メディアグランプリ

37歳から婚活をはじめたIT系OLが、板前になった件


*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜

記事:青梅博子(ライティング・ライブ東京会場)
 
 
和食料理人と聞いて、どんなイメージを持つだろうか?
「華麗な包丁さばきでごちそうをつくる和食の達人」私が就職前に持っていたのは、こんな感じだったと思う。
私は会社員として、社会人生活を20年ほど経験したのち、39歳で和食料理人の修行をはじめた。12年勤務した会社を辞め、全日制の調理師専門学校に一年通い、老舗の会席料理店の親方に弟子入りしたのだ。
これを話すと、皆一様に「なんでそんなことをしちゃったの? 馬鹿なの?」と、驚くので、そんなことが馬鹿なのか、よくわからないので、とりあえず書いてみようと思う。
私は美大を出て、デザイン事務所にDTPオペレーターとして3年勤務したのち、会社が倒産したので、家電メーカーに再就職。プロダクトデザイナーとして家電製品のデザインをする仕事に就いていた。
当時、ナチュラルに嫁き遅れ、人並みに「婚活」という行為に奮戦していた私は、どうしたらモテるのかをヒアリングして回っていた。そこで「胃袋をつかめれば勝ち組になれるらしい」という情報を得たので、とりあえず料理教室に通うことにした。
しかし、実家暮らしで、食関連を全て母に丸投げしていた私は、持てるスキルの中に、ひとかけらも「料理」の要素を持ち合わせていなかった。
教室の初日に、まともに包丁を持つこともできず、キュウリだった物体を謎の残骸に仕立て上げた私をみた先生は、それから一か月、私が包丁を持つたびに、食材や人的災害を防ぐため、横で震えながら監視していたくらいだ。
そんな、幼稚園以下のレベルから始まった教室だったが、先生のお人柄に惚れこみ、休まず熱心に通った結果、初級・上級・師範コースと、順調にレベルアップを重ね、ついには先生のアシスタントになることができた。不器用だがあきらめないのが私の良いところだ。
先生はテレビにも出演し、本もたくさん出していらしたので、撮影アシスタントや、撮影用の料理の準備をさせていただき、本当に楽しい日々だった。
しかし、そこまで行ってもまだ「レシピなしではなにもつくれない」というレベルだった私は「料理ができるようになった」という最終目的に到達していないという歯がゆさに襲われていた。もっと本格的に勉強したい……。
この時点で「婚活」目的で始めた料理は、いつの間にか「料理を極める」という目的にすり替わっているのだが、こ、時の私は気づいていない。
ちょうどそのころ出会った、料理研究家の辰巳芳子先生の「いのちの食卓」という本に深く感銘をうけた。読みすぎて本が分解するくらい読んだその本には
「食」とはいのちの仕組みに組み込まれていること、「生きること」と真剣に向き合うためには、「食べる」ことを毎日積み重ねて幸せを作り出すことです。幸せはどこからかやってくるものじゃない、自分で作り出さなくちゃ。
と書いてあり、なんと素晴らしい教えだろう、これは生涯かけて実践すべき!と天啓のように思ったのだった。
……と書けば格好いいのだが「やり始めたら止まらない」気質の私が、打ち込むことを見つけたが最後、大喜びの大興奮で、いのしし的に突進して行っただけだったのだなと、今書きながら腑に落ちてはじめている。
ちょうど職場の対人関係が上手くなかったので、逃げ出す格好いい理由を探していたことも、さらに行動を加速させた。
自分の都合よくものごとを解釈しがちな、おめでたい系思考の私は「職場の環境が悪いのも、次へ行けという啓示なのだ」とへ理屈を強化し、親や友人の「正気に返れ」という、正しい助言をふりきって、きっぱり会社を辞め、全日制の調理師専門学校に入学した。
しかし、当時37歳だったので、卒業後、この年からまともに料理の修業をさせてもらえることはなかろうと思った私は、都内で唯一「介護福祉専門調理コース」がある学校をチョイスした。調理師免許と共に5つの介護資格を取れるので、これなら年寄りでもなんとか就職できるだろうという悪知恵を発揮したのだ。
入学後、あれ私ってば、なんで18歳のぴちぴち学生に囲まれて、こんなことをやっているのかしらと、ふと我に返ることもあったが、新しいスキルを身に着けるのが大好きというゲーマー的特性をもっていたので、大変だけど楽しい日々だった。
就職相談の際、先生が「お前本当に介護でいいのか、やりたいことがあるなら言っとけ」というので「本当は和食の修業がしたいのです」とぽろりとこぼしたら、翌日いきなり「都内の高級料亭の親方が面接してくれるから行ってこい」といわれ、「こんな名門が、なんでこんなおばさんを?」と思いつつも、ドキンコドキンコと胸を高鳴らせて面接に向かった。
「修業は厳しいが続けられるか」と言われ、修業させてもらえるだけで奇跡と思っていた私は、深く考えずに「よろしくお願いします」とうっかり頭を下げてしまったのだが、その時、親方が就職課の先生に出したオファーが「少々のことじゃ辞めない、肝の座ったやつを三人くらい入れてくれ」という内容だったことと、ここが和食業界でも有数の厳しい職場と知るのは、修業をはじめて、声なき悲鳴をあげた後のこと。
それから10年。一日たりとも休まず勤務を続けたおかげで、技術はいまいちだが、忍耐と精神力だけは誇れるようになった。親方には感謝しかない。
出だしは婚活であったのに、これを書いている時点で未だ独身の私は、「どこで間違ったのかなあ」と、たまにちいさくつぶやくのだが、後悔はないし、良い馬鹿っぷりだったと書き終えて思う次第である。
 
 
 
 
***
 
この記事は、天狼院書店の大人気講座・人生を変えるライティング教室「ライティング・ゼミ」を受講した方が書いたものです。ライティング・ゼミにご参加いただくと記事を投稿いただき、編集部のフィードバックが得られます。チェックをし、Web天狼院書店に掲載レベルを満たしている場合は、Web天狼院書店にアップされます。

人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜

お問い合わせ


■メールでのお問い合わせ:お問い合せフォーム

■各店舗へのお問い合わせ
*天狼院公式Facebookページでは様々な情報を配信しております。下のボックス内で「いいね!」をしていただくだけでイベント情報や記事更新の情報、Facebookページオリジナルコンテンツがご覧いただけるようになります。


■天狼院書店「東京天狼院」

〒171-0022 東京都豊島区南池袋3-24-16 2F
TEL:03-6914-3618/FAX:03-6914-0168
営業時間:
平日 12:00〜22:00/土日祝 10:00〜22:00
*定休日:木曜日(イベント時臨時営業)


■天狼院書店「福岡天狼院」

〒810-0021 福岡県福岡市中央区今泉1-9-12 ハイツ三笠2階
TEL:092-518-7435/FAX:092-518-4149
営業時間:
平日 12:00〜22:00/土日祝 10:00〜22:00


■天狼院書店「京都天狼院」

〒605-0805 京都府京都市東山区博多町112-5
TEL:075-708-3930/FAX:075-708-3931
営業時間:10:00〜22:00


■天狼院書店「Esola池袋店 STYLE for Biz」

〒171-0021 東京都豊島区西池袋1-12-1 Esola池袋2F
営業時間:10:30〜21:30
TEL:03-6914-0167/FAX:03-6914-0168


■天狼院書店「プレイアトレ土浦店」

〒300-0035 茨城県土浦市有明町1-30 プレイアトレ土浦2F
営業時間:9:00~22:00
TEL:029-897-3325



2022-09-08 | Posted in メディアグランプリ, 記事

関連記事