「頑張って」「自信をもって」にモヤモヤしたら
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人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜
記事:ほしのちかこ(ライティング・ゼミ8月コース)
「いるだけだと得られないものが動くと得られるよ」
18年前、学生時代に所属していた団体で、好きな先輩のひとりからいただいたアドバイス。そして長年私を苦しめた呪いの言葉でもある。
私は彼女を好きだったし、このアドバイス自体は微塵も間違っていない。正論である。この団体では特にリーダーシップを求められていて、「主体的に動いたほうが良いよ」と他の人からも言われていたし、私自身もそう思っていた。そうしたかった。できるものなら。私だって、先輩たちのように、自分で考えて動くかっこいい人になりたかった。
素敵だなと思える先輩がいたから入った学生団体。私は、好きな先輩たちの役に立ちたくて、先輩たちのサポートを頑張っていた。その活動の中で、様々な考え方を知って自分の世界が広がっていくのが楽しかったし、人との交流にも積極的になった。むしろ先輩たちと一緒に活動することと、世界を広げること自体が、私の目的となった。その目的は、活動の主体となることを求める団体には合わなかった。
そうして1年近くが経っても、自分が団体の中でやりたいこと、主体的に動けることなんて見つからなかった。憧れの先輩のようにはなれなかったし、なれる見通しもなかった。きっかけは他にもあるが、私は1年半でこの団体を辞めた。
冒頭のアドバイスに当時は何も言えなかったが、私は「どうしたら動けますか」と聞きたかった。周りのみんなは自然に動けているのだろうか。どうしたら動けるのだろうか。主体的とはどういう状態なのか。やりたいと思えることはどうしたら見つかるのだろうか。誰も教えてくれなかった。
好きにはなれない同様の言葉は他にもある。
頑張って。勇気を出して。努力して。自信をもって。当事者意識をもって。
無責任だ、と以前は思っていた。誰もその方法は教えてくれないのに。誰にでも言える、そんなアドバイスはいらない。「勇気を出して挑戦したら上手くいった」なんて、何のアドバイスにもならない。それなら、どうしたら勇気を出せるのか教えてほしい。そんなふうに思っていた。
その団体を辞めたあとも、「主体的に」をはじめ、これらの言葉は長年私を苦しめ続けた。
過去所属した組織ではもちろん自分なりに頑張っていた。自分が自然に頑張れる環境を探し当てることは上手くなった。でも、人のサポートをすることが好きな私にとって、活動の主体となるのは難しい。頑張っても頑張っても自信をもつことができない。そんな繰り返しからようやく脱しつつあるが、未だに、時々この言葉を思い出しては落ち込み、仕事について悩むこともある。
もちろん、頭ではわかっている。
様々なタイプの人がいて、関わり方、頑張り方は人それぞれ。企業も、自分で事業を立ち上げる人だけがすべてではない。そういう人を支える人も必要だ。自分の役割の中でどう頑張るか、ということも大事だ。
自分がどうしたら主体的に動けるかは、自分で見つけるしかない。上司や同僚が一から十まで教えてくれるはずがない。自分で考えて答えを出さなければいけない。どんなことなら、どんな環境なら頑張れるかも、100人いれば100通りの答えがある。だからこそ、具体的な方法のアドバイスは簡単にはできない。学生時代、素直に先輩に相談できていたとしても、きっと簡単には答えは出なかっただろう。
頑張って。勇気を出して。努力して。自信をもって。当事者意識をもって。主体的に動いて。
これらの言葉はSNSの「いいね!」と似ている。
「いいね!」にはいろいろな意味が込められる。応援しているよ、大変だったね、素敵だね、良かったね。あるいは「読んだよ」くらいの軽い反応のときもあるかもしれない。
これらの言葉をアドバイスとして受け取るほうが間違っている。これらの言葉だけ伝えられたら、「応援しているよ」に変換してありがたく受け取るといい。
私自身も「頑張って」と言うときはある。私生活でも、キャリアコンサルタントとして人の相談にのるときでも。でもこの言葉を使うときは、細心の注意を払う。
相手は自分なりの頑張り方を持っているだろうか。次に何をするか決まっているだろうか。話が終わったあとにすぐに動ける状態だろうか。そもそも、すでに十分に頑張っているのではないだろうか。
相手が自分なりの頑張り方を持っていて、あとは動くだけ、というときにしか「頑張って」とは言わない。応援の気持ちを伝えるために。最後に背中を押すために。その人なりの頑張り方を一緒に探すのも、すでに頑張っている人が自信を持つことができるように伝えるのも、キャリアコンサルタントの役割だ。
言葉は、救いにも呪いにもなりうる。でもSNSの「いいね!」を自ら呪いにする必要はない。「頑張って」という言葉に「もう十分に頑張っているのに」とわかってもらえないことを嘆く必要もないし、「まだ頑張りが足りないと言われているんだ」と自分を追い込む必要もない。「自信をもって」と言われても自信を持つことができない自分を責める必要もない。
どうしたらよいかわからないアドバイスを受け取って不安やモヤモヤした気持ちを感じたら、その言葉自体に悩まずに、具体的な方法を誰かと一緒に考えよう。
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