メディアグランプリ

ニューヨーク、おいてけぼり


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人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜

記事:松田Tommy(ライティング・ライブ東京会場)
 
 
あなたは「リアリィ?」って叫んだことありますか?
 
10年前の12月30日、私はアメリカのJ・F・K空港にいた。
この年は暦と勤怠スケジュールがうまく絡み、冬休みがいつもより長くとれた年。
私はニューヨークに行く、と決めていた。
一人旅は初めてじゃないけど、アメリカ、しかもニューヨーク、マンハッタンは初めての経験だった。マンハッタン。ちょっとだけ怖い。
それでも怖さより好奇心がまさり、ニューヨーク一人旅を決行した。
ちなみに英語は中学レベルだ。
 
12月のマンハッタンは寒かった。ベタな観光地を巡って小雪が舞う中街を歩き、甘くて口が曲がりそうなカップケーキを食べた。(実は嫌いじゃない)
映画やドラマの舞台になった建物や施設を廻り、ブロードウエイでミュージカルも見た。
タイムズスクエアではヨーロッパの観光客と写真を撮りあい、少しだけ話もした。
一期一会。旅の醍醐味だ。
 
マンハッタンの人は優しかった。
地下鉄でエラーになって出られなかった時、アワアワしていると2Mくらいありそうな強面の黒人のお兄さんがジェスチャーで「あっちから出て!」と教えてくれた。
観光船のチケットを落として探していたら綺麗な身なりのご婦人が拾って渡してくれた。ホテルの前のミニスーパーの中のお弁当屋さん(まいばすけっとにオリジン弁当があるみたいな感じ?)にはお世話になった。システムが分からなくて困っていたら手招きして説明してくれた。訛りの強い英語だからほとんど分からなかったが、気持ちが嬉しかった。
 
なのに、なぜ、帰りの空港で「リアリィ?」と叫ぶことになったのか。
 
十分楽しんで、さあ帰ろう、という日。
昼間、最後の観光と買い物を楽しんだ私は、一旦ホテルに荷物を取りに戻り、空港に向かう予定だった。ところが、最後にのんびりと海を眺めていたら、思った以上に時間が経っていたことに気が付いた。チェックイン最終まであと2時間。これはまずい。
 
年末のマンハッタンは大混雑だ。世界中から観光客が押し寄せる。
駅までの10分がまっすぐに歩けない。いつもの倍以上かかってしまった。
加えて年末の電車は休日ダイヤだったのだ。日本のように正確にはこない地下鉄がさらに全然来ない。時間がない。ごったがえす駅で一人焦っていた。あと1時間半。
さらに追い打ちをかけるように、現金がほとんどないことに気が付いた。地下鉄で空港最寄りの駅までいき、そこからはエアトレインというモノレールのようなものに乗るのだが、この料金は地下鉄と別料金なのだ。
そういえば、空港からマンハッタンへ行くエアトレイン乗り換え口で、一人の日本人に声を掛けられたことを思い出した。彼はたしか、「エアトレインに乗るチケット代がない。10ドル貸してくれないか」と言っていた。
その時は着いたばかりで現金もあまり持っていなかったし、何より怪しく感じて「ごめんなさい、お金無いんです」と断ってしまったのだった。
そうか、あのお兄さんはこういう状況だったのか。いまさら理解した。
お兄さん、あの時はゴメン。もしあの時に戻れたら喜んで貸すよ。
 
しかし、とにかく空港につかねばならない。それも大急ぎで。そしてお金も。
かばんと財布をあさり、なんとかチケット代を確保した。この時点で残金1ドル。とりあえずこれで空港には着く。
 
やっと着いた空港は見たことないくらい大混雑だった。さすが大都市ニューヨーク。多種多様な人が騒めいていた。しかもみんな引っ越しですか?てくらい大荷物だ。
あと10分。
チェックインカウンターを探し、列に並ぼうとしたが、東京行きがどこだか分からない。そしてどこも長蛇の列。これは本当にまずい。
制服をスタイリッシュに着こなすお兄さんに適当な英語と日本語で「ジャパン!トウキョウ!どこ?」と叫ぶ。彼は手をひらひらさせながら「あっちよ~」と言った気がするのでとりあえず並ぶ。アナウンスがひっきりなしに聞こえてくる。しかし周りもうるさく、何をいっているのか全然聞き取れない。英語中学生レベルだし。
並んでいたら「ここはビジネスオンリー! あっち!」と今度はファットなお姉さんに怒られた。(ような気がする)おかしい、マンハッタンの人はみんな優しかったのに、ここは殺伐としている。
仕方なく、おそらくここだろう、というカウンターに並びなおす。もう時間切れ2分前。
しかし列は全然進まない。
実はこの時点でも若干、楽観視していた。以前日本の小さい空港で、カウンターの列がさばききれなくて大勢チェックインできず、搭乗時間を過ぎても乗れたことがあったのだ。
大丈夫かも。そんな淡い期待を胸に順番を待った。もう時間だ。あと3人。
前の人の様子を観察する。カウンターの女性はどこかに電話をしていた。もしかして搭乗口に「まだ乗る人いるから! 待って!」と連絡しているのではないか。可能性はある。奇跡を待とう。
 
ついに順番が来た。女性はチケットを見るなやいなや、「もう乗れない」と私に告げた。
「時間を過ぎている」と。「なぜ、オンラインチェックインしなかったのか?」と。
笑顔もなく、あっさりと。
 
淡い期待は打ち砕かれた。財布には1ドル、手には紙屑チケット。
私はありったけの声で叫んだ。
「リアリィ?」
どうして? このカウンターで待て、待てば乗れるってさっきお兄さんに聞いたし、念のためオンラインチェックインできないか空港職員にも確認したら出来ないって言われたし!
そんなことを日本語で捲し立てた。しかしどうにもならず、紙くずチケットと1ドルだけの私はJ・F・K空港で放り出されたのだった。
 
隣で同じように乗り過ごしたらしい日本人女性がこちらを見て笑いながらこう言った。
「ウエルカム、ニューヨーク! アメリカはこういう国よ。」
まるで映画のようなセリフ。思わず笑ってしまった。
ああ、そうか、と思った。ここは日本じゃない。これがアメリカ、ニューヨークなんだ、と。
 
散々な目にあったが、それでも私はアメリカ、ニューヨークが好き。
機会があればまた行きたいと思う。今度は時間に余裕を持って。

 
 
 
 
***
 
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2022-09-14 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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