のように飲む、すーさん(仮称)。
すーさんと私は、もともと違う業務を担当しているが、この7月から、あるプロジェクトの事務局も兼任している。
私自身、プロジェクトに関する知識が乏しく、大量に買い込んだ書籍を自宅で読み漁ろうと帰り支度をしていたら、
「勉強会するぞ~」
と言う、すーさんの一言で、あっという間に居酒屋に連行されてしまった。
人懐っこい彼ではあるが、頭がガンガン痛くなるまで飲まされると、いつのまにか、私の担当業務がちゃっかり増やされているのは抜け目ないところだ。
一方、営業畑のおーちゃん(仮称)。
誰もが知っている超一流大学出身で、仕事もできると評判の彼。
日中はほとんど外出しているので、夜残業していると、彼とよく会うし、お菓子ももらう。
おーちゃんに餌付けされているとの下馬評だが、私はいたって普通に、おーちゃんとおしゃべりしながら、バリバリお菓子を食べている。
そのおーちゃんも、私と同じプロジェクトの事務局に任命された。
このお二人、すーさんとおーちゃん。
私はどちらとも普通に話すが、お二人さんがまともに口を聞いているところを見たことがない。
所属部署が異なるせいだとずっと思っていたのが、男性同士のプライドというのか、ウマが合わないというのか、仲の悪さはどうやら役員の間でも周知の事実のようだ。
プロジェクトがあらゆる分野のメンバーを必要とすることから、すーさん、おーちゃん、私の3人に白羽の矢が立ったわけだが、如何せん、この2人とどうやったらうまくいくのか見当もつかない。
3人の中で私は一番職位が低いけれど、事務局は矢面に立つことが多いので、上司からは、同等の立場で業務に当たれと指示を受けていたから、気後れせず、対処しているつもりだ。
たまたま、プロジェクト発足の少し前に、オフィス内の席替えがあった。条件がそろうと、
すーさん → 私 → おーちゃん が一直線上に並ぶ瞬間がある。
先週、その一瞬を狙って、私は前後の空気を読んだ。
人の感情を読みすぎてやっかな、いわゆるHSPである私だが、どうしたらうまくいくのかを手っ取り早くつかむには、あえて空気を読みにいくことがある。
お二人の空気は、水と油。
すーさんとおーちゃんの間にいる私、何か攪拌機のような、界面活性剤のような役割ができないかしら?
ただ、この実験には必ずおまけがついてくる。週末は寝込んで使い物にならないというおまけだ。
我が身を張った実験に何の成果も得られず、おまけに、通勤途中でぎっくり腰になってしまうという最悪な状態で出社すると、プロジェクトの取引先とおーちゃんのメールが炎上していた。
炎上の原因は、事務局である3人の連携がうまく取れていないことにあったのだが、すーさんは一切関わろうともせず、午前中、私一人で火消しに当たる始末だった。
「私たち、おいしいドレッシングになれないのかな?」
ランチのサラダを食べながら、3人のこれから先のことを思いやると、そんなボヤキしか出てこない。
ぼんやり、スマホを見ていると、天狼院書店の「プラクティス・リーディング・プロジェクト」なるイベントのお知らせが目に入る。一冊の本を読んで感想を話し合うだけで収まることなく、どうやら、実践して、仮説を検証するというアウトプット型の読書会のようだ。今度の課題は、リーダーシップ本が対象だ。
3人の間での自分の職位という現実に囚われていたけれど、これはもしかしたら、最高のスパイスではないのか?
そんな直感と、どこか願いを託しながらも、ポチっと申し込んだ。
帰宅後、課題本をパラパラめくると、
『「素顔」のままで、疲れ果てるか。「仮面」をかぶり、生まれ変わるか』
ぎっくり腰の私は、その文言で、もうズキューンと撃ち抜かれてしまった。
この本を実践後、3人にどんな変化があらわれるのか、今から楽しみだ。
私自身がメインの粒マスタードになってみようかなんて、大げさなことは思ってもいないが、せめて、隠し味のおしょうゆになって、最高のドレッシング、もとい、最高の組織ができあがったらいいなと思っている。
***
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